相変わらずの朝の光景
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
チクチクチク……。
しょりしょりしょり……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん、起きるよ……起きるから……」
翌朝、いつものモーニングコールチームに起こされた俺は、ニニの腹毛に潜り込みながら半ば無意識で返事をしていた。
「ああ、ニニの腹毛が俺を呼んでるって……」
一度目が開いて、俺の顔のすぐ横で面白そうに覗き込んでいるシャムエル様が見えたんだけど、残念ながら俺の瞼が開いてくれたのはほんの数秒だけだった。
「うう、眩しい……」
いつの間にか全開になっていたカーテンと大きな窓からは朝日が差し込み、晩秋の気配を感じるひんやりとした風が優しく部屋の中に吹き込んできている。
庭に続く扉も音を立ててゆっくりと開き、誰かが駆け出していく気配とベリーの笑う声が聞こえる。あれは多分従魔の誰かがトイレに行きたくてかけ出して行ったんだな。
一通りの用事を済ませて時間が出来たら、周辺の狩りに連れて行ってあげないと。
いくら食事はベリーが用意してくれる結界空間内での弁当で良いって言っても、ずっと街の中にいるとストレスは溜まるだろうからな……。
頭の中でそんな事を考えつつ、俺は二度寝の海の波のまにまに気持ち良く揺られていたのだった。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
つんつんつんつん……。
チクチクチクチク……。
しょりしょりしょりしょり……。
ふんふんふんふんふん!
ふんふんふんふんふん!
ふんふんふんふんふん!
「うん、起きるってば……」
「相変わらず起きませんねえ」
「本当だよねえ。てっきり私のせいで不具合が起きて不調になってるんだと思って心配していたのに、これって以前の寝起きの悪さも絶対私のせいじゃあなかったよね」
「まあ、否定はしませんよ。要するにケンは単なる寝起きの悪い人の子だったんですね」
「もうちょっと早くそれを言って欲しかったよ」
ニニのもふもふな腹毛に埋もれて気持ちよく二度寝を楽しんでいると、遠くからシャムエル様とベリーの会話が聞こえて来た。
「何か、好き放題言われてる、気がする……」
小さな声でそう呟く。
ちょっとくらいは言い返したかったんだけど、はっきり言って起きられないのは事実なので反論のしようがない。
不具合云々って話は俺には全く自覚はないし意味も分からないので、残念ながらこれにも反論のしようがない。
まあ良いや。
……いや待て、全然良くないぞ。
早く起きないと、今日の最終モーニングコールチームはめっちゃ痛いお空部隊の子達じゃんか。まずいぞ俺、今すぐ起きるんだ!
ようやくはっきりしてきた頭の中で不意にその事実に気がついた俺は、慌てて目を開いた。
しかし時既に遅し。
開いた目の前には、嬉々として俺の上唇を噛もうとして嘴全開になっているモモイロインコのローザのドアップがあったのだった。
「起きたって!」
俺が叫ぶのと、お空部隊が一斉に俺を噛むのは同時だった。
これ、絶対聞こえてたけど噛むのを止めなかったパターンだろ!
「だから痛いって〜〜〜〜!」
上唇と額の生え際、そして耳たぶ、その三つを同時にちょっとだけ齧られてしまい、俺は情けない悲鳴を上げてニニの腹の上から転がり落ちた。
シャムエル様とベリーの吹き出す音が聞こえる。うう、覚えてろよ。
「ああ、ご主人が逃げちゃったよ〜」
「追いかけないとね!」
嬉々とした声に慌てて腹筋だけで起き上がる。
「はい、起きました〜〜〜!」
顔の前に両手を振りながら必死になって起きてますアピールをする。
「ええ、こんなにすぐに起きちゃったら私達の出番が少ないじゃない」
「そうですよご主人。もっとゆっくり寝ててくれても良いのに」
「そうだよね〜〜!」
「何だよその、お前らの見事なまでの一致団結っぷりは」
座った俺の膝に並んで留まったモモイロインコのローザと真っ白なキバタンのブラン、それからセキセイインコのメイプルの三羽をそう言いながら順番に撫でてやった。
それからようやく起き出してまずは顔を洗いに行き、いつものようにサクラに綺麗にしてもらってから部屋に戻った。
水場では、従魔達が大喜びで水浴びをしている。
「遊ぶのは良いけど、後は綺麗にしておいてくれよ」
「はあい、任せてくださ〜い!」
得意気なアクアの声が聞こえて小さく笑った俺は、自分の装備を手早く整えていった。
『おはよう、俺はもう準備出来てるぞ〜』
いつも呼ばれてばかりなので、たまにはこっちから声をかけても良いだろう。
ベッドに座った俺は、側に来て甘えるマックスとニニとカッツェを交互に撫でてやりながら念話でハスフェルたちに呼びかけた。
当然トークルームは全開なので、全員に声は届いている。
『おはよう。ケンが一番って珍しいな』
若干驚いたようなハスフェルの声が届く。
『おはようさん。ちょっと朝からびっくりさせるんじゃねえよ』
笑ったギイの言葉に、俺は見えないと分かっているが顔をしかめて見せる。
『おはようさん、それじゃあもう行くか』
こちらも笑ったオンハルトの爺さんの声に頷き、俺もベッドから立ち上がって従魔達を見た。
「ええと、屋台で朝飯食ったら朝市を覗いて、それから商人ギルドへ行こうと思うんだけど、お前らはどうする?」
当然のようにマックスが俺の横へ来て良い子座りして待ってるし、今日はニニとカッツェも一緒に行く気らしく、ベッドから飛び降りて揃って大きな伸びをしてから俺のところへやって来た。
あちこちに散らばって寛いでいた従魔達も、いつもの大きさに戻って定位置につく。
最後まで水場で遊んでいたスライム達も、慌てて次々に跳ね飛んで戻って来て、俺の鞄に次々に飛び込んでいった。
「じゃあ、スライム達は鞄の中だな。朝市で何か買ったら収納よろしく」
ベリー達も今日は一緒に来るらしく、順番に全員が廊下へ出たところで部屋の鍵を閉める。
「さて、それじゃあ行くとするか」
廊下でハスフェル達と合流して、まずは朝食を買うために広場の屋台に向かうのだった。