寝坊した朝と朝食
ぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
チクチクチク……。
ショリショリショリ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「ふあぁ〜〜い。起きます起きます……」
翌朝、いつものモーニングコールチームに起こされた俺は、ぼんやりと目を開いて呻き声を上げてニニのふかふかな腹毛に突っ伏した。
「起きないと……今朝の担当は、お空部隊の噛み付き攻撃じゃんか……」
何とかそう呟いた俺だったが、残念ながら襲って来た眠気にあっさりと飲み込まれてしまった。
ぺしぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺしぺし……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
つんつんつんつん……。
チクチクチクチク……。
ショリショリショリショリ……。
ふんふんふんふんふん!
ふんふんふんふんふん!
ふんふんふんふんふん!
久々の二度目のモーニングコールに俺は慌てて目を開く。すると、今まさに唇を噛もうとしていたセキセイインコのメイプルと目が合ってさらに焦る。
「起きました〜〜!」
しかし残念ながら俺が起きました宣言するのと、鳥達が嬉々として俺を噛むのは同時だった。
額の生え際と耳たぶと下唇をちょびっと噛まれた瞬間、俺は情けない悲鳴を上げて転がって逃げるのだった。
しかし転がった直後、スライムベッドに優しく受け止められて俺はまた驚く。別荘には豪華な広いベッドがあるんだから、スライムベッドで寝ているわけがないのに。
挙句に、ベリーの笑う声までも聞こえて慌てて飛び起き、スライムベッドに座った状態で改めて部屋を見回して分かった。
「ここリビングじゃんか。って事は……うん、この喉の渇きと頭痛の原因は理解した。そうだ、確かあのまま宴会になったんだっけ」
スライムベッドに仰向けに転がった俺は、高い天井を見上げて遠い目になる。
確かに途中までは記憶があるよ。
確か、サクラに急遽お願いして時間経過で無理矢理冷やしてもらったビールを追加で取り出し、新たな旅立ち万歳とか言って何度も乾杯したんだっけ。
机の上には空になったビールの瓶がゴロゴロ転がってるし、他にもワインの瓶や、何故かウイスキーや吟醸酒の瓶まで転がっている。
一体、あの中のどれだけを俺は飲んだんだよ。
痛む頭を押さえて起き上がり、何とかスライムベッドから降りる。
「ご主人これどうぞ〜」
サクラが出してくれたのは、例の美味しい水だ。しかもちゃんとキャップを取り外して渡してくれる気遣いっぷり。
「あはは、ありがとうな」
笑って受け取り、立ったまま一気に飲む。
「うああ、美味しい!」
そう言った俺は、乾いた身体に水が染み渡って行くのを実感していた。
「おはよう。ようやくのお目覚めだな」
突然、ハスフェルの声が聞こえて驚いて振り返ると、もうすっかり身支度を済ませたハスフェル達が、全員揃って笑いを堪えた顔で俺を見つめていたのだ。
「ええと、すみません、寝過ごしました」
焦ってとりあえずそう言うと、揃って廊下を指差された。
「構わないから、とりあえず顔洗って来い」
笑ったギイにそう言われて、俺はもう一度謝ってから従魔達と一緒に廊下にある水場へ向かった。
「はあ、それほど飲んでなかったみたいで、美味しい水で復活したな」
顔を洗ってそう呟き、いつものごとくサクラに綺麗にしてもらってから水槽の中に順番にスライム達を放り込んでやる。
別に俺がいちいち放り込んでやらなくても良いと思うんだけど、これも大事なスキンシップなのだろう。
って事で、全員放り込んだところでアクアゴールドとゲルプクリスタルになって楽しそうに二匹で水を掛け合いっこし始めた。
「ほどほどにな。濡れた床はきれいにしといてくれよ」
「はあい!」
揃った元気な声に笑って手を振り、俺も部屋に戻って大急ぎで身支度を整える。
サクラ達が戻って来たところで、作り置きのサンドイッチや飲み物を取り出し、とにかく食事にする事にした。
外は日がかなり高くなっているみたいだけど、まだ昼ってほどではない。多分10時くらい。
「あ〜じ〜み〜〜あ〜〜じ〜〜み〜〜〜あ〜〜〜〜〜じ〜〜〜〜〜〜み〜〜〜〜〜〜〜〜!」
サンドイッチを取ってる俺を見て、不思議な節回しの新作味見の歌を歌いつつシャムエル様はカリディアと二人仲良く並んで手を取り合って踊っている。
今日のダンスはいつもと違って、フォークダンスみたいに少しゆっくりのリズムで、くるりくるりと回転したり飛んだりしている。二人ともとても楽しそうだ。
最後は二人揃ってキメのポーズをドヤ顔で決めて揃って一礼する。
「お見事! 激しいダンスも良いけど、そういうゆっくりしたダンスも良いなあ。はいどうぞ」
笑いながら、厚焼きタマゴサンドといつものタマゴサンドを並べてお皿に乗せてやる。
「うわあい、ダブルタマゴサンドだ〜〜〜!」
それを見たシャムエル様が、歓喜の早足ステップを踏み始める。
当然カリディアが隣に来て、全く同じ踊りを踊り始める
「おお、今度も凄えな」
笑って拍手すると、二人揃ってまたドヤ顔になってた。
自分の分を食べる前に、ベリーに果物をまとめて出しておき他の従魔達にも分けてもらう。肉食チームはまだ大丈夫だと言うので適当に待っててもらう。
「さてと、じゃあ俺も食べよう」
って事で、自分の分用の厚焼きタマゴサンドと野菜サンド、それから串焼き肉の乗った皿を見て手を止める。
「せっかくだから、シルヴァ達に挨拶しておくか」
小さく呟き、いつもの簡易祭壇を手早く用意して俺の分のお皿とコーヒーとジュースのコップを並べる。
「作り置きですがどうぞ。今日はいよいよバイゼンヘ出発する日だよ。無事に着けるように守ってください。ついでに、平穏無事に新天地で冬が越せますように」
サンドイッチとドリンクだけでお願いするには少々無茶なお願いな気もするが、まあ神様なんだから別に大丈夫だろう。
小さく笑って、いつもの収めの手が俺の頭を撫でてサンドイッチとドリンクを撫でたり持ち上げたりするのを見ていた。
最後に手を振って消えていく収めの手を見送ってから、改めて自分の席へ戻る。
「何やら、シルヴァ達が大張り切りしていたぞ。お前さん、あいつらに何を頼んだんだ?」
ホットドッグを丸齧りしていたオンハルトの爺さんにそう言われて、俺は笑って首を振った。
「内緒だよ」
「何だそれは。まあいい、そう言えば、シルヴァ達が風呂に入りたがっていたぞ。今度この家に戻って来たら、大騒ぎになりそうだな」
すっかり風呂が気に入ったらしいオンハルトの爺さんの言葉に、ハスフェル達も笑っている。
「あはは、神様が気に入ってくれたら、この世界にもっと風呂が普及してくれたりしないかなあ。俺的には大歓迎なんだけどさ」
かなり個人的希望を述べたんだけど、三人に軽く笑われただけだったよ。
どうやら彼らには、この世界にそう言った意味での手出しは出来ないみたいだ。
そっち方面担当のシャムエル様は、風呂には全く興味なさそうだったもんなあ。ううん、残念。