情報提供と彼らの悩み?
「ここがその、カメレオンカラーのジェムモンスターが出現する場所だよ」
指先で示したあの場所には飛び地の文字があり、その隣にちょっと歪んだリンゴとブドウの絵が描かれている。
なんだよハスフェル、可愛い事するじゃん。
真剣な表情で生唾を飲み込む彼らを見て、しかしハスフェルは首を振る。
「ただし、行けば誰でも入れるわけじゃあない」
「条件があるのか。鍵は一体何だ? 装備か? それとも何らかの貴重な素材かジェムか?」
「鍵?」
俺の呟きに、フュンフさんが真顔で頷く。
「そうだ、鍵だよ。このバイゼンにも少し遠いが一箇所だけ飛び地が確認されている。そこに入るには、高山で取れるミスリル鉱石が必要なんだ。ミスリル鉱石は鉱夫ギルドが管理しているから、そこへ行きたければ入場料の代わりに鉱夫ギルドに金を払ってミスリル鉱石を貸してもらうんだよ。そんな風に、どこの飛び地も入るために何らかの条件が必要なんだ。それで、そこの条件は何なんだ?」
真顔のフュンフさんの言葉に、ドワーフ達全員が身を乗り出すようにしてハスフェルを見つめる。
「具体的な条件は無い」
「そ、そんなはずはあるまい!」
拳を握って叫ぶフュンフさんに、ハスフェルが頷く。
「ただし、飛び地に入るのは簡単では無い。俺達の身の丈を遥かに超える高さにまで育った、人の腕よりも遥かに太い茨の茂みが絡まり合って覆い尽くしている結界を超えていかなければならない。その茨には武器の類はほとんど効かない。どれくらい固いかというと、ギイが持っている剣で彼の全力で数回斬りつけて、ようやく傷が入った程度だ」
ギイがいつも装備しているあのヘラクレスオオカブトの剣を見せると、全員の口から悲鳴のような呻き声が聞こえた。
ヘラクレスオオカブトの剣でさえ切り払えない茨の茂みを乗り越えないと、目的の飛び地に入る事さえ出来ない。それはつまり、俺達以外はほぼ間違いなく入れないのと同意語でもある。
「あ、貴方達はいったいどうやってその飛び地へ入ったんですか?」
「確か、鳥に乗って行っても飛び地には入れなかった筈だからな」
フュンフさんの言葉に続き、ガンツさんも腕を組んで考え込みながらそう呟く。
まさか、ギイが金色のティラノサウルスに変身して茨を踏み倒して進みましたっていうわけにはいかない。
どうするのかと心配しながら見ていると、ハスフェルはにんまりと笑って俺を見た。
「俺達には最強の魔獣使いがいますからね。彼は恐竜をテイムしています。プティラに巨大化してもらって茨を踏み倒してもらったんですよ」
『待った待った! ギイじゃあるまいし、あんな事プティラでも出来るのかよ』
『あれ? 知らなかった? プティラに最大級にまで大きくなって貰えば、さすがにギイほど簡単じゃあ無いけど、あの茨程度なら余裕で踏み潰してくれるよ』
慌てて念話でハスフェルに突っ込むと、シャムエル様の念話が割り込んできて、さも当然のようにそう教えてくれたよ。
『あれ、そうなのか?』
『そうだよ〜小さくてもプティラは恐竜だからね。持ってる力は桁違いだよ』
何故だかドヤ顔のシャムエル様にそう言われて、俺は部屋の隅に置かれた椅子に鳥達と並んで留まっているプティラを見た。
俺の視線に気付いたプティラが、甘えるみたいに小さく口を開けて翼を広げる。
俺が笑顔で手を振ってやると、プティラだけじゃなくてお空部隊が全員揃って同じく小さく口を開けて翼を広げて見せた。
もう一度手を振ってやると、我慢出来なくなったのか次々に飛んで来て俺の肩や腕に留まったりして遊び始めてるし、話題のプティラは机の上に降り立って、置いてあった依頼書に興味津々で角の部分を齧ろうとしている。
「こらこら、これは大事なものだから噛んではいけません」
笑いながらそう言ってやり、手を伸ばして順番に撫でてやった。
「へえ、懐いてるんだなあ」
フュンフさんの感心したような呟きに、話の途中だった事を思い出して慌てる。
「ああ、失礼しました。どうかお気になさらず」
焦る俺に構わず、ファルコが乗ってる左肩じゃなくて空いてる右肩に留まったモモイロインコのローザとセキセイインコのメイプルが、競い合うみたいにして俺の耳や顎の辺りに擦り寄ってきて甘えるように頭を擦り付ける。
「くすぐったいから、やめてくれって」
そう言いつつも、ニニやマックス達とは全く違う柔らかな羽毛のもふもふ感を密かに満喫する俺だったね。
話題のプティラはやっぱり依頼書が気になるらしく、まるで猫みたいに紙の下側を覗くみたいに頭を突っ込んだりし始めたよ。
「だから、これはおもちゃじゃあ無いって」
笑いながらプティラを捕まえておにぎりしてやる。
仲良くじゃれあってる俺達を見て、フュンフさんやギルドマスター達が顔を寄せて何やら相談を始めた。
「距離的には厳しいが行けない距離ではない。希望者を募ってキャラバンで行けば攻略は可能だろう」
「となるとやはり問題は、どうやってその茨の結界を超えるかだなあ」
「ヘラクレスオオカブトの剣でも簡単には切り払えないとなると……」
困ったように小声で相談している彼らを見て、別に行く時だけ俺達が手伝ってやればいいんじゃないのかと思ったんだけどハスフェルは真顔で首を振った。
『一度や二度ならともかく、俺達が毎回手伝うのは賛成しない。ここは彼らだけであの飛び地を攻略出来る方法を考えさせるべきだよ』
『そりゃあ確かに、毎回一緒に行ってくれって言われるのはちょっと面倒かも』
『いや、面倒とかそういうのではなく、彼ら自身で素材を確保出来る手段を持たせるべきだって言ってるんだよ』
『ああ、なるほど。確かにそうだな』
厳しいかもしれないけど、それも一理ある。
納得して彼らを見ていると、話が終わったみたいで頷き合った後に揃って大きなため息を吐いた。
「気は進まんがなあ……」
「どう考えても、作れるとしたらアイツしかおるまい」
ガンスさんとヴァイトンさんが揃ってそう言い、うんうんと頷き合っている。
しかも周りにいる他の職人さん達までが、何故だか揃って同じように困った顔になっていたのだった。
一体何事だ?