大騒ぎと冷静な突っ込み
「俺に作らせてくれ〜〜〜〜〜!」
部屋にいたほぼ全員の大絶唱とドン引きする俺。
すぐに返事をしなかったものだから、その直後に何故か全員が同時に、自分の腕前がいかに良いかをプレゼンし始めたのだ。多分今までに作った物とかを言ってるんだと思う。
だけどゴメンよ。
残念な事に全員が同時に喋ったものだから、俺には全く聞き分けられずに単なる雑音状態。
シャムエル様から識別の耳の能力も授かってるはずなんだけど、今はそれは働いてくれなかったらしく、全員の言葉を聞き分けるなんて賢者のようなことは全く出来ませんでした。
全く無反応の俺を前に、戸惑う一同……。
しばしの居心地の悪い沈黙の後、フュンフさん以外に一人だけ自己アピール戦に参加せずに後ろで見ていた冒険者ギルドのギルドマスターのガンスさんが、思いっきり手を打ち鳴らした。
パーンと一回だけ、小気味よい音が部屋に響き渡る。
「お前らは全く……ちったあ落ち着け。レア素材の武器と防具と聞いた途端に目の色を変えおってからに。逸る気持ちは分かるが、依頼主を怯えさせてどうする」
大きなため息とともに呆れたようにそう言って、先程まで左右に座っていて今は立ち上がっていた商業ギルドのヴァイトンさんと、ドワーフギルドのギルドマスターのエーベルバッハさんの頭を遠慮なく両手で思いっきり引っ叩いた。
パッカーン! パッカーン!
って感じに、これまたいい音が部屋中に響き渡る。
直後に誰かが吹き出した途端に連鎖的に笑いは広がり、最後は俺達まで一緒になって大爆笑になっていたのだった。
「痛い! いきなり何しやがる!」
「痛ってえ! 何しやがる!」
叩かれた頭を押さえて涙目になりつつ顔を上げたヴァイトンさんとエーベルバッハさんが、ガンスさんに向かって揃って大声で怒鳴る。
「調子に乗って騒ぐ職人達を諌める役のお前さん達が、一番に張り切って一緒になって騒ぐとはどういう了見だ。全く。いい加減自分の立場ってもんを弁えろ。お前らはもう、一介の職人ではなくギルドマスターなんだからな!」
「お、仰る通りっす……」
「うう、全くもってその通りっす」
どうやらガンスさんがこの三人の中では先輩役になってるみたいで、今のは完全に調子に乗った後輩達を叱る先輩の図だよ。
正面から叱られてぐうの音も出ないヴァイトンさんとエーベルバッハさんを横目に見て、ガンスさんはもう一度大きなため息を吐いた。
いやあ、相変わらず物凄い肺活量だねえ。
「悪かったなケンさん。こいつらには後でみっちり説教しておくから許してやってくれるか」
改めてガンスさんに言われて、俺はもう笑うしかない。
「無茶な事言って大変失礼しました!」
「すみませんでした!」
「すみませんでした〜〜〜!」
ヴァイトンさんとエーベルバッハさんの言葉に続き、そう言って一斉に頭を下げる職人さん達。
「あの、もういいですからどうぞ頭を上げてください。まあこれだけのレア素材ですからねえ。そりゃあ職人さん達にしてみれば、作ってみたいと思うのは当然ですって」
「そう言ってもらえると気が楽になるよ」
「全くだ。いやあ本当に大変失礼した」
苦笑いするヴァイトンさんとエーベルバッハさんを見て、俺はちょっと考える。
「ええと、それならいい機会だからちょっとお尋ねしますが、俺には職人さんの仕事の事とかは全く分からないんですが、ヘラクレスオオカブトの剣をフュンフさんにお願いするのはもう決めているんですが、それ以外のこれらの武器や防具を作ってもらうとなると、誰に依頼すれば良いとかってあったりしますか?」
職人さんを目の前にして聞くのもなんだけど、俺は防具職人さんには一切伝手がないんだからここはギルドマスター達を頼るのが正解だよな。
「ああ、それならこちらからそれぞれ一番良いと思われる職人を厳選して推薦させてもらおう。後日改めて商人ギルドで相談しようじゃないか」
「よろしくお願いします」
エーベルバッハさんの言葉に俺は笑って頷く。
どうやら、一つずつ別の職人さんに依頼する事になるみたいだ。
でも考えてみたら同時には作れないんだから、これだけの種類を一度に頼むなら複数の職人さんに依頼するのは当然か。
納得して他に何か頼めそうな素材がないか考える。
「ああ、これでナイフも作れるって言ってたなあ」
そう呟いて鞄に入ってるアクアから取り出したのはキラーマンティス、つまりかまきりの鎌だ。
「おお、良いのを持ってるじゃないか。それはよく切れるナイフになるぞ」
「ああ、やっぱりそうなんだ。じゃあこれもついでに頼もうかな」
ナイフはもともと一番最初にシャムエル様からもらったのも含めて複数持っているけど、こういう道具はいくつあっても構わないからね。
「お前さん、一体どれだけの素材を持ってるんだ。ちょっと改めて見せてもらいたいくらいだよ」
苦笑いするフュンフさんに、俺は笑って誤魔化しておいた。
「ところで、さっき言ってた飛び地へ行く時の茨の結界対策の道具の一件はどうなったんですか?」
話を逸らす意味もあって、ガンスさんにちょっと大きめの声で尋ねる。
「ああ、あとでヴォルカン工房へ行ってとにかく話だけでもしてみるよ。まあ、どうなるかは行ってみないと分からんが、恐らく大喜びで何か考えてくれるだろうさ」
何やら若干諦めの気配が漂うそのセリフに、逆にちょっとどんな職人さんなのか本気で見てみたい気がする俺だったよ。
うん、もちろん怖いからちょっと離れたところからね。