お風呂最高再び!
「念願の風呂タイムだ〜〜!」
勢いよく素っ裸になった俺は、そう言いながらタオル代わりの手拭っぽい布を引っ掴んで風呂場に入った。
「おお、これだよ、この部屋に立ち込める真っ白な湯気。ああ、いいねぇいいねぇ。これこそ風呂場だよ!」
今回は、しっかりとかかり湯をしてから湯船に足を入れる。
一度座ってから、やや浅い湯船に肩までつかれるように手足を伸ばして寝転がるみたいに体を後ろに倒す。頭は湯船の縁に引っ掛けてるから、こうしておけば溺れる心配は無い。
「あ゛〜〜〜〜〜〜」
気持ち良すぎてため息混じりの変な声が出る。
冷たくなっていた指先にしっかり血が流れているのだろう、若干ジンジンしている。
「全身温まって疲れが全部消えていくみたいだ。ああ、幸せだよぉ〜〜」
しばらく放心状態で温まってから、一旦湯船を出て石鹸で体を洗う。
もちろん汚れは全部サクラが綺麗にしてくれているから、そんなにゴシゴシ擦る必要はない。要は気分の問題だよな。
残念ながらシャワーは無いので、手桶で湯船のお湯をすくって頭から豪快に何度もかけて泡立った石鹸を洗い流す。
「ああ、ご主人だけずる〜い!」
「アクアも入りたいで〜す!」
「アルファも入れてくださ〜い!」
サクラの声が聞こえた直後、スライム達が閉めてあった風呂場の扉を開けて転がるみたいにして次々に風呂場に入ってきた。
風呂に入れる喜びのあまり、スライム達を部屋に放り出したまま入っちゃったんだった。
「あははごめんごめん。もちろん良いよ。ほら入りな」
ちょうど湯船にもう一度浸かるところだった俺が、笑いながら振り返って手招きしてやる。
「では、失礼しま〜す!」
一斉に跳ね飛んだスライム達が、一斉に湯船に飛び込んでくる。
しかし水飛沫はごく僅かで、スライム達は広い湯船の中を右に左にご機嫌でゆっくりと泳ぎまわっている。
いつの間にかクロッシェも出てきて、一緒になって風呂の中を泳いでいたよ。
ここなら人の目を気にしなくて良いから、クロッシェも自由にさせてやれるんだよな。
手を伸ばしてそっとレース模様を突っついてやり、程よく人肌程度に温まってるスライムの微妙な感触に、俺は一人で赤くなったり焦って青くなったりして一人芝居をしていた。
うん、そうだな。
もう上がろう。
長湯してのぼせたら大変だもんな。
「じゃあ上がるぞ。悪いけど洗い場に残ってる石鹸成分があれば綺麗にしておいてくれるか」
立ち上がってそう言いながら、手桶で湯を汲んで洗い場全体を流しておく。だけど石鹸成分って結構残ってるはずだから、ここはスライム達にお願いして綺麗にしてもらおう。
「了解で〜す!」
「綺麗にしておきま〜す!」
「よろしくな。この後、ハスフェル達も入るらしいからさ」
そう言いながら、一応壁面のバルブを開けてもう少しお湯を追加しておく。もちろん、氷も追加投入して若干さっきよりも低めのお湯の温度にしておく。
ハスフェル達はお湯に浸かるのは初めてだって言ってたから、あまり熱い湯は嫌がるだろうと思っての事だ。
「まあ、低いと思ったらお湯を追加して貰えば良いよな」
小さくそう呟き、風呂場を後にした。
「ご主人、綺麗にするね〜!」
風呂場から跳ね飛んで来たサクラが、そう言って俺を一瞬で包み込んで綺麗にしてくれる。
サクラがいれば、湯上がりのバスタオルは必要ない。ありがたやありがたや。
手早く服を身につけ身支度を整える。
とはいえ、もうこの後は寝るだけだから武器と防具は片付けてまとめて収納しておく。
「お先、空いたから入ってくれていいぞ」
「おう、じゃあ入らせてもらうよ」
「一応減った分のお湯は足してあるけど、もしお湯の温度が低かったら追加でお湯を入れてくれよな。熱過ぎたら、言ってくれれば氷を作るからさ」
「了解だ。それじゃあ先に行ってくるよ」
そう言って、何故かハスフェルとギイの二人が揃って立ち上がり、手を振るオンハルトの爺さんに手を上げてそのまま二人揃って部屋を出て行った。
「あれ、もしかして二人で入るのかな?」
一瞬驚いたけど、確か彼らは子供の頃から一緒だったって話を思い出してオンハルトの爺さんを振り返る。
「ああそうだよ。訓練期間中はずっと弟子達を敷地の一角にある建物で共同生活させていたからな。まあお互いの身体なんぞ見慣れているから、別に今更珍しくもないさ」
「成る程ね。まあ、あの風呂場は広いから、あの大きなマッチョ二人が入っても余裕はあるよ。ああ、だけど二人が湯船に一緒に入ったら、絶対湯が減りそうだ」
小さく笑った俺はもう一度風呂場へ戻って、追加の氷を作って風呂場の隅に木箱に入れて積み上げておいてやった。氷がいるならここから取って使え作戦だ。
脱衣所で服を脱いでいる二人に声をかけて、足早にリビングに戻った。
「はあ、風呂上がりの冷えたビール最高!」
一応明日は出発なんだけどどうしても飲みたくなって、一本だけだと自分に言い訳をしてから冷えた白ビールを開けた。
オンハルトの爺さんは、さっきからずっと赤ワインをまるで水みたいに平気でガバガバ飲んでる。ワインってもうちょっと味わいながら飲むものじゃないんですかねえ?
「いよいよバイゼンだな」
小さく笑ったオンハルトの爺さんの言葉に、俺も白ビールをぐいっと飲んでから頷く。
「旅を始めた当初から、バイゼンヘ行くって決めていたんだけどさ。結局あっちこっちへ流れ流れて、半年たった今まで全然辿り着けていなかったという」
笑った俺の言葉に、オンハルトの爺さんも一緒になって笑う。
「行った先で、これまた色々あったしなあ」
「本当にそうだよなあ。俺、この世界へ来てから何回死にかけてるんだろう」
若干遠い目になりつつそう呟くと、いきなり隣でオンハルトの爺さんが吹き出した。
「そこ、笑うな!」
と言いつつ俺も笑いながら死にかけた回数を数えようとしてやめた。
だって、主に俺の精神的に悪そうだからな。過ぎた過去は追いかけないぞ。と、……無駄に格好良く言い訳を決めてみる。
まあ、何はともあれ見知らぬ世界でここまで生き延びた俺に乾杯だ!