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相談開始!

「では改めて、予算の確保が出来た分でまずこちらが買い取りたいものはこれだけだ」

 冒険者ギルドマスターのガンスさんが、そう言って一枚の大きな紙を俺に差し出した。

「はあ、拝見します」

 両手で受け取って貰った紙を覗き込む。

 俺の左右に座ったハスフェルとギイも覗き込んできたので、見えやすいように机の上に置いてやる。



「何々、ハーキュリーズビートルの角が五十……ん? ハーキュリーズビートルって何だ?」

「おいおい、あれだけのものを見せておいて、今更しらばっくれて売り惜しみする気か?」

 呆れたようなガンスさんの言葉に少し考えて納得した。

「ああ、ハーキュリービートルってヘラクレスオオカブトの事か!」

 俺が手を打ってそう言うと、ガンスさんが驚いたように目を見開いた。

「何だ、知らなかったのか。ヘラクレスオオカブトってのは、かなり以前だが一部の冒険者や職人達が何故だかそう呼び出して広がった通称だよ。今ではそっちの名前が知られてるくらいだな。まあ俺達も両方使うが、それのように正式な依頼書の場合は出来る限り正式名で書くのが決まりだからな」

「へえ、これって依頼書だったんだ」

 小さくそう呟いて手にした大きな紙を見る。



「ええと、カメレオンビートルの素材が二百、前羽は二百、カメレオンスタッグビートルの角が百、カメレオンセンティピートの顎が三百と胴体はあるだけで、バタフライ各種の素材が各千枚。って事は、これは俺が出さなきゃだな」

 カメレオンセンティピートの胴体で売ってもいいのは俺が持っている二個だけだから、スライム達が入っている足元に置いた鞄から先に取り出して机の上に置く。意外に軽いその殻が、机に当たって軽い音を立てる。

 その瞬間、フュンフさん達が揃って悲鳴のような叫び声を上げた。

「ケンさん! そんな超貴重な素材を俺達の前で手荒に扱わないでくれ! 見ているこっちの心臓が止まるかと思ったぞ!」

 血相を変えたフュンフさんの叫びに、周りにいたドワーフ達までが揃ってものすごい勢いで頷いている。

「あれ、そうなんですか。すみません」

 思わず咄嗟に謝り両手でそのまま前に押しやる。出来るだけそっとね。



「それにしても驚いた。普通なら有り得ない量だな。本当に一体どこでそれだけの素材を……」

「もしかしてフュンフさんって、武器職人であると同時に冒険者でもあったりします?」

 不意に思いついてそう尋ねた。

 だって、普通はどれほど腕の立つ職人さんでもあそこまで素材の出どころを気にする事はないだろう。

 そのために冒険者達がいて、仕事としてあちこちからジェムや素材を集めて来るんだからさ。なのにあそこまで素材の出どころを聞きたがるって事は、恐らくだけど自分でも取りに行くつもりなんだろう。

 俺の言葉に一瞬口籠もったフュンフさんだったけど、苦笑いして頷いた。

「ああそうだよ。俺はバイゼンでは一応上位冒険者だ。職人には冒険者を兼業している者は多い。おおかたは素材や資金集めの為だったりするんだが、自分が作った武器や防具の出来栄えを確認するために冒険者になったって奴も結構いるよ」

「だからバイゼンは最強都市とも呼ばれておる」

 ガンスさんが自慢げにそう言って胸を張る。

「成る程。職人が冒険者並に強いんですね」

 感心する俺に、フュンフさんが笑って首を振る。

「もちろん、職人全員が冒険者ってわけじゃあないがな」

「そりゃあそうでしょう。全員強い冒険者だって言われたら、俺達ただの冒険者の立場がないですって」

「ケンさんが、ただの冒険者のわけあるまい」

 呆れたようなガンスさんの呟きに苦笑いしていると、左右に座っていたハスフェルとギイとオンハルトの爺さんが、次々に依頼書にあった素材を取り出して積み上げ始めた。

 それを見た職人さん達の口から悲鳴のような奇声がまたもれる。



「あ、有り得ねえ。ヘラクレスオオカブトの角にカメレオンカラーのビートルの角にセンティピートは顎だけじゃなくて胴体まで」

「その上バタフライの素材は、ゴールドにブルーレースにシルバーレースだと」

「有り得ねえ!」

「有り得ねえ!」

「有り得ねえ!」

 大丈夫かと言いたくなるくらいに同じ言葉をぶつぶつと呟いて顔を寄せるドワーフの職人さん達。

 困って見ていると、唐突に全員揃ってこっちを振り返った。

「さっきの話だが、頼むからどこで手に入れたのか教えてくれ!」

「なんなら情報料を渡すよ」

「お願いします!」

「教えてください!」

 職人さん達だけじゃなく、ギルドマスター達にまで揃って頭を下げられてしまい、俺達は困り果てて顔を見合わせた。



『なあ、飛び地の事は教えても構わないんだよなあ?』

 一応内緒話なので、トークルーム全開で話しかける。

『構わないさ。あそこに入れるかどうかは行く者達の技量次第だからな』

 にんまりと笑ったハスフェルの言葉に、俺は遠い目になる。

『あの鋼鉄並みの硬さで絡まりまくってた茨の茂みを乗り越えられた奴だけが、飛び地の恩恵を受けられるって訳か』

『そういう事だよ』

『分かった。じゃあその通りに話せば良いか?』

 ハスフェル達を見ながらそう尋ねると、頷いた彼が一瞬で大きな地図を取り出して机に広げた。

 全員の視線が地図に釘付けになる。



 彼が取り出した地図は、俺の目には見慣れた地図に見える。

 つまり俺の元の世界の技術で書かれたものに近い、とても正確な地図だ。

 それはつまりシャムエル様特製の地図って事だよな。さすがは神様だよな。

 しかし、彼らの様子を見ているとドワーフ達にはこっちで売っている程度の、あの雑な地図に見えているらしい。

 その地図を見ながら彼らはハスフェルが自分で書き込んでいる詳しい情報を見て感心していたのだった。

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