居酒屋にて
「アルバンからの紹介状、確かに受け取った。では、使う素材が決まったらまた来てください。フュンフを紹介しますよ」
笑顔のヴァイトンさんにそう言われて、俺は改めてよろしくお願いしますと言って頭を下げた。
どうやら噂の剣匠フュンフさんはまだバイゼンで店をやってるらしく、アルバンさんの手紙にも、彼を紹介してほしいとの内容が書かれていたらしい。
それから、俺がレスタムの街で彼の親友だというフォルトさんにフュンフさんを紹介してもらったって話をすると、なぜかもの凄く驚かれて喜ばれた。
詳しい話を聞くと、どうやらフォルトさんは彼がここを去る原因になった借金事件以降、フュンフさんにも、それからバイゼンのドワーフギルドや職人ギルドにも一切連絡を取っていなかったらしく、フュンフさんもギルドの皆も彼の消息が分からずとても心配していたらしい。
彼がレスタムの街で革工房って店をやってる事を話すと、無事でよかったと大喜びになった後、ヴァイトンさんは早速向こうのギルドに問い合わせをするって言って大騒ぎになってた。
「フォルトがフュンフを君に紹介してくれたって事は、彼自身も立ち直ってくれたって事だろうさ。いやあ、本当にここに来てくれてありがとう。感謝するよ」
大きな手でバンバンと力一杯背中を叩かれて、俺は情けない悲鳴を上げて皆から笑われたのだった。
「それじゃあ、失礼します」
ひとまず紹介状も渡せたし、フォルトさんの消息を知らせる事も出来たので、俺達は失礼して夕食を食べに行く事にした。
「お待たせ。ええと、どこか良さそうな店ってあるか?」
従魔達を見ながらそう言うと、従魔連れでも大丈夫な店があると言って案内してくれた。
「おお、店の外にも席があるのか。確かにこれなら大丈夫そうだな」
その店は、以前レスタムの街にもあったみたいなかなり大きな居酒屋っぽい店で、店の外にもテーブルと椅子がぎっしりと並べられていた。
まだ少し早い時間だった事もあり、外の席は空いていたので端っこを占領させてもらう。
「いらっしゃいませ。おやおや、これは凄い。全部紋章が同じですね」
メニューらしき板を持って来てくれた大きなエプロンをした大柄な店員さんが、俺の後ろに良い子座りして並んでいるマックスシリウスとニニとカッツェを見て目を丸くしている。
「うわあ、エルクにこれは恐竜ですか?」
注文聞きそっちのけで興味津々で従魔達を覗き込む店員さんに、アッカーさんも苦笑いしている。
「おいおいブラン、注文は? 俺達腹が減ってるんだけどなあ」
アッカーさんのからかうような声に我に返ったブランと呼ばれた店員さんは、慌てたように振り返ると満面の笑顔になった。
「失礼いたしました。居酒屋石の山にようこそ。ご注文をお伺いいたします」
メニューを見て注文するなんて久しぶりだと思っていたら、アッカーさんが勝手に色々注文してくれたみたいだ。
しばらくすると、ガンガン大皿に盛られた料理が運ばれて来始めたよ。
勝手に取り分けて食べるスタイルだったみたいで、一応最初だけは取り分けてくれたけど、あとは勝手に食えって感じだった。
肉多めの上に若干塩味が濃いめの味付けだったけど、どれも美味しくてもう夢中になって食べたね。
シャムエル様も、最初は俺がいちいち取り分けていたのに、気がつけば途中からは俺の皿から勝手に取って食べ始めてるし。
俺は白ビールを頼み、二杯目はこの店のオリジナルなのだという黒ビールをもらった。
「ううん、これは美味しい。瓶入りがあったら買いたいくらいだ」
俺的には冷えていないのが残念なんだけど、それを差し引いてもこの黒ビールは確かに美味しかった。
「そしてこのスパイスの効いた串焼きと黒ビールの合うこと。いやあ、無限に食って飲めるぞ」
飲んで、食べて、また飲んで食べる。相乗効果でどっちも美味しく感じるので止めどころが分からない。
「魔獣使いのお兄さん、嬉しい事言ってくれるねえ。もちろん瓶入りも売ってるから、後で好きなだけ買って行っておくれ」
エンドレスに飲んで食ってると、さっきの店員さんがおかわりの黒ビールを持って来て教えてくれた。
「そうなんですね〜了解っす。喜んで買い占めさせていただきま〜す!」
若干呂律が回らなくなった声でそう言いつつ、また新しい黒ビールを飲む。
「ご主人、少し飲み過ぎでは?」
マックスが首を伸ばして俺の肩に顎を乗せながら心配そうにそう言ってくる。
「大丈夫だよ〜ちょっと、地面が揺れてるけどねえ」
くふくふと笑いながら、マックスの顔に抱きつく。
「ご主人、やっぱり飲み過ぎです。お酒の匂いが酷くしますよ」
「ええ、せっかくバイゼンに到着したんだから、ちょっとくらい飲んだって良いじゃんか〜」
マックスの額に俺の額をこすりつけてぐりぐりしてやる。
「ううん、この大きな抱き心地の良い頭! 最高だね!」
首元のもこもこな毛をわしゃわしゃと撫でてやり、もう一度マックスの頭に抱きつく。
「ご主人、マックスばかりずるい。私も〜〜!」
嫉妬したニニが当然のようにそう言って俺の腕の中に頭を突っ込んでくる。
「わかったわかった。ニニも最高だぞ〜」
こちらは、抱きしめたら俺の腕が完全に埋もれて見えなくなる。
「ああ、このもふもふも最高かよ。ううん、幸せだなあ」
もふもふの頬毛に顔を埋めて深呼吸をして幸せを噛み締めていた。
「なあ、彼っていつもあんな風なのか?」
「そうだぞ。従魔達全員とラブラブだからな」
「あはは、そりゃあすごいな」
こちらも完全に酔っ払っているアッカーさんの笑う声に、俺はドヤ顔で振り返った。
「良いだろう、ニニの頬毛と腹毛は最高にもふもふなんだぞ」
「良いなあ、俺もそろそろ帰って奥さんに慰めてもらおう」
白ビールを飲み干したアッカーさんの言葉に、ハスフェル達が大喜びで大爆笑していた。
予想外のカウンター攻撃をくらい、俺のライフは完全にゼロになったね。
おのれリア充め。
う、羨ましくなんか……。