ギルドマスター達と俺の密かな心配
「ふう、やっぱりお肉は美味しいねえ」
串焼きの塊肉を完食したシャムエル様は、ゲップなんかしつつそう言って、おかわりの麦茶を一気飲みした。
「ごちそうさま。ご飯が美味しいっていいねえ」
空になったグラスを一瞬で収納したシャムエル様は、最後のおにぎりを食べている俺の腕によじ登ってきた。
「何、肩に乗りたいのか?」
一瞬で移動できるくせに、時々こんなふうにわざわざ移動してくる時がある。
手のひらに乗せてやり肩の上に移動してやると、嬉しそうに笑って俺の頬を叩いた後、そのまま座って早速尻尾のお手入れを始めた。
「相変わらずフリーダムだなあ」
苦笑いしてそう呟くと、鞄から出てきたスライム達が汚れた食器を綺麗にしてくれるのをノンビリと眺めていた。
「さてと、それじゃあちょっと行ってこよう。ハスフェル達はどうする?」
集まってアクアゴールドになったスライム達が、俺の鞄に入って小さくなって定位置に収まる。それを見てから鞄の口を閉めて背負った俺は、同じく後片付けを終えて寛いでいたハスフェル達を振り返った。
「せっかくだから、ご一緒させてもらうよ。あのギルドカードに使われている技術を開発したほどの人物なら、会っておいて損はあるまい」
立ち上がったハスフェルの言葉に頷き、ギイとオンハルトの爺さんも続いて立ち上がる。
「ええと、じゃあ従魔達は……」
「まあ、騎獣とあとは鳥達くらいでいいんじゃないか。もしも他を見たいと言われたら、また次の機会に順番に紹介してやればいいさ」
「だな、じゃあマックス、よろしく」
今の俺の左肩には、ファルコと小さくなってるセキセイインコのメイプルが並んで留まっている。
そして腕に、モモイロインコのローザと真っ白なオウム、キバタンのブランがしがみつくようにして留まっている。一応聞いてみたが、こんな体勢でも全然問題無いらしい。
「じゃあ、お空部隊と一緒に行くか」
「それなら私達も行きま〜す!」
そう言って跳んで来たのは、ラパンとコニーのウサギコンビとモモンガのアヴィだ。確かに、こいつらなら小さくなった時の定位置がマックスの首輪に取り付けたカゴの中だものな。
「皆が行くなら、私も連れて行ってください〜い!」
そう言って飛んで来たのはミニラプトルのプティラだ。今は小さくなっているので、マックスの首輪に捕まっていればこれも問題無さそうだ。
「いいんじゃないか。これだけいれば、もしも見せて欲しいって言われても従魔達を紹介出来るよな」
順番に撫でてやり、他の子達には宿泊所で留守番をしていてもらうことにした。
「私達は、皆さんの後をついて行って、勝手に見学させて貰いますね」
笑ったベリーの声に手を挙げて、俺達はまずは隣にある冒険者ギルドへ顔を出しに向かった。
「おお、来たか。それでは行くとしようか」
ちょうどカウンターの奥でギルドマスター達が揃っていたみたいで、俺達が入って来たのを見て、三人揃って立ち上がった。
「それじゃあよろしくお願いします」
引いてきた馬にそれぞれ乗る三人を見て、俺達も自分の従魔に乗った。
「改めて見ても、本気で信じられんな。ハウンドが二匹に恐竜にエルクだぞ」
「他にもいろいろとんでもないのを山ほど連れておったからなあ」
「しかしまあ、実際にああやって大人しく従っているのだからなあ」
俺達が背後について進んでいると、チラチラと後ろを振り返りながらの三人が交わしている内緒話が聞こえてきた。
まあこれもシャムエル様のおかげ。
目も耳もよく見えるし聞こえるんだよなあ。
「しかし、無茶な事するような奴じゃなくて安堵したよ」
「だよなあ。あれだけの従魔がいれば、本気で悪事を働かれたとしても到底そこらの冒険者程度では太刀打ち出来まい」
「いい人みたいで良かったなあ」
「全くだな」
ギルドマスター達は、俺達には聞こえていないと思って普通に会話してるんだけど、俺達全員、目も耳もめっちゃ良いから全部まる聞こえっす。
こっそりと目を見交わして苦笑いする俺達だったよ。
「でもそうか、強力な従魔を複数連れた人がもしも犯罪者だったりしたら……最悪だな」
「従魔達は、主人が命令すれば従うだろうしね」
今はマックスの頭に座ったシャムエル様の言葉に、頷いた俺は小さな声でそう言った。
「それって止める方法は無いのか?」
「ううん、だけどあくまでもそれは個人の行動の範疇だからね。そこまで私が手を出すのはちょっと違う気がするねえ」
ちっこい腕を組んだシャムエル様が、困ったようにそう言って首を振る。
「そっか。確かに言われてみればそうかもな。まあ、もしもそんな奴が出れば……うわあ、もしもそんな事態になれば、違いなく俺達に討伐の依頼が来るんじゃね?」
「だな。しかも指名依頼だから断り辛いぞ」
苦笑いするハスフェルに言われて、俺は本気で泣きたくなった。
「俺は絶対そんな指名依頼はお断りだからな!」
思わず声にしてそう叫ぶと、前を進んでいたギルドマスター達が揃って振り返った。
「おいおい、一体何事だ?」
ガンスさんの心配そうな声に、我に返った俺は慌てて謝ったよ。
「ああ、すみません。ちょっとこっちの話です。気にしないでください」
焦る俺の言葉に、不思議そうにしつつも前を向くガンスさん達。
「魔獣使いが増えるのは大歓迎だけど、出来ればそういう奴には魔獣使いにはなって欲しくないよなあ」
俺の呟きに、シャムエル様が心配そうに俺を見ている。
「ううん、どうするのが良いのかなあ」
またちっこい腕を組んで何やら考え込んでいる。
「もちろん、盗賊や悪意を持った誰かに襲われた時に、従魔達が戦ってくれるとありがたいと思うよ。だけど人が行う悪事に従魔を巻き込むのは、正直言ってやめて欲しいと思うな。従魔達は皆、主人のことがもれなく大好きだからなあ。それがどんな内容であれ命令されれば従っちまうだろうからさ」
「ああ、そうか。そのやり方ならある程度は防げそうだなあ」
何やらぶつぶつとつぶやいていたが、いきなり顔を上げてうんうんと頷いた。
「よし、上手い方法を思いついたからちょっと後で考えておくね。この世界の理に、この指示を織り込んでおけばいいだけだからね」
自信あり気に胸を張るシャムエル様をみて、俺は小さくため息を吐いてこっそり拝んでおいたよ。
出来るだけ従魔達が、主人のせいで嫌な思いや悲しい思いをしませんように、ってね。