別荘に到着〜!
「それじゃあ、別荘に戻りますね。美味しい食事、ご馳走様でした。それからこのカードも、ありがとうございました」
貰った金色のギルド連合発行のカードを上げて見せてから収納した俺は、そう言いながら立ち上がってエルさんとアルバンさんに深々と頭を下げた。
「世話になったな。俺達は今夜は別荘で過ごして、そのまま明日の朝出発するよ」
ハスフェルの言葉にエルさんとアルバンさんも笑顔で頷く。
「道中気をつけてね、良い旅を。じゃあ、次に会うのは春の早駆け祭りだね。三連覇目指して頑張ってくれたまえ」
「あはは、勝負は時の運ですからね。でもまあ、出る以上は負けるつもりはありませんから」
笑顔のエルさんの言葉に俺も笑顔になる。一応二連覇の覇者なんだからさ、これくらいは言っても許されるだろう。
ドヤ顔で胸を張る俺を見て、ハスフェル達がこっそり笑ってたよ。
「そこ〜笑うな! 俺だってらしくないとは思うけどさあ。せっかくなんだから、これくらい言わせろ!」
「良いぞ、がんばれ〜〜」
「ヒューヒュー! 早駆け祭りの英雄殿〜!」
ハスフェルとギイの棒読みの応援に、俺は笑って二人の後ろへ周り、逃げられる前に思いっきり膝カックンしてやったよ。
わざとらしい悲鳴をあげて崩れ落ちる二人を見て、その場は大爆笑になったのだった。
「気をつけてね!」
「また会えるのを楽しみにしてるぞ〜!」
「どうぞお気をつけて〜〜!」
エルさんとアルバンさんだけでなく、商人ギルドのスタッフさん総出の見送りに、苦笑いした俺達は手を振り返してからそれぞれの騎獣をゆっくりと進ませた。
「そう言えば、新しい従魔達に首輪を買ってやろうと思って忘れているなあ。今は、ギイが出してくれたありあわせのリボンや紐を括ってるだけだし、バイゼンヘ行ったら真っ先に従魔達用の首輪を作ってもらうべきだな」
ニニと並んで仲良く歩くカッツェの長い尻尾を見ながら、俺はぼんやりとそんな事を考えていた。
「お疲れ様でした〜!」
「また春にお会いしましょうね!」
冒険者ギルドの前を通った時、慌てたように何人ものスタッフさん達が駆け出して来て、俺達に向かって笑顔で手を振ってくれた。
「また春にお会いしましょう! それまで皆さんもどうかお元気で!」
ハスフェル達は笑って見ているだけなので、仕方なく代表して俺が右手を上げて大きな声でそう言ってやる。
すると、それを聞いた街の人達がまた一斉に俺達に大注目した。
「ええ、もう行っちゃうんですか〜」
駆け寄って来た冒険者らしき男性の言葉に、俺は笑って頷いた。
「出発は明日だけどね。また春には帰って来ますよ」
「なあなあ、また次回もあのスライムトランポリン、やってくれるか?」
ちょっと遠くから聞こえた別の冒険者の大声に、俺だけじゃなくハスフェル達まで揃って吹き出す。
「おう、もちろんだよ。楽しみに待っててくれよな。だけど絆と光の店主のクーヘンが、商人ギルドの依頼で定期的にミニのスライムトランポリンをやるって言ってたぞ。気になるならそっちに聞いてくれ」
一応宣伝しておいてやろう。そう思って軽く言ってやったら、ものすごいどよめきと拍手と歓声がわきおこった。
ごめんクーヘン、長蛇の列確定かも……。
大歓声に見送られて大通りを抜け出した俺達は、新市街地の南側にある高級住宅地へ向かう。
高級住宅地の広い道を少し早足で進み、ようやく別荘に到着した。
「到着〜〜! 今日はもう何もしないぞ〜〜! 風呂に入ってダラダラするんだからな!」
笑ってそう言いながら、屋敷の入り口の鍵を開けて全員が中に入りまた施錠する。それから一気に坂道を上がって白亜の宮殿の前に到着した。
「ご主人、じゃあ最後に遊んで来ても良いですか!」
マックスが大興奮の尻尾扇風機状態で顔を上げてそう言うので、笑った俺はマックスの背から降りて鞍と手綱を大急ぎで全部外してやった。
ハスフェル達もそれを見て、それぞれの従魔の手綱と鞍を取り外す。
「ほら、行ってこい。日が暮れたら戻って来いよ」
「はあい、では行ってきます!」
マックスの声に、スライム以外の従魔達は全員揃ってものすごい勢いで庭の茂みを飛び越えていなくなってしまった。多分、川側の断崖絶壁の場所へ行ったのだろう。
でもまあ、俺の従魔達の運動能力の高さは知ってるから、落っこちる心配なんてしないけどね。
従魔達を見送った俺達は、顔を見合わせて吹き出し、そのまま屋敷の中に入って行った。
そのままリビングに決めた広い部屋に何となく全員が集まる。
「結局俺達だけになったから、明日はこのまま転移の扉を使って一気にバイゼンまで行けるな」
ハスフェルの笑った言葉に俺も笑って頷く。
「だな。いやあ、ようやくずっと目的地だって言い続けてたバイゼンだよ。どんな街なのか楽しみで仕方がないね」
「きっとケンは喜ぶと思うぞ」
ギイの笑った言葉にオンハルトの爺さんも笑って頷いている。
「俺はバイゼンまでご一緒したら一旦帰らせてもらうよ。だけど春の早駆け祭りの時には戻ってくるよ。ランドルを一人で参加させる訳にはいかんからな」
オンハルトの爺さんの言葉に、取り出していた麦茶の入ったピッチャーを倒しかけ慌てて掴む。
「そっか、オンハルトの爺さんは、バイゼンまでって言ってたなあ……」
昨夜のベリーと話をした時に感じた、何とも言えない別れの寂しさが込み上げてきてちょっと涙目になる。
「ん? どうかしたか?」
ハスフェルが驚いたように俺の顔を覗き込む。
「何でもない。ところで、まだもうちょっと時間はあるけど、夕食はどうする?」
昨日は肉だらけのガッツリバーベキューだったから、俺的には和食が良いんだけど、きっとハスフェル達はそれでは物足りないだろう。何を出そうか考えていると、ハスフェルが右手を上げた。
「何て名前だったかなあ。以前、カデリーの街へ行った時に作ってくれた、豆腐と細切れ肉の入った甘辛いソースみたいなの、あれが食べたいです!」
「ああ、あれは確かに美味かったな。ええと何とか豆腐って名前だったと……」
ハスフェルに続いて、ギイとオンハルトの爺さんまでが一緒になって考えてる。
「それなら麻婆豆腐だな。ええと……よし、作り置きがもうちょいあるからあるだけ全部出すよ。それ以外にも色々ちょっとずつ残ってるおかずをまとめて出すから、好きに食べてくれるか」
「そうだな。それならケンも最後にゆっくり出来るな」
「まあ差し入れやら何やらで、また大量の在庫が出来たからなあ。たまに肉を焼くぐらいで、しばらく料理しなくても良いくらいに料理の在庫はあるよ」
「ありがたい事だな」
笑ったハスフェルの言葉に、冷えた麦茶を飲んでた俺も笑って大きく頷いたのだった。