冷えたビール最高〜!
「くあぁ〜! 風呂上がりの冷えたビール最高!」
一本だけの予定だったのだが、結局俺は気がついたら何故かどこからか出てきた二本目の白ビールの栓を開けていて、オンハルトの爺さんと二人でグダグダと今までの旅の話なんかしながら、のんびりと湯上がりのビールを楽しんでいたよ。
「いやあ、これは素晴らしいなあ」
「全くだ。ケンが入りたいと言うわけだ」
うっかり三本目の栓を開けてしまった直後、温まってまるで赤ん坊みたいにピンク色の艶っつやになった二人がご機嫌でそう言いながらリビングに戻って来た。
おお、ツヤツヤのピカピカになって男前度200パーセントアップ! って感じだな。風呂の威力凄え。
「な、な、な! めっちゃ気持ち良かっただろう?」
思わず振り返って早口でそう言って笑う。
二人は揃って満面の笑みでサムズアップを返した。よしよし、風呂好き仲間に引き込み成功!
「オンハルトも行ってこいよ。確かにケンの言う通りだ。湯に浸かると体が温まって疲れも取れるぞ」
オンハルトの爺さんの背中を叩いたハスフェルの言葉に、爺さんは笑って立ち上がった。
「二人にそこまで言われちゃあ、試してみない手はないな。では入ってみるとするか」
「待ってくださいご主人、ユプシロンも一緒に入れてくださ〜〜い!!」
「待って待って〜〜!」
「一緒に入る〜〜!」
オンハルトの爺さんに譲ったスライム達が、次々にそう言って嬉しそうに跳ね飛びながら後ろ姿を追いかけて行く。
ハスフェル達の背後にも、彼らに譲ったスライム達が、プルンプルンになって勢揃いしていた。
「あはは、やっぱりスライム達も一緒に入ったのか」
「おう、ご機嫌で泳ぎまわっていたぞ」
「良かったな、一緒に入ってきたのか」
笑いながらそう言い、手を伸ばして俺のスライム達と変わらないくらいにプルンプルンになったスライム達を撫でたり揉んだりしてやる……おう、風呂から上がったばかりのこいつらは、アクア達と違ってまだほんのりと温かかったよ。まさに人肌……。
いかんいかん、あらぬところがナニしそうになって慌ててスライム達を床に下ろしてやった。
「美味そうだな。その冷えたビールってまだあるか?」
一息ついた二人は、俺の残り半分くらいになった白ビールを見て、顔を見合わせてから揃って俺を振り返り、二人同時にそう言って空のグラスを取り出した。
「おう、あるよ。サクラ、冷えたビールを出してくれるか?」
サクラが二人の声を聞いて、出して良いですか? と言わんばかりに俺を見るので、笑った俺は、そう言いながらサクラを抱き上げて机の上にあげてやった。
「何本出しますか?」
とりあえず二本出してから、またサクラが俺を見上げる。
「どうだろうな。まあ、欲しいって言われたら出してやってくれるか。ええと、まだ冷えたのってあるよな?」
定期的に冷蔵庫を取り出して、ビールやジュースを順番に冷やしては中身を入れ替えるのを繰り返しているので多分まだあったはずだ。
「ええと、白ビールはあと25本冷えたのがあるよ〜!」
「冷えてないのは」
「185本あります!」
おう、最近は買ったジュースを冷やしてる事が多かったから、冷えたビールの在庫が減ってるよ。
「ううん、これはまずいな。じゃあ一晩だけでも空いてる冷蔵庫にまたビールを冷やしておくか。ハスフェル達も飲むのなら、もう少し在庫があった方が安心だけど、どうなのかな?」
そう呟きながらハスフェル達を振り返ると、冷えたビールをまるで水のように一気飲みした二人は、おっさんみたいな息を吐いた後、俺を揃って振り返った。
「もう一本お願いします!」
綺麗に二人の声が揃う。
「もう一本でいいんだな? 言っとくが俺はもう寝るぞ」
にんまりと笑いながらそう言ってやると、二人は一瞬だけ口籠った後、それぞれの収納から冷えていない白ビールをそれぞれ10本ずつ取り出した。
「これと冷えたのを交換してください!」
「あはは、そう来たか。じゃあ、冷蔵庫を出しておくから、それをここに入れてくれるか」
今は食材の仕込みもしていないので、冷蔵庫の中は冷えたビールがそのまま入っている。
いつもの飲み物用の冷蔵庫を取り出し、中身を取り出して10本ずつ二人に渡してやり、残り5本はサクラに預けておく。
ジェムと冷蔵用の氷がまだしっかりと入っている事を確認して、サクラが出してくれた冷えていない白ビールを入るだけ詰め込む。
「ううん、一切料理のしない独身野郎の冷蔵庫みたいになったぞ」
冷蔵庫いっぱいにぎっしり入った大量のビールの瓶を見て、思わず笑った俺だったね。
「じゃあこれはもうこのまま置いておいて、明日の朝回収すればいいな」
冷蔵庫の蓋を閉めた俺は、ちょうど戻って来たオンハルトの爺さんを振り返った。
「最高だったよ!」
これまた満面の笑みでサムズアップいただきました〜〜!
「オンハルト、この冷えたビール、今飲むと最高に美味いぞ」
笑ったハスフェルの言葉に、これまた瞬時に手の中に現れる空のグラス。
「いつもケンが飲んでる白ビールだな。どれどれ……」
グラスにギリギリまで注がれた白ビールを、爺さんがゆっくりと飲む、飲む、飲む。
「おお、これまた一気にいったな」
笑って見ていると、一気に飲み干して空になったグラスを下ろした爺さんは目を見開いて俺を振り返った。
「おお、これは美味いなあ!」
「だろ、だろ、だろ、風呂上がりはこれに限るって!」
俺もサムズアップで返し、結局さっきサクラに預けた残り5本の冷えたビールも全部出してやったよ。
「そっか、サクラに頼んでおけば冷蔵庫も時間経過で冷やしてもらえるのか」
小さく笑った俺は、中身の入った冷蔵庫をサクラに見せた。
「じゃあこれを一晩、そのままの時間経過で収納しておいてくれるか。そうすれば中のビールがしっかり冷えるから、明日にでもまた中身を入れ替えるよ」
「了解です。じゃあしっかり冷やしておきます!」
触手が出てきて敬礼したサクラは、モゴモゴとゆっくりと動いて冷蔵庫を丸っと飲み込んでしまった。
「さてと、それじゃあ俺はもう休むよ。明日は朝から出発かな?」
「そうだな。空の旅と転移の扉を利用すれば、明日中にはバイゼンヘ行けるだろう」
「いいなあ、せっかくだから明日の夜はバイゼンで一杯やる事にしようぜ」
空になったビール瓶を上げたハスフェルとギイの言葉に、オレも笑って机に置いたままになっていた空のビール瓶を捧げるようにして頭上に高々と掲げたのだった。