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ヴォルカン工房の作業場にて

「……ここにいても仕方がないから、とにかく中に入ろう。所長を紹介するよ。いや、本当にすまんかった」

「ああ……そうですね。じゃあ爺さん、悪いけど見張っててくれるか」

 ヴァイトンさんとエーベルバッハさんが、眠り込んでしまった彼女を二人がかりで板の上に乗せて運んで行った扉を、俺達は揃って見送ったままその場に立ち尽くしていたのだ。

 ようやく我に返ったガンスさんの声に、俺もなんとか答えてマックスの首から手を離した。

「ご主人。先程の女性ですが、確かにびっくりしましたけど、彼女からはちっとも嫌な感じはしませんでしたからね。あの、カデリーの街で我々に触って大はしゃぎしたお店の人がいたでしょう。我々を見てそれはそれは大喜びしてくれた。ちょうどあんな感じに見えましたよ。だから別に怒ってませんから、もうお気になさらず」

 笑ったマックスがそう言ってくれたので、俺はもう一度首元に抱きつき、むくむくな抱き心地を満喫してから手を離した。

「そっか、ありがとうな」

 そう言って鼻先を撫でてやってから、俺はガンスさんを振り返った。

「ガンスさん。マックスが彼女からは全然嫌な感じはしなかったって言ってます。だからビックリはしたけど怒ってないそうですよ」

「おお、そうなのか。そりゃあ良かった。だが失礼した事には変わりはないからな。後ほど起きたらしっかり説教しておくよ」

「俺はもう気にしてませんのでお構いなく。どっちかって言うと、彼女にはちゃんと寝ろって説教すべきだと思いますね、寝不足は美容にも悪いんですよ」

 苦笑いしながら、俺達は揃って建物の中へ入って行った。

 建物の扉を入ったところで振り返ると、オンハルトの爺さんは椅子を取り出して厩舎の日陰部分で寛いでたよ。




 ガンスさんについて廊下を通って大きな部屋へ入る。

 そこは共同の作業場みたいになった広いスペースで、等間隔に置かれた大きな机では大勢の職人さん達が、さまざまな作業をしていた。

 机の上にはさまざまな道具や材料らしき素材が置かれ、何かの革の切れ端が足元に飛び散っている。

 ちょっと興味があって覗いてみたんだけど、見ただけではいったい何なのかすらさっぱり分からない作業をしていたよ。



 板切れや何本もの丸太が、扉横の壁際に置かれた大きな棚に無理矢理みたいにぎっしりと突っ込まれているし、反対側の棚にはさまざまな素材の革が、これまたぎっしりと詰め込まれていた。

 奥の壁面は一面に大小さまざまな大きさの引き出しが並んでいて、そこから釘や針金をはじめとした細々とした道具の数々を、手に持ったトレーに真剣に数えながら取り出している人が何人もいた。



 何をしてるのかちょっと聞いてみたかったんだけど、どの人も真剣に作業をしているので迂闊に声をかけることすら躊躇われるレベル。素人は大人しく見学することにします。



 大きな窓が並ぶその部屋はとても明るいんだけど、机の上にはデスクライトみたいな手元を照らす照明器具が各机にいくつも置かれていて、作業をするそれぞれの職人さんの手元を照らしていた。

 また、窓際の明るい場所に作られた開けた作業場所では、賑やかに金槌を振る音がリズム良く部屋中に響いていた。

 その奥にある壁面には、巨大な金槌をはじめとした大きな道具達が整然と並べて掛けられているし、その下に置かれた細長い机の上には、ドライバーやペンチのような見慣れた道具から、一体何に使うのかすら俺には全く分からない、さまざまな道具達が所狭しと置かれていた。

 道具も素材も大量にあるのだけれど、どこも綺麗に整理整頓されているので、何かしようと思ったらすぐに欲しいものが取り出せそうだ。

 それは一言で言えば、もの作りの熱気そのものがぎゅっと詰まったような部屋だったのだ

 こういった物作りには全くの素人の俺でさえすごく楽しそうだと思うのだから、きっともの作りに携わる人が見れば、きっとここは理想の環境なのだろう。



「おやおや、ギルドマスターがお揃いでお越しとは、一体何事だ?」



 部屋に入ったところで立ち止まっていると、いかにもドワーフの職人さんって感じの人が俺達に気付いて駆け寄ってきてくれた。

 ヴァイトンさんとエーベルバッハさんは部屋の奥に置かれた大きなソファーから戻って来たので、どうやら彼女をそこのソファーに寝かせてきたみたいだ。

「おうジャック、いつもご苦労さん。いやあ、実はフクシアに少々込み入った話があって来たんだがなあ。ちょっとタイミングが悪かったようだな」

 笑ったガンスさんの言葉に、ジャックと呼ばれたそのドワーフの職人は、慌てたようにさっきのソファーを振り返り、それから俺達を振り返り、もう一回ソファーを振り返ってから大きなため息を吐いた。

「叩き起こしてくるから待ってろ」

 そう言って本当にソファーに向かって走り出したものだから、俺は慌ててジャックさんの腕を掴んだ。

「待ってって。って何だよこの腕、鋼鉄製かよ。ハスフェル並みの太さだぞ」

 片手では掴み切れない程の太さに本気で驚く。

「褒めてくれてありがとうよ、人間の兄さん……何だ? あんた魔獣使いか?」

 左肩に留まったファルコや鳥達を見て、驚いたジャックさんがマジマジと俺を見つめる。

 いや、部屋に入った時点でファルコに気付いてなかった方が驚きだよ。

 誤魔化すように笑って頷く俺を見て、ジャックさんはガンツさんを振り返った。

「もしや、ハンプールの英雄か?」

 にんまりと笑って頷くガンツさんをみたジャックさんは、目を輝かせて大きく頷いた。

 そしていきなり大声で叫んだのだ。



「おいフクシア! お前の憧れのハンプールの英雄の訪問だぞ! 今すぐ起きろ! 寝てる場合か!」とね。

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