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あっという間に夕食の時間

「すっかり遅くなっちまったなあ」

 ギルドマスター達と別れてギルドの建物を出ると、もう日は暮れてあたりは真っ暗になってた。

「おかしいなあ、朝飯食ってギルドへ行ったのに、素材の引き渡しをしただけでもう日が暮れてる」

 苦笑いする俺の言葉に、ハスフェル達も疲れた顔で笑っている。

「夕食はどうする?俺は冷えたビールが飲みたいから戻って肉でも焼くか。付け合わせくらいならあるもので何とかなるからさ」

「ケンも疲れてるだろうに、構わないか?」

 大きく伸びをして体を解していたギイが、そう言いながら振り返って申し訳なさそうに俺を見る。

「肉焼くぐらいなら全然構わないよ。じゃあ一旦戻ろう。あれだけピザ食ったのに、もう腹が減ってるよ」

 態とらしく腹をさすりながらそう言うと、ハスフェル達も揃って何度も頷いてた。

 まあ、確かに疲れたよな。じゃあ、美味しい熟成肉でも焼きますか!




「サクラ、先に綺麗にしてくれるか。ちょっと汗かいてて気持ち悪いよ」

 気温はひんやりしていたんだが、部屋の中は熱気で暑かったのでちょっと全体に汗ばんでる。

 部屋に戻った俺は、手早く防具を脱いで身軽な格好になると机の上に出てきて待機していたサクラに呼びかけた。

「はあいご主人、それじゃあ綺麗にするね〜!」

 いつもの元気な声の後に、一瞬で俺の体は伸びたサクラに包まれてすぐに元に戻る。そして終わった時にはもう全身サラサラ。

「ううん、相変わらず良い仕事するねえ」

 笑って元に戻ったサクラをおにぎりにしてやり、ひとまず机の上に戻す。



 部屋についている付属のキッチンは、どの街の宿泊所も立派な二段から三段の水場がついてるんだけど、自炊するにはあまりにも小さいキッチンだよ。はっきり言ってお湯を沸かすのがせいぜいの小さなコンロしかない。

 ただし机は大きいのが備え付けの家具としてついているので、諦めてそこに自分の手持ちのコンロを出してもらう。

「一冬ここで過ごすのなら、食事の時はいつもの机を出せばいいんだから、もうこの一角をキッチンスペースにすれば良いんだよなあ」

 サクラが出してくれた肉焼き用の強火力のコンロを並べながら、ふと手を止める。

「ああ、商人ギルドに家の相談をするのを忘れてたなあ。明日行ったら忘れる前に聞いてみよう」

「ここでも家を買うって話か」

「そうそう。まあ、ハンプールみたいにあそこまで大きな家じゃあなくて良いけど、ここで一冬過ごすのなら、せっかくだからクロッシェも出て来てゆっくり自由に寛げる方がいいかなって思ってさ」

 今はアクアと一体化したままの、レース模様の特殊なレアスライムのクロッシェを思い出してそう言うと、アクアから触手が伸びてきて俺の腕をそっと突っついた。

「気にしてくれてありがとうね、ご主人。クロッシェもアクアと一緒に楽しんでるから、あまり気にしないでね」

「おう、だけどやっぱりなんだか我慢させてるみたいで申し訳なくてさ。自分の家なら、ある程度は自由に出来るだろうからさ。まあ、ここにいい家があるかどうかは分からないから、あまり期待せずに待っててくれよな」

「ありがとうねご主人!」

 声と共に触手がもう一回伸びてきて俺の腕に絡まり、すぐに解けて引っ込んでしまった。クロッシェは愛情表現の仕方も、他の子達に比べたら何となく遠慮がちだ。

 何だか愛おしくなって、サクラが取り出してくれた熟成肉を叩いてスパイスを振りながら、左手を伸ばしてアクアを突っついてやる。



 取り出したいつもの机には、サクラが作り置きや差し入れで貰ったものをせっせと並べてくれている。

「ご主人これくらいでいいですか〜?」

 見るとサラダやトマトに温野菜、フライドポテトなどが綺麗に並べられている。

「おう、完璧だよ。ありがとうな。じゃあ肉を焼いてる間に、自分の皿は確保しといてくれよな」

 座って大人しく待っているハスフェル達に声をかけると、嬉しそうに皿を手に自分のサイドメニューを物色し始めた。

「味噌汁も温めておくか」

 小鍋を取り出して、ワカメと豆腐の味噌汁を人数分取り分けて火にかける。

「見ておくよ。沸騰させたら駄目なんだったよな」

 自分の準備を終えたギイが来てくれたので、味噌汁は彼に任せて俺は肉を焼き始める。

「ううん、何度聞いてもこの肉の焼ける音は良いねえ」

 賑やかな脂のはねる音を聞きながらフライパンを軽く揺する。

 火が怖いのか、机の上にいたスライム達は離れたソファーにいるベリーのところへ行ってしまった。

「逃げられちゃったよ。まあ火は怖いって言ってたもんな。おお、良い焼き色がついたぞ」

 トングで掴んでひっくり返すと、綺麗に焼けて良い色になっている。

 反対側もじっくり焼いて、余熱で少し火を通せば完成だ。

「味噌汁も温まってるからな」

「おう、ありがとさん」

 焼けた肉をお皿に乗せてやろうとすると、ハスフェルが二枚の皿を並べている。

「シャムエルの意見でこうなったんだが、構わないか?」

 笑いながら渡してくれた皿には、生野菜のサラダと俺の好きなおからサラダ、それからやや多めのフライドポテトと温野菜が彩りよく盛り付けられている。

「こっちはおにぎりな」

 もう一枚の皿には、これもどう見ても大盛りのおにぎりがぎっしりと並んでいるが、シャムエル様の尻尾が先程からものすごい勢いでぶん回されているのを見る限り、半分は確実に持って行かれる事を予想してそのまま受け取る。

「完璧だよ。じゃあこれに肉を乗せれば完成だな」

 ステーキソースはまだ作り置きが色々あるので、各自好きに取ってもらう。

 スライム達がいつもの簡易祭壇を準備してくれていたので、味噌汁をよそって自分の収納から冷えたビールを取り出した俺は、蓋を開けてグラスにビールを注いだ。

「簡単だけど熟成肉を焼いたので、少しですがどうぞ。ワカメと豆腐の味噌汁とおにぎり、それから冷えたビールも一緒にどうぞ」

 手を合わせて目を閉じてそう呟く。

 いつものように頭を撫でられる感触に目を開けると、収めの手が俺を何度も撫でた後、嬉しそうに料理を順番に撫でてまわり、最後にステーキの乗ったお皿を持ち上げてから消えていった。



「お待たせ!」

 収めの手が完全に消えたところで急いで自分の分を席に持って戻り、待ってくれていたハスフェル達に声をかける。

「おう、じゃあいただきます」

 大きな手を合わせたハスフェルの言葉に、俺も手を合わせていただきますを呟いたよ。

 机の上では、大きなお皿を持って待ち構えていたシャムエル様が、キラッキラの目でお皿の上のステーキをガン見していたのだった。

 ええと、俺の肉……足りるかな?

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