今度は商人ギルドへ!
「じゃあ次は商人ギルドだな。こっちだよ」
またアッカーさんの案内で、一旦冒険者ギルドを後にする。
「ええと、確かアルバンさんから紹介状を貰ったのがあったはず」
鞄の中に入ってくれているサクラが、俺の呟きに気付いてアルバンさんから貰った紹介状を取り出してくれた。
「ご主人、これだね。はいどうぞ」
「おう、ありがとうな」
小さな声でそう言われて、俺は鞄に手を突っ込んでサクラから紹介状をこっそり受け取ってそのまま収納した。
「お、ちょっと街並みが変わって来たな。もしかしてこの辺りで朝市とかあったりするのか?」
アッカーさんについて歩いていると。道が広くて直角の角があるのはそのままなんだけど、建物がこの世界で見慣れたヨーロッパ風の石造りの建物になって来たのだ。
「よく分かったな。この辺りは朝市通りって呼ばれてて、近郊の農家や酪農家などいろんな店が出るよ。そっちの通りは、今の時間はもう閉まってるけど、日中は常設の食品関係の店が並んでる。宿泊所に泊まって自炊するならお勧めの店を教えるよ」
「へえ、アッカーさんは、料理もするんだ」
マックスの手綱を引きながら並んでのんびりと歩いていた俺は、意外な言葉に思わずアッカーさんを見た。
「いんや。そんな器用な事を俺に求めるな。せいぜい肉を焼くくらいだよ。普段の料理は俺の奥さんがしてくれるんだけど、買い物は重いからって言われていつも荷物持ちに付き合わされるんだ。最初はイヤイヤだったんだけど、毎週みたいに付き合ってると、まあそれなりに店の人とも仲良くなるし、二年も一緒に買い物してれば品物の良し悪しだってある程度は分かるようになるって」
「ああ、成る程ね。お幸せに」
ちょっと遠い目になる俺だったね。くそう、ここにもリア充がいたよ。
「この辺りが一番古い旧市街なんだよ。建物はかなり古いのをそのまま使ってる。山側へ行くと、大小様々な工房の作業場が連なる一角があって、そっちはまた景色が違うぞ」
俺の内心の葛藤など知らないアッカーさんの言葉に、小さくため息を吐いて気分を切り替えた俺は街の背景のようになってる急峻な山並みのシルエットを見上げる。
空は既に真っ暗になってて、綺麗な星が瞬いている。そして広い道路沿いの街頭に火が灯され始めていた。
ちなみに、当然と言えば当然だが、職員らしき人達が、街頭の柱に取り付けられた小さな扉を開けて中にあるスイッチみたいなのを一つ一つつけて回っている。それをするとぼんやりと明かりが灯るのだ。
「そっか。自動でつくわけないから、ああやって誰かが火をつけて回ってくれてるのか。じゃあもしかして、夜明けごろになったら消して回るのか?」
それはそれで大変だと思って聞いてみると、なんでも灯してから十刻くらいで消えるように作られているらしい。なるほど、タイマー付きってわけか。
どういう仕組みなのかは不明だけど、これもドワーフの技なんだろうと納得しておく。
「さっきのムービングログもそうだけど、ここで作られてる物って凄いよな。俺が使ってる冷蔵庫もバイゼンの工房で作られたって聞いたしなあ」
「ええ、ケンが使ってるってどういう意味だよ。ああ、もしかして何処かに家を買ったのか?」
驚くアッカーさんの言葉に、俺は苦笑いして首を振った。
「まあ、ハンプールに家は買ったけど、俺は料理をするから普段から冷蔵庫を持ち歩いてるんだよ」
その言葉に、感心するようにアッカーさんは頷いた。
「そうか。って事はケンはもしかして収納の能力持ちなのか?」
小さな声でそう聞かれて、誤魔化すように笑って頷く。
「へえ、そりゃあすごいな。まあ、俺も収納袋はかなり良いのを買ったよ。あれは便利だよなあ。一度使ったら、もう無しの生活には戻れねえって」
「確かにそうだよな。特に旅をしてると収納の有り難さは実感するね」
「この世に収納袋を授けてくださった創造神様に感謝だな」
笑ったアッカーさんの言葉を聞いてマックスの頭の上に座っていたシャムエル様が、いきなりドヤ顔でステップを踏み出したのを見て俺は笑いを堪えるのに苦労していた。
「こっちが商人ギルドの建物だよ。これもかなり古いって聞いてるなあ」
確かに石造の大きな建物は、かなり年季が入っていそうだ。
だけどどこも綺麗に手入れがされていて、寂れた感じは一切無い。
「へえ、確かに古そうだけど綺麗な建物だな」
従魔達も一緒に中へ入ろうとすると、慌てたように中から職員さんが飛び出してきた。
「あの、もしやハンプールの英雄御一行様でしょうか!」
咄嗟に噴き出さなかった俺を誰か褒めてくれ。
「いや、あの。英雄になったつもりはありませんが……はい、一応二連覇しました」
「どうぞこちらへ! ああ、従魔もどうぞそのまま!」
何やらテンションの高いスタッフさんの案内で、俺達は大人しく建物の中へ入って行った。
「おいおい、あれってハンプールの英雄じゃあないのか」
「本当だ。いやあ凄えな。一体従魔だけでどれだけいるんだよ」
「あれを一人でテイムしてるって?」
「噂を聞いて、そんなの絶対にあり得ないと思ってたけど……全部の紋章が同じだよなあ」
商人ギルドの中も、冒険者ギルドと同じように銀行のカウンターみたいなのが並んでいて、奥半分は商談スペースみたいに衝立で区切られている。
日が暮れても大勢の人達がギルドにいて、あちこちから俺達を見て好き勝手に噂してる声が聞こえて来たよ。
まあ、確かに突然こんなのが大勢で入って来たら俺でも噂するよな。
そう思って苦笑いした俺は、小さく首を振って噂話は全部スルーする事にした。
「いやあ、連絡は貰っていたが、こんなに早く来るとはね。ようこそバイゼンヘ。ここのギルドマスターをやってるヴァイトンだよ。よろしくな魔獣使い」
笑顔で進み出て来たのは、これまた筋骨隆々のドワーフだった。しかも小柄なドワーフにしてはかなりの大柄高身長で、俺とほとんど目線が変わらないくらいだから、余裕で170センチオーバーと見た。
「ケンです。よろしく。翼のある子がいると移動は楽なんですよ」
「みたいだな。恐れ入ったよ。じゃあ奥へどうぞ」
挨拶だけしてすぐにお暇するつもりだったんだけど、結局そのままアッカーさん達まで一緒に別室へ通されて、ここでも冒険者ギルドと同じ事を言われた。
要するに、なんでも買うぞとね。
「ええと、さっき冒険者ギルドでも言ったんですが、まだ持ってるジェムや素材の整理がついていないので、後日改めて向こうへ持って行きます。恐らくですが冒険者ギルドから連絡が来ると思いますので、共同購入って事にしていただけたらと思います」
「そりゃあ有り難い。じゃあドワーフギルドにも声をかけておこう」
買い取る気満々の言葉に、もう笑うしかない俺達だったね。
今夜にでも、宿泊所に戻ったらオンハルトの爺さんに手伝って貰って、残す物と売って良い物だけでも仕分けをしておこうと思ったよ。




