広場にて
「おお、相変わらず賑やかだねえ」
到着した広場は、今日も人が多くて賑やかだ。
「なあなあ、それより宿泊所を出た時から思ってたんだけど、昨日よりも注目度が高い気がするのは俺の気のせいじゃあないよな」
「ふむ、確かにそれは俺も思っていた」
「それ、俺も思ってた」
「確かに。しかも従魔達じゃなくて俺達に視線が集まっとる気がするぞ」
俺の違和感をハスフェル達に小声で伝えると、どうやら彼らも同じ気持ちだったらしく、揃ってうんうんと頷いている。
「ああ、違和感の正体はそっちか。だけど従魔じゃなくて俺達に注目が集まるって……ドユコト?」
小さな声で話をしつつ、昨日も買ったパン屋でタマゴサンドを二つと大きなホットドッグを買う。それからあの白髪ダンディなマスターのいるコーヒー屋さんの屋台で、マイカップに本日のブレンドコーヒーをたっぷりと入れてもらう。
「すみませんが、こっちのピッチャーにも入るだけ入れてもらえますか」
空いてるコーヒー用のピッチャーを取り出して渡して、食べている間に入れてもらうようにマスターにお願いする。
「了解だ。すぐに用意するよ」
爽やかな笑顔で受け取って早速コーヒーの準備をしてくれるマスターに手を振り、俺は広場の端っこにマックスを座らせて足のところに座る。
鞄からサクラが飛び出してきて、俺のマイカップをホールドしてくれたよ。
「はい、タマゴサンドをどうぞ」
マックスの背中の上で飛び跳ねながら自己主張していたシャムエル様にタマゴサンドを丸ごと一つ渡してやり、俺はホットドッグに大きな口を開けて齧り付いた。
「うん、太めのソーセージがプリップリで美味しい。これは当たりだな。よし、あとでまとめて買っておこう」
作り置きの在庫はあるけど、種類が増えるのは大歓迎だからね。
俺の呟きが聞こえたらしいシャムエル様が、ホットドッグを食べたそうに見ているので、差し出して先に好きなだけ齧らせてやる。
食べかけだったタマゴサンドを一瞬で収納したシャムエル様は、両手でホットドッグのバンズを引っ掴んでモシャモシャ〜って擬音が付きそうな勢いで齧り、約5センチほど食べて満足してくれたみたいだ。
「うん、スパイスが効いててなかなかに美味しいホットドッグだね。これは買いじゃない?」
おお、シャムエル様のお墨付きいただきました!
「だな、じゃあとでまとめ買いしておくよ」
コーヒーをひと口飲み、タマゴサンドを取り出して食べ始めたシャムエル様の尻尾をこっそり突っついてから、俺も残りのホットドッグを食べ終えてタマゴサンドを食べ始めた。
タマゴサンドを食べ終えてのんびり残りのコーヒーを楽しんでいた時、ドワーフ達の団体がこっちに向かって歩いて来ているのに気がついた。
しかも先頭にいる大柄なドワーフは、完全に俺をガン見している。
「なんだ?」
眉間に皺を寄せて、めっちゃ怖い顔でこっちに向かってくる集団を見て、俺はちょっと警戒した。
もしかして新人いじめ系? それとも他所者はデカい顔して広場を占領するなって文句をつけに来た?
まあマックスとニニとカッツェがいるから、めっちゃ大きな従魔が何匹もいて怖いんだって文句を言われる可能性は否定出来ない。
残りのコーヒーを飲み干して、急いでマイカップを収納しておく。
ハスフェル達も当然近づいてくるドワーフ達には気づいているだろうけど、今のところ反応なし。様子見状態だ。
まあいきなり殴りかかってくるような事はさすがにないだろうと思い、知らん顔でマックスを撫でて彼らが到着するまでの時間を潰しておく。
俺達から少し離れたところで立ち止まったドワーフ達の集団は、多分三十人は余裕でいる。多分、広場にいたドワーフ達も何人か合流したみたいだ。
周りの人達や屋台の店主達も、何事かと恐々とこっちを伺っている。
なので、俺達とドワーフの集団の周りには、ぽっかりと空間が開いてしまった。
「あんたが噂の魔獣使いか」
「噂がどんなものか知らないけど、俺が魔獣使いだよ」
どうやらお目当てはやっぱり俺だったみたいで、先頭のあの怖い顔をした大柄なドワーフがその体躯にふさわしい太くて低い声でそう尋ねる。
警戒を隠さずにそう答えてやると、いきなりその場にいたドワーフ達が土下座せんばかりのもの凄い勢いで揃って頭を下げた。
完全に全員の体は二つ折り状態だ。
意味が分からず、同じく唖然としているハスフェルと無言で顔を見合わせる。
しばらくして先頭のあのドワーフが顔を上げた。
「ギルマスから聞いた。魔獣使いとその仲間達が、メタルブルーユリシスの翅を大量にギルドに納品してくれたそうじゃないか。心から、心から感謝する。あれの在庫が尽きてしまい本当に皆困っていたんだ。こんな事を聞ける立場ではないが、出来れば何処で、あれだけのメタルブルーユリシスの翅を手に入れたのか教えてはいただけないだろうか」
メタルブルーユリシスと聞いて、彼らだけでなく周りにいたドワーフ達までが一斉に驚きの声を上げる。
そして次の瞬間、広場にいた人達全員がもの凄い勢いで拍手したのだ。
「ありがとう!」
「貴方達はバイゼンの救世主だ!」
「ありがとう!」
「ありがとう!」
あちこちから手が伸びてきて、俺達の背中や腕を叩き握手を求められる。
大勢の人が押し寄せてきて有無を言わさずもみくちゃにされる俺を見て、マックス達が一気に警戒するのが分かり俺は本気で焦った。
「あの、ちょっと下がってください、従魔達が、従魔達が嫌がってます!」
必死で顔の前で手を振りながら大声で叫ぶ。
「やめんかお前ら!」
さっきのドワーフのものすごい大声が広場中に響き渡る。
「す、すまない」
「悪かった。怖がらせるつもりじゃなかったんだ」
周りにいた人達が口々に謝りながら、慌てて後ろに下がってくれた。
「はあ、びっくりした」
乱れた服装を整えてから、俺達を見ているドワーフを見返す。
「ええと、詳しい話はギルドへ行ってからでも良いかい? ちょっとこの衆人環視の中では落ち着いて話も出来ないからね」
一応、もう全員の食事は終わってる。
まとめ買いをしてから朝市を見てみたかったが、別に今日しかやってないわけじゃあないからね。
苦笑いしてハスフェル達と顔を見合わせた俺達は、忘れずにコーヒー屋さんでお金を払って淹れてもらったピッチャーを受け取ってから、ドワーフの団体様御一行と一緒に冒険者ギルドへ向かったのだった。