大量の素材を前に……?
「さあ、どんどん出していきますよ〜〜!」
満面の笑みとともに言葉通りにガンガンとメタルブルーユリシスの翅を取り出していく俺に、最初のうちこそギルドマスター達やスタッフさん達も大喜びで、手分けして箱詰めしてはせっせと部屋から運び出していた。
しかし、いつまで経っても俺の取り出す早さが変わらず、壁面を埋め尽くしていた専用の箱が全部無くなったところでようやくストップがかかった。
「待った待った! まだあるのか?」
慌てたようにそう叫んで俺の腕を掴んだガンスさんの言葉に、手を止めた俺はニンマリと笑って頷いた。
「そうですねえ。メタルブルーユリシスの翅は、今、手持ちの三分の一くらい出したところかと。いや、まだもうちょいあるかも」
少し考えて答えた俺の言葉に、ガンスさんの口から呻き声が漏れる。
「こ、これでまだ三分の一以下だと?」
そう叫んだのはガンスさんの後ろにいたドワーフギルドのギルドマスターのエーベルバッハさん。その隣では、商人ギルドのギルドマスターのヴァイトンさんも、言葉も無く壊れたおもちゃみたいに頷き続けている。
「頼もしい仲間達のおかげで、手持ちのジェムと素材はとんでもない数と種類があるんですよね。実を言うと、バイゼンで引き取ってもらおうと思って貯めてある素材が他にも山ほどあるんですけど、どうしましょうか?」
「な、何があるのか……聞いていいか?」
三人のギルドマスターが、揃ってゴクリと唾を飲み込む音がする。
「地下迷宮で確保した大量の恐竜のジェムと素材、それから飛び地で確保した同じく大量の昆虫系の素材が……」
「待て待て。い、今、今何と言うた? 昆虫系の素材だと?」
「もしかして……」
「あ、有るのか?」
身を乗り出す三人に、俺はこれ以上ない笑顔で頷きゆっくりと鞄から一本だけ取り出して見せた。
多分彼らが一番見たがっているであろう、巨大なヘラクレスオオカブトの角をね。
図太い悲鳴のような歓声が部屋中に響き渡り、直後に部屋にいたスタッフさん達までが全員ものすごい勢いで駆け寄って来た。
「うああ、これは素晴らしい!」
「見ろよ、あの見事な黒光りを!」
「是非、是非俺に作らせてくれ!」
ガンスさんとヴァイトンさんが手を取り合って俺の手元を凝視しながらうんうんと呟く。
その隣では、拳を握ったエーベルバッハさんが天井に向かって叫んでいた。
「一応この冬の間に、俺の装備を剣だけじゃなく防具も含めて一新する予定なんですよね。なので自分の分は後日改めて依頼します。とりあえず売っても良いのなら、まだまだありますよ」
「もしかして、他には何があるんだ……? 防具も一新するって事は……?」
「ええと。そうですねえ。これとか、これとか、これとかですかねえ」
面白くなって来た俺は、これ以上無い笑顔でヘラクレスオオカブトの角を机に置き、その隣にカブトムシの素材とクワガタの素材、それからオオムカデの素材を一通り並べる。
「蝶の羽は高く売れるって聞いたんで、まとまった数がありますよ」
そう言って、ゴールドバタフライの羽とブルーレースバタフライとシルバーレースバタフライの羽も一枚ずつ取り出して置く。
「他には装飾品用の素材がこれとか、これとか、これもそうですねえ」
そういって、カミキリムシやセミ、それから黄金虫の素材を並べ、隣にアンモナイトの殻も並べる。
「ああ、これもあるな。ええと、サクラ、ちょっと持っててくれるか」
そう言って、シルクモスのもふもふな翅と触覚を取り出してサクラに持っててもらう。これはそのまま机に置くと鱗粉が落ちそうだったからね。
一つ取り出すたびに、ギルドマスター達とスタッフさんの雄叫びと拍手が沸き起こり、もうハスフェル達は横でゲラゲラ大笑いしている。
「後はこれですね」
そう言ってファイヤーフライのお尻の光る部分を取り出して置いた。
「ああ、色付きのジェムとかもありますよ」
そう言って、色付きのジェムを並べると、これまた悲鳴と雄叫びが上がる。
「分かった、分かったからちょっと待ってくれ」
絶対王者のティラノサウルスのジェムを取り出したところで、ガンスさんからストップがかかった。
「で、どうしますか?」
にんまりと笑う俺の後ろで、ハスフェル達が、自分達も持ってるアピールをしている。
無言で頷き合ったガンスさん達は、真顔で俺達を振り返った。
「では、メタルブルーユリシスの翅は、今回出してもらった分までをまずは全て引き取らせてくれ。それで勝手を言って申し訳ないんだが、早急に資金を用意するので残りの翅とそれ以外の素材やジェムについては、後日改めて商談させてもらっても構わないだろうか」
予想通りの提案に、俺達も顔を見合わせて頷きあう。
「了解です。どうせ一冬はここで過ごす予定ですので、いつでも言ってください」
「感謝するよ。それでは、預かり票を発行するのでもうしばらく待っていてくれ。それからそれは……目の毒だから一旦片付けておいてくれるか」
机の上に並んだ素材とジェムの見本を横目に見たガンスさんが、悔しそうなため息を吐いて俺にそう言う。
「そうですね。それじゃあ、これは一旦片付けます。いつでも言ってくださいね」
そう言って素材を収納していくと、一つ収納する度にあちこちから悲鳴やうめき声が聞こえ、勿体ないとか、俺が買いたいとかって声も聞こえた。
「それじゃあ、明日以降ならいつでもかまわないので、商人ギルドに顔を出してくれたらフュンフを紹介するよ。防具も作るなら、腕利きの職人を紹介するからいつでも言ってくれたまえ」
立ち上がったヴァイトンさんにそう言われて、俺達はがっしりと握手を交わしたのだった。
いよいよ、自分用の武器と防具の発注だぞ!
こっそり拳を握って、小さくガッツポーズをとる俺だったよ。