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茨を切り開く方法とは?

「いやあ、重ね重ね申し訳ない。よければ代わりに話だけでも聞くが、どうする?」

 苦笑いしているジャックさんの言葉に、ギルドマスター達は揃って頷いた。

「そうだな。ジャックから後程彼女に話してやってくれ」

 そう言って、先ほど彼女を寝かせたソファーの横にある、もう少し小さめの向かい合わせに置かれたソファーに並んで座る。

 しかしギルドマスター三人が並ぶと、はっきり言って俺達の座る場所が無い。

 諦めて立ったままにしようかとソファーの後ろへ回ろうとしたら、手の空いていた職人さんが三人分の丸椅子を持って来てくれた。

 俺達が座るには若干小さい気もしたがお礼を言って受け取り、ハスフェル達と並んでソファーの横に椅子を置いて座る。

「おお、小さいのにすっごくしっかりしてて座り心地がいいぞ」

「確かに、座面は小さいのに、すごくしっかりしていて安定性も良いぞ」

「さすがだな。もしかしてこれも手作りか?」

 ハスフェルとギイもそう言って自分の座っている椅子を覗き込んでいる。

「おう、これはうちの工房に来た新人が一番最初に作る椅子だよ。どれもなかなか良い出来だろう」

 自慢げなジャックさんの言葉に、俺達は揃って拍手したのだった。

 いやあ職人って本当に凄いね。

 そのあとギルドマスター達が改めてここへ来た目的である、あの飛び地へ入る際の結界とも言える硬い茨を切り開くための道具をなんとか考えてもらえないかって事を詳しく説明した。

「なんだって?ヘラクレスオオカブトの剣で力一杯切りつけても傷くらいしか付かない? それは本当に植物か?」

 真顔のジャックさんの言葉に、俺達も苦笑いしつつ頷く。



 そしてその時、俺は異変に気が付いた。



 さっきまでは賑やかに作業する音が聞こえていたのに、何故か工房内が水を打ったみたいに静かになっているのだ。

 しかも、隣のソファーから聞こえていた、フクシアさんの気持ち良さそうな寝息までが消えている。

「ええと……」

 何やら異様な気配を感じてゆっくりと振り返ると、何と工房にいた職人さん全員が手を止めてこちらを凝視していたのだ。

 全員が無言の真顔。しかもそのうちの何人かは、ハンマーやペンチナイフなどの道具を握りしめたまま。

 いや、冗談抜きで怖いって!

 仰け反る俺に構わず、職人さんのうちの一人が駆け寄ってくる。

「ヘラクレスオオカブトの剣でさえも傷程度しかつけられないとなると、ただの刃物では太刀打ちできんぞ」

「お前ならどう考える」

「ふむ、ノコギリのように歯をつけて切るか、或いは加熱して切断するか……」



「それなら絶対火炎放射器よ!」



 いきなり聞こえたフクシアさんの叫ぶ声に驚き、仰け反っていた俺はそのまま後ろにひっくり返った。

「どわあ〜!」

 咄嗟に飛び跳ねて逃げ、何とか無様に尻餅をつくのだけは免れたよ。

「ああ、びっくりした」

 もう、今日は本気で俺の心臓を止めにきている日なのか?って言いたくなるくらい、ここに来てから驚く事だらけだ。

「たとえどんなに硬くても、元は植物なんでしょう? それならこの前私が開発した小型の火炎放射器で焼き払えばいいわ!」

 先ほどまで熟睡していた人とは思えないくらいに、目を輝かせて物騒な事を嬉々としていう彼女にドン引きしつつ、さすがに森で火炎放射器は洒落にならないだろうから何と言って止めようか真剣に考える。

「いや待て。火はまずい。すぐ横には深い森があるんだから、飛び火する危険がある強い火は厳禁だ」

「ええ、駄目?」

「駄目だ!」

 俺が止める前に、真顔のハスフェルが止めてくれました。

「ええ、畝焼き用の移動式の火炎放射器を軽量化したのがあるんだけど駄目かなあ」

「絶対に駄目だ!」

 ハスフェルだけでなく、俺とギイとギルドマスター三人の声も重なる。

「ええ、そんなに皆して否定しなくてもいいじゃない」

「お前は無茶を言うな。恵みを与えてくれる森を焼き払って何とするか!」

「うう、確かにそうね。じゃあこれは駄目か……となると、やっぱりどうにかして切断する方法を考えないと……」

 腕を組んで立ったまま考え始めたのは彼女だけではない、見るとあちこちで職人達がほぼ全員揃って真剣に考えている。

「無茶な事を言われると燃え上がるのは職人のサガだよ。まあ何か考えるからしばらく待ってくれるか」

 苦笑いするジャックさんの言葉に頷きかけた時、一つ閃いた。

「ああそっか、チェーンソーは無理でも、丸歯にして草刈り機みたいに水平に回転させれば切れるんじゃね?」

 ごく小さく呟いた瞬間、いきなりがっしりと左右から腕を掴まれた。

「ケンさん、今何を言ったの? 丸歯って何?」

 フクシアさんが、真顔で俺の腕を掴んで顔を寄せている。

「聞こえてたのかよ!」

 思わずそう叫ぶと、反対側からジャックさんも俺の腕を掴んで顔を寄せてきた。

「その丸歯とやらについて詳しく聞かせてもらおうじゃないか。草刈り機だって?」

「いや、あの、その……」



 さすがに前の世界の道具の事をここで話すのはまずかろう。それに、そもそも使った事はあっても内部の詳しい構造なんて知らないって。

 ちなみに丸歯の回転式の草刈機は、新人の頃に応援で行った改装中の店舗の倉庫が草ぼうぼうになってて荷物を置く場所が無くて、店長に許可をもらって急遽草刈りタイムになった時に使ったんだっけ。

 初めて使う草刈機は最初のうちこそ怖かったけど三十分もしたら面白くなってきて、結局、倉庫内だけじゃなく、倉庫周りの草刈りまで全部終えたら、何故だかスタッフさん達にめっちゃ有り難がられたんだっけ。

 何でも藪蚊が大量発生していて、誰も嫌がって草刈りをしなかったらしい。

 俺、実を言うと蚊にあまり刺されないタイプ。

 ひと夏で数個刺されたら話のネタにするくらいに本当に刺されない。歩く虫除けスプレーなんて学生時代は言われたりもした。なぜ刺されないのかは俺にも分からないよ。

 なので、周りにブンブン蚊が飛んでいても全然気にしない。



 過去の記憶に現実逃避しそうになった時、オンハルトの爺さんの笑った声が念話で届いた。

『何やら案があるようだな。それなら俺との会話でそんな道具があれば良いのにって話をしたと言っていいぞ』

 助け舟を寄越してもらったので有り難く乗っからせて頂く。

「ええと、オンハルトの爺さんとの会話で、こんなのがあれば良いなって言ってたんだけど……」

 って事で、身振り手振りを交えつつ、円盤の外周にノコギリ状の歯を刻んで、その円盤を回転させて物を切る、という構造を簡単に説明した。

 フクシアさんとジャックさんだけでなく、気付けば他の職人さん達までが揃って俺達の周りに集まり、身を乗り出すようにして真剣な様子で俺の話を一言も聞き漏らすまいって感じに聞いていたのだった。

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