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転移の扉と空の旅

「ほら、もう行くから帰ってこいよ」

 笑ったハスフェルに背中を叩かれ、フランマに抱きついて現実逃避していた俺は呻くような声で返事をして顔を上げた。

「はあ、そうだ、バイゼンヘ行くんだった」

 緑の触手の衝撃が凄すぎて、ちょっと思考回路が強制終了したみたいだ。

 小さなため息を吐いてフランマをもう一度撫でてやり、それから上を向いて深呼吸をする。

「お待たせしました」

 なんとか気を取り直して振り返ってそう言うと、何故かそんな俺を見て三人が笑ってたよ。

「それじゃあケンも復活したみたいだし、行くとするか」

 ハスフェルにそう言われてもう一回謝っておいた。



 小さくなれる従魔達は全員小さくなってもらい、草食チームと猫族軍団はマックスとニニ、それからカッツェとシリウスの背中に手分けして乗ってもらう。

 狼チームとセーブルは、中型犬サイズだ。まあこれなら狭いが全員一度に乗る事が出来た。

 ちなみに、ベリーの背には小さくなってるフランマとカリディアがご機嫌で並んで座ってたんだけど、あれって絶対ベリーは密かに喜んでると見た。ベリーももふもふ好きだもんな。



「ええと、何番に行くんだ?」

 ボタンの前に立った俺は、少し考えてハスフェル達を振り返る。

「21番だよ」

 右肩にいたシャムエル様が教えてくれたので、素直に21番を押す。

「ポチッとな」

 ゆっくりと扉が閉まり、一瞬の浮遊感。

 いやあそれにしても、何度乗ってもまんまエレベーターだよな。これ。



 そして、いつもこの転移の扉に乗るとあまりの非現実感に笑いそうになるんだよな。

 だって、リアルに普通のエレベータに乗ってるみたいなのに、俺は真剣をぶら下げて胸当てなんか付けてるし、マックスやニニは見上げるくらいに大きいし、従魔達は全員しゃべるし、仲間はみんなマッチョな神様だし、ケンタウロスはいるしカーバンクルはいるし、挙句にどう見ても尻尾の生えたハムスターな創造神様までいるんだからさ。

 これで笑わずにいられるかって。




 チン!

 俺の密かな苦労など知らん顔で、可愛らしいベルの音が室内に響く。

 ゆっくりと開く扉から順番に外へ出る。

 見た目は一緒だけど、壁に描かれた文字が変わっていた。そう、21とね。

「無事に到着したな。じゃあ上がるか」

 ギイがいつもの急な階段を見ながらそう言い、軽々と階段を登って行く。

 ハスフェルとオンハルトの爺さんがそれに続き、俺もその後に続いた。

「いよいよだね」

 嬉しそうなシャムエル様の言葉に、俺も笑顔で頷いたよ。




「うおお、これまたすごい景色だな」

 大きく開いた扉から外へ出た俺は、目に飛び込んできた景色に思わずそう叫んだ。

 だって、聞いてはいたが本当に巨大な岩がゴロゴロと重なり合うみたいにして転がっていたのだ。

 俺達が出てきたのはちょうどその岩場の真ん中あたりに突き出した小山の頂上にあった扉で、火山の火口みたいに頂上が大きく凹んでいてその中に扉が設置されていたのだ。

 確かにこれは翼がある従魔がいないと絶対に辿り着けない場所だろう。

「だけどそれなら鳥の従魔がいるランドルさんやリナさん達に見つかるんじゃあ……ああそっか、転移の扉自体、鑑識眼の持ち主でないと見えないんだっけ。それなら大丈夫だな」

 一人で納得している間に、巨大化したファルコとお空部隊に皆乗っているし。

 大鷲達の姿が見えて、俺も急いでファルコの背中に飛び乗ったよ。

「じゃあ今度こそ、バイゼン目指して出発だ〜〜!」

「いざ、バイゼンヘ出発だ〜〜!」

 ファルコの背の上で俺が笑ってそう叫ぶと、肩に座っていたシャムエル様がご機嫌で一緒になってそう言ってくれた。

「では行きますね」

 ファルコの声と共に羽ばたく音が聞こえ、ふわりと体が浮き上がる。

「うわあ、岩石地帯はここだけなんだ。それで他は深い森なのか。ううん、地上からあそこへ辿り着くのは至難の技だな」

 嬉々として地上を見下ろしながら、俺は小さな声でそんな事を呟いていた。



「なあ、もしもハンプールから地上を移動してバイゼンヘ向かうとしたら、どういうルートになるんだ?」

 単に思いついただけなのだが、気になったので少し考えてから俺の右肩に座っているシャムエル様に聞いてみる。

「ええ、さすがにそんな細かいところまで私は知らないよ」

 しかし首を振って当然のようにそう言われてしまい、苦笑いした俺はハスフェルに念話で聞いてみることにした。

『そうだな。行き方は幾つかあるが、一番早いのは船でゴウル川を遡って川の分岐点にあるイスラの街へ行き、そこから西南に流れるダリア川でまた船に乗る。そのまま川を下って南北グラスダルの街へ着いたら、あとは街道をひたすら北上すれば終着点がバイゼンの街だな』

『ちなみに普通の旅人ならどれくらいかかるんだ?』

『足が何かにもよるな。歩きなら、それこそ冬の間には絶対にたどり着けないな。馬ならまあ……頑張れば年内には着けるかな』

『だけど冬の長旅はあまりお勧めしないぞ。特にバイゼン周辺は冬になると雪が相当降るから、街道を行くのも一苦労だぞ。だからほとんどの奴は、そんな場合ならどこかの街で冬を越してから春の雪解けを待ってバイゼンヘ行くな』

 ハスフェルに続き、ギイが詳しく教えてくれる。

『へえ、バイゼンには雪が降って積もるんだ』

 俺の住んでいた地域は、冬にごくたまに雪が降る程度で積もることはほとんど無かった。たまに数センチ積もれば都市機能が麻痺してニュースになるくらいだったから、積もった雪ってちょっと憧れるんだよな。

 そりゃあ住んでみたら大変なんだろうとは思うけどね。



「また楽しみが一つ増えたな。今年の冬は雪国で冬を越すんだ」

 小さく笑って呟き、顔を上げる。

「ああ! なあなあ、あれってもしかしてバイゼンか!」

「ご主人、危ないから立っちゃ駄目です!」

 夕暮れにはまだ早い明るい空の下、はるか先にかすかに見えてきた街の影に気づいた俺は、もっと見ようと無意識に立ち上がりかけて下半身をホールドしてくれていたスライム達に叱られたのだった。

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