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お疲れの午前中終了!

「お疲れさん。どうする俺の分を引き渡す前に飯にするか? それとも俺もこのまま渡していいか?」

 ようやく手持ちの分の引き渡しが終わって、嬉々として大量の箱を一箱ずつ抱えて運び出しているスタッフさんの横で、揃って疲れ切って並んで椅子に座って机に突っ伏しているハスフェル達の背中に俺はからかい半分に声をかけた。



 何しろ、メタルブルーユリシスの翅を丁寧に箱に入れるスタッフさん達に一枚ずつ渡しながらの作業だったので、とにかく時間がかかっていたのだ。

「いつもの素材の引き渡しなら、まとめて山積みに取り出してはいどうぞ。で終わってたのになあ」

「そりゃあお前、いつもの素材と一緒にするなって。ここバイゼンの道具職人達にしてみれば、あの素材は必須だからな」

 ちょっとだけ顔を上げたハスフェルの言葉に、ギイとオンハルトの爺さんも突っ伏したままうんうんと頷いている。

「まあ、あの反応を見るとそれも分かる気がするけどさ。確か今は手に入らないんだっけ?」

 そう言いながら自分の鞄から、アクアが取り出してくれた端っこの欠けたメタルブルーユリシスの翅を一枚手にして光にかざす。

 綺麗な青い不透明のそれは、部屋の天井からぶら下がる明かりの強い光にも透ける事もなく、青くて硬質な光を放っている。



「手に入らないわけではないが、今はまとまった数が手に入らんのは事実だな」

 ちょうど部屋に戻ってきた商人ギルドのギルドマスターのヴァイトンさんの言葉に俺は振り返る。

「出現場所の森って、まだ回復しないんですか?」

 確か、出現箇所だった森があのバグみたいなモンスターのせいで壊滅的な被害を受けたって聞いたけど、普通の営巣地と違ってジェムモンスターの出現する地脈の吹き出し口なわけだから、一時的に出現しないにしてもそこまで被害が続くのが逆に不思議だったのだ。

「出現場所だった森は、ギルドや街の人達が総出で植樹を行い、なんとか林程度の状態までは復活したんだがな」

 今度は冒険者ギルドのギルドマスターのガンスさんの声に、俺は首を傾げた。

「林じゃあ駄目なんですか?」

 森と林、ううん、そもそもその違いってなんだ?

「全く駄目って訳ではないが、何故か出現数が激減したまま戻らんのだよ。定期的に冒険者達が出現箇所を巡回して集めているが、以前の二十分の一にも満たないような数しか手に入らんのだ」

 ドワーフギルドのギルドマスターのエーベルバッハさんがこれ以上無いような大きなため息と共にそう教えてくれる。

 その言葉に、また箱を持って部屋に戻って来ていたスタッフさん達も悔しそうにしている。



「出現数が減ってるって事は、地脈の吹き出し口が弱ってるわけか」

 小さくそう呟くと、いつの間にか俺の肩に座っていたシャムエル様が困ったように何度も頷いた。

「そうなんだよね。一応、完全に途切れたわけじゃあないんだけど、何故かここだけ弱ったまま戻ってないんだ。だけど出現そのものが完全に途切れたわけじゃないから、逆に私は手出し出来ないんだよね」

「そっか、出現数の上下は自然現象だって言ってたもんな。じゃあ逆に、全く別の出現場所を作っちゃうのとかは駄目なのか? バイゼンの近くなら、間違いなく冒険者達が殺到して狩りまくってくれると思うけどなあ」

 これも小さな声でそう言うと、これまた困ったようにシャムエル様が首を振っている。

「メタルブルーユリシスって、意外に繊細なジェムモンスターでね。飛び地みたいに地脈に桁違いの強さの力がある場所以外は、なかなか安定した数で出現してくれないんだ」

「素材である、あの貴重な翅を作るのに時間がかかるわけか」

 またうんうんと頷くシャムエル様を見て、起き上がったハスフェル達も苦笑いしている。



 その時、何やら良い匂いがして驚いて振り返ると、部屋に業者さんと思しき人が数人入って来ていて机の上に大きな平い箱を大量に並べているところだった。

 別の人は、隣の机に飲み物らしき瓶やコップをこれまた大量に並べている。

「お疲れさん。とりあえず食事にしよう。ここはギルドの奢りだから遠慮なく食ってくれていいぞ。ケンの手持ちの分の確認は午後からで頼むよ」

 ガンスさんの言葉に、俺もハスフェルの隣に座りながら頷いた。

「了解です。大量にありますからありったけ持って行ってくださいね」

 俺の言葉にギルドマスター達だけでなく、部屋にいたスタッフさんまでが揃って大喜びしている。

「いやあ有り難い。メタルブルーユリシスの翅は、今は本当に貴重なんだよ。この街にメタルブルーユリシスの素材待ちの工房がどれだけいるか。あれだけあれば止まっている作業は全部再開出来るぞ」

「全くだ。この街に来てくれて心から感謝するよ。買い取り値段についてはしっかり配慮させてもらうからな」

 自信満々なガンスさんの言葉に、俺は自分が持ってる羽の数を思い出して吹き出しそうになるのを必死で堪えていた。

 ううん、あれを全部買い取ってもらったらマジで幾らになるんだろう。

 知りたいけど、知るのが怖い気もするよな。



「さあ、とにかくまずは食おう。食ったら後半戦だぞ」

 エーベルバッハさんがそう言いながら大きな箱の蓋を開ける。

「おお、美味そう。ピザかな?」

 次々に開けられる箱の中には、何種類ものトッピングが大盛りモリモリになった巨大なピザが何枚も並んでいたのだ。

「どうやらここの人たちは肉が好きみたいだな。良いねえ、肉だらけじゃん」

 トッピングの大半が茶色い色をしているのを見て小さく笑った俺は、渡された皿を手に嬉々としてピザ争奪戦に参戦したのだった。

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