バイゼンに到着〜〜!
「噂はここまで届いてるよ。早駆け祭りの英雄殿、ようこそバイゼンヘ」
バイゼンは、今まで見た中で一番高くて巨大な城壁のある街だった。
そして街道の突き当たりにあったのは、その巨大な城壁に作られたこれまた巨大な城門。そこで警備をしていた兵士の一人が、俺のギルドカードをチェックして返す時に笑顔でそう言ってくれた。
「あはは、そりゃあどうも。しばらくここにいる予定だからよろしくな」
マックスの手綱を引きながらそう言って手を振ると、嬉しそうに笑って手を振り返してくれたよ。
「人気者だなあ」
からかうようなハスフェルの声に、振り返って苦笑いする俺だったよ。
「ちょっと気軽に走ってみるつもりだったんだけどなあ。なんだかずいぶんと有名になってて驚きだよ」
しかしハンプールや近隣の街なら、まあ賭け券を買っててもおかしくはないけど、幾ら何でもここではハンプールの賭け券は売ってないだろう。
それなのにあちこちから聞こえる、ハンプールの英雄の魔獣使いだって声に、俺は密かに首を傾げていた。
「まあいいや。それより早く中へ入ろう。どんな街なのか見てみたいよ」
せっかくなのでマックスの背に飛び乗る、この方が視界が高いから色々見えるんだよな。
新しく到着した街の人達が、毎回従魔達を見て驚くのはもうデフォなので潔く諦めていっそ目立つようにしてみる。だって、マックスの背の上にいれば、はっきり言って馬の背の上より確実に高いんだからな。
俺がマックスに飛び乗ったのを見て、ハスフェル達もそれぞれ自分の騎獣に飛び乗る。
そうだよな、いっそ悪目立ちして早く覚えてもらおう作戦だ。
「いやあ、改めて見ると中々に壮観な眺めだなあ。しかもこれ、紋章が全部同じなんだよ。あんな数の従魔を一人でテイムなんて普通出来るか?」
「普通は無理だと思うぞ。あいつ一体何者だ? 優秀な魔獣使いって言われた俺の爺さんでも六匹がせいぜいだったぞ」
感心したような呆れたようなアッカーさんの声に、隣にいる大柄な冒険者が腕を組んでしみじみとそんな事を言ってる。
「へえ、爺さんも冒険者だったのか?」
聞こえてしまい思わず振り返ってそう言うと、面白いくらいに飛び上がって驚いてる。
「うわあ! ああ、悪い悪い、急に話しかけるからびっくりしたよ」
誤魔化すようにそう言って笑ったその冒険者は、少し近寄って来て目を細めてマックスを見上げた。
「俺が子供のころに亡くなったんだけどな。爺さんは貴方の従魔よりはもっと小さかったけど、ハウンドをテイムしてたんだ。そのおかげでかなり有名になったらしいよ。他にはスライムや角の生えたウサギ、それから緑の綺麗な鳥やトカゲみたいなのもいた覚えがあるよ」
「へえ、そうなんだ。会ってみたかったよ」
「あはは、爺さんがお前さんの従魔を見たら、きっと腰抜かしてひっくり返るだろうなあ。ああ、名前も名乗ってなかったな。ヴィントだよ。剣士だ。よろしく魔獣使い」
「ケンだよ。よろしく」
笑顔で手を上げながら、今の話を聞いてちょっと考える。
「そっか、爬虫類もテイムできるんだから、イグアナみたいなのとかいたら格好良いかも。コモドドラゴンはちょっとゴメンだけどなあ」
そう呟いてあの飛び地で料理中にフライパンで対決した巨大なコモドドラゴンを思い出してしまい、密かに遠い目になる俺だったよ。
のんびりと話をしていた俺達だったが、あたりが薄暗くなってきた事に気づいて慌てて空を見上げる。
「立ち話してる場合じゃないぞ。早いところギルドへ行って宿を確保しないと街の中で野宿は駄目だろう」
「あはは、確かにそうだな。じゃあギルドへ案内するよ。こっちだ」
笑ったアッカーさんの言葉に、素直について行く。
「うわあ、建物が四角くて大きい。そして道が真っ直ぐだ!」
アッカーさんについて行き大きな通りに出た俺は、目に飛び込んできた光景に思わず声を上げた。
そこには、まるで俺の故郷の町のような光景が広がっていたのだ。
先ほど俺達が立ち話をしていたのは、城門から入ってすぐのところにあった大きな広場みたいな場所で、城壁に沿っていくつか屋台が出ている程度でそれほど賑わってるってわけじゃあなかった。
大抵の街は、そんな風に城門のすぐ中側に広場があって街にはすぐに入れないようになっている。
これはハスフェルから教えてもらったんだけど、そもそもこの世界の城壁は野生動物やジェムモンスターが街の中に入って来ないようにする為のものらしく、城壁が高くて頑丈って事は、それだけ危険な野生動物やジェムモンスターが周辺にいる地域なのだって意味になるらしい。
そしてこの城門横にある広場は、万一外から侵入された場合に、ここで迎え撃つ為の場所らしい。
なので当然屋台も全部移動出来る仕様になってて、馬車やリヤカーみたいなのが、そのまま店として使われていた。
そしてその広場からいくつかの道が広がってて、その中でも一番広いのがいわばメインの大通り。その大通りが街の中にある噴水や公園みたいな円形広場に緩やかなカーブを描きながら突き当たってまた道が延びて、と言った具合に、方向音痴には致命的な街が形成されているのだ。
しかし、この街は違った。
バイゼンの道は交差点が直角に近い。真っ直ぐに続く広い道と四角く大きな建物。ちょっと懐かしい故郷の街並みを思い出したね。
そして、さすがに職人の街。大通りにある店は見る限りそのほとんどが武器屋と防具屋だ。それ以外にも道具屋なども見えるが、どの店も山ほどの品物で溢れていた。
「後で商人ギルドにも顔を出したいんだけど、ついでに案内を頼んでもいいか? なんなら夕食ぐらい奢るから色々話を聞かせてくれよ」
せっかくバイゼンで活動する上位冒険者と知り合えたんだから、もうちょっと街の情報を仕入れたい。
そう思って声をかけると、アッカーさんは笑顔で振り返った。
「なんだ、嬉しい事を言ってくれるじゃないか。もちろん案内くらいいくらでもするぞ」
「おう、よろしく。それじゃあまずは冒険者ギルドで登録しないとな」
そう言いながら大通りの方を見渡した俺は、向こうからやって来た人を見て思わず驚きの声を上げたのだった。
「ええ? あの人、一体何に乗ってるんだ? もしかして電動スクーターか?」ってね。