冒険者ギルドに到着!
「おう、朝から団体でのお越しだなあ。どうした?」
ドワーフの団体さん達と一緒に俺達が冒険者ギルドに到着すると、ちょうどカウンターの中にいたギルドマスターのガンスさんが笑いながらそう言ってカウンターから出てきてくれた。
当然、ハスフェル達が何か言ってくれると思っていたんだが、ギルドマスターは当然のように俺に向かって話しかけてくるし、ハスフェル達は素知らぬ顔でギイとオンハルトの爺さんの三人で顔を寄せて何やら真剣に話をしている。
「ええと、朝飯食いに行った広場で会いましてね。それでちょっと折り入った話がしたいんですけど。どこかお借り出来る部屋ってありますか」
諦めて俺がそう言うと、ガンスさんは驚いたみたいにドワーフの団体を振り返った。
「おい、フュンフ! お前らも抜け駆けは無しだぞ! 話をするなら、ギルド連合を交えてやれ!」
「抜け駆けだなんて人聞きの悪い事を言うな。俺達はただ、あれほどの数のメタルブルーユリシスの翅を一体何処で手に入れたのか教えて欲しいとお願いしただけだ」
先程の大柄なドワーフが、ガンスさんの言葉に眉を寄せて怒ったようにそう言って首を振る。
「それが抜け駆けだって言ってるんだよ。とにかくそう言う事ならちょっと待ってろ。間も無く皆揃う」
ガンスさんのその言葉が合図だったみたいに、まさにその時商人ギルドのヴァイトンさんとドワーフギルドのエーベルバッハさんが、二人揃って冒険者ギルドに入って来たのだった。
「おう、ケンじゃないか。おはよう。ちょうど良かった。早速連絡しようと思っていたところなんだ」
「おはようさん。実は全部を買い取るほどではないが、多少の資金の準備が出来たんでな。まずはあの昆虫の素材だけでも買い取らせてもらおうと思ってな」
満面の笑みのヴァイトンさんとエーベルバッハさんの言葉に、返事をしかけて止まる。
「あれ? 今、ガンスさん……フュンフって言いましたよね?」
それって、レスタムの街で革工房のフォルトさんに紹介してもらった、剣匠と名高い武器職人の名前だよね?
って事は、この怖い顔のドワーフが……?
「ああ、まだ名乗っていなかったな。失礼した。フュンフだよ。この街で武器職人と道具屋をやってる」
「ケンです。ええ? 武器職人が武器屋じゃなくて道具屋ですか?」
差し出された分厚い手を握り返しながら、失礼かとは思ったんだけど思わずそう聞いてしまう。
だって、ハンプールの街でもバッカスさん達が彼に武器作りを頼もうと思ってるって言ったら、それは素晴らしいって感心されたぐらいの武器職人さんだもんなあ。
それほどの人が武器屋じゃ無くて、わざわざ道具屋をやってるって言うなんて何だかちょっと不自然に聞こえたんだよ。
「この半年ほどでジェムモンスターの出現率がすっかり元に戻ったから、武器作りだけでももう充分にやっていけるんだ。だから、仕事が無くて苦しかった時期に日銭を稼ぐために始めた道具屋はもうやめても良いんだが、それはそれで便利だと言って利用してくれる人達もいるものだからやめるにやめれなくてな。今では道具屋は人を雇って経営をお願いしてるんだ」
俺の言いたい事が分かったみたいで、苦笑いしたフュンフさんが武器屋じゃなくて道具屋をやってる理由を教えてくれた。
「そっか、ジェムモンスターの激減でそれを狩るのを生業にしていた冒険者達の多くは失業状態だった。そうなれば当然武器や防具にお金をかけられない……フォルトさんも毎回値切られて大変だったって言っていたものなあ。あれ? じゃあ武器屋はやっていないんですか?」
「もちろん以前は武器屋もやっていたよ。だけどもうそこは手放してしまった。今はドワーフギルドと商人ギルドの紹介で武器製作の依頼を受けてる。自宅兼用の工房はあるが、店としては開けていないので鍛冶場と作業場があるだけだ。商談はどちらかのギルドで行ってるよ」
「ああ、成る程。そう言う事なんですね」
納得して俺が頷いてると、ガンスさんに背中を叩かれた。
「ほれ、立ち話も何だからとにかく奥へどうぞ。茶ぐらい出すぞ」
「あはは、そうですね。じゃあとりあえず奥へ行きましょう」
ガンスさんの後について、また増えた大人数で移動する。
一緒についてくる従魔達をフュンフさんはずっとチラチラと見ていた。
正確には、マックスとシリウスを。
「それじゃあ、話をしてる間はお前達はここにいてくれよな」
部屋の入り口横の広い場所に従魔達を全員集めてそうお願いしておく。
ニニとカッツェをはじめとする猫族軍団は、早速集まって早々に猫団子状態になってしまった。他の子達も好きに寛いでいるのを見て笑った俺は、側から離れないマックスの首元を手を伸ばして撫でてやった。
「なあケンさん、ちょっと聞いても良いか」
背後から声がして、マックスを撫でていた俺は、予想通りの人の声に笑顔で振り返った。
そこには予想通りにフュンフさんが立っていてマックスとシリウスを見つめていた。正確には、その背中に装着している、馬用よりも相当巨大なあの鞍をね。
「良いですよ。どうしたんですか?」
「その、ハウンド達が背に乗せている鞍ってもしかして……」
「ああ、これはレスタムの街で革工房って革細工の専門店で作って貰ったんです。何でも元は貴族の注文で熊の背中に乗せるために作った鞍なんだとか」
「革工房……」
「ええ、フォルトさんって言うドワーフの職人さんが経営してましたよ」
「あいつ……良かった。本当に店をやっていたんだ」
感極まったようにそう呟き、そっと手を伸ばしかけて慌てて引っ込めた。
「し、失礼した。その、ちょっとそのハウンドに触らせてもらっても構わないだろうか」
「ええ、良いですよ。どうぞ」
手を伸ばして首輪を掴んでマックスを撫でてやる。
当然分かってくれているマックスが大人しく伏せてくれたので、フュンフさんは目を輝かせて駆け寄ってきた。
そしてあの鞍を右から左から散々眺め倒し、手を伸ばして側面に彫られた細工にそっと手を触れた。
「フォルトめ、相変わらず……良い仕事をするじゃないか」
嬉しそうに小さな声でそう呟いたフュンフさんは、一つ深呼吸をしてから顔を上げた。
「ケンさん、バイゼンヘ来てくれて本当に感謝するよ。武器製作の依頼、喜んで受けさせてもらおう」
「おお、それは有り難いです。是非お願いします」
改めて笑顔で握手を交わしたところで、また背後から今度は咳払いが聞こえた。
「良いからとにかく座れ。話さなきゃならんことが山ほどあるんだからな」
「あはは、そうですね。それじゃあ武器製作の詳しい話は後ほど改めてお願いします。あの、素材は持ち込みで大量にありますので!」
「そりゃ有り難い。ではそっちはあとでゆっくり打ち合わせましょう」
笑顔で頷き合った俺達は、急いで席についたのだった。