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まずは昼食だね

「それじゃあこれで注文分は全部だな。確認してくれるか」

 結局、今回の注文分はハスフェル達三人の持ち分で足りたらしく、俺はセンティピートの殻以外は参加しないままに終わってしまった。ちょっと残念。次回のお楽しみだね。

 素材の鑑定にちょっと時間がかかるらしいので、それぞれに預かり表をもらって今日のところは一旦解散になった。



「それじゃあもしかして、今から噂のヴォルカン工房へ行くんですか?」

「まずは昼飯だな。食ったらちょっと行ってくるよ」

 冒険者ギルドのギルドマスターのガンスさんの言葉に、商人ギルドのギルマスのヴァイトンさんとドワーフギルドのギルマスのエーベルバッハさんも苦笑いしつつ頷いている。

「へえ、それならお邪魔でなければ俺もご一緒させてもらっても構わないですかね? いや、単なる好奇心なんですけど。そんな大発明している工房ならちょっと見学してみたいです」

 駄目って言われたら諦めようと思っていたんだけど、それを聞いたガンスさんは笑顔で頷いてくれた。

「もちろん構わないぞ。彼女もケンさんが誰か知れば大歓迎してくれるのは間違いないな」

「ありがとうございます。それじゃあ俺達は宿泊所で飯を食ってきます……」

 お礼を言って宿泊所へ戻ろうとした足が止まる。

「ええと、ガンスさん。今彼女って仰いました?」

 同じく足を止めていたハスフェル達も目を見開いている。

「おう、そうだよ。女性だが能力に性別は関係ないぞ。とにかく発明マニアで道具狂い。なんとかと天才は紙一重ってよく言われとる御仁だ」

「紙一重って……」

 呆れたようにそう呟く俺に、ガンスさんは豪快に笑った。

「まあ、悪い奴じゃない。それは保証するよ。ああ、行くなら従魔はちょっと減らしたほうが良いと思うぞ。あそこの工房は厩舎が狭い上に、工房の中も道具が溢れておって兎に角狭いからな。おそらく全員は入らんのじゃないか?」

「あれ、そうなんですね。了解です、じゃあ従魔達には宿泊所で留守番しててもらいます」

「少しは連れて行ってやれ。おそらく従魔達を見たがると思うからな」

「分かりました。じゃあ厳選して連れて行きます」

 笑った俺は改めてそう言うと、部屋のすみに団子になって寛いでいた従魔達に駆け寄った。

「お待たせ、昼を食うから一度宿泊所へ戻るぞ」

 起き上がったマックスの首元を叩いてやり、フュンフさんに改めてマックスの首輪につけた従魔達用のハンガーネットやニニの首輪やシリウスに乗せている鞍も順番に見せてやった。

 それから最後の俺の左肩に取り付けている止まり木も見せてから、宿泊所へ戻った。

 フュンフさんは、目を輝かせてフォルトさんの作品を見ていた。

 そして何度も何度も小さな声で、良い仕事だ。相変わらずの腕前だって、嬉しそうに呟いていたよ。






「さてと、それじゃあ時間も無いし作り置きでいいな」

 そう言いながら適当に作り置きを取り出して並べ、それぞれ好きに取って食べ始める。

 俺は、師匠が作ってくれた丼物がまだあったのを思い出して、親子丼にしてみた。

 小鉢に酢の物とおからサラダ以外に肉の串焼きを二本も取ったのは、シャムエル様が串焼きの横で自己主張していたからだよ。

 飲み物は、まだ昼間なのでビールはやめて麦茶にしておく。

 いつものように簡易祭壇に俺の分の料理を並べる。

「お昼は、師匠作の親子丼だよ。小鉢はきゅうりとわかめの酢の物とおからサラダ、それから串焼き肉も付けました。少しですがどうぞ」

 いつものように、収めの手が俺を何度も撫でてから料理を順番に撫で、最後にお皿ごと持ち上げる仕草をしてから消えていった。



「お待たせ、それじゃあ食べようか」

 料理を席に戻して俺も座る。

 お茶碗サイズのお椀を両手で持ち、カリディアにグラスと小皿を持たせたシャムエル様が、俺が座るなり机の上でステップを踏み始めた。

 グラスと小皿を持ったカリディアも当然のように一緒にステップを踏み始める。

「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ! あじみ!」

 これまたいつもとちょっと違う味見ダンスの歌とともに、目にも止まらぬものすごい速さでステップを踏むシャムエル様とカリディア。

 食べかけたハスフェル達も、思わず手が止まるくらいの見事なダンスだ。

 まるで二重写しの映像みたいに、激しい動きにも全くずれずにピタリとくっついたまま踊り続ける。

 最後だけは左右対称にポーズを決めてフィニッシュだ。

「お見事〜〜〜〜!」

 冗談抜きで、見応えのあるダンスだった。俺だけじゃなく、ハスフェル達も笑顔で拍手をしていた。

「ううん、今日はなかなか上手く踊れたねえ。これはカリディアの故郷で踊っていたダンスを元に、二人で考えたんだよ」

 得意気に胸を張るシャムエル様とカリディアに、俺達はもう一度盛大な拍手を贈ったのだった。




 そしてシャムエル様に串焼き丸ごと一本と親子丼も半分は余裕で持っていかれてしまった俺は、諦めのため息を吐いて追加のおにぎりを取りに行ったよ。

 最近のシャムエル様の食う量が、どう考えてもおかしい気がする。

 あれって絶対、体全部の体積よりたくさん食ってるよ。腹の中ってどうなってるんだ。もしかして四次元胃袋なのか?

 ご機嫌で串から外した肉を齧ってるシャムエル様のもふもふ尻尾を苦笑いしつつ突っつきながら、ただ働きだったカリディアに、俺はこっそり果物を取り出してやったのだった。

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