朝のもふもふ攻撃
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
ふんふんふん……。
ふんふんふん……。
「うん、起きる……」
いつもよりも少ないモーニングコールに起こされた俺は、大きな欠伸と共にいつもよりも硬い枕役のセーブルに手をついて起き上がった。
「ふああ、よく寝た」
ベッドに座って思いっきり伸びをする。
「ああ、そうだ。今日は差し入れしてくれた屋台やお店にお礼を言いに行かないとな」
甘えてくるうさぎコンビとタロンとフランマに揃って押し倒されてしまい、セーブルの枕に逆戻りした俺は、いつもより数が少なくて大喜びの従魔達を順番に抱いたりもふったりしてやりながら、何とか腹筋だけでもう一度起き上がった。
「ほら、起きるからどいてください」
俺の腹から胸に乗り上がって喉を鳴らしながらものすごい勢いで甘えてくるタロンをおにぎりの刑にしてやり、タロンと交代して飛び込んできたフランマとフラッフィーの尻尾を交互に撫でさすり、心ゆくまでもふらせてもらった。
「ううん、毛の量と手触りはフランマの方が上だな。だけどフラッフィーの尻尾も捨てがたい」
両方を同時に撫でさすり、思ったままの素直な感想を呟く俺。
「ええ、そんな事ないわよ。冬になったら、もっとふわふわになるからね!」
それを聞いてちょっと悔しそうにしながら、フラッフィーがそう言って長い尻尾で俺の鼻先を何度も叩く。
「私だって、冬になったらもっとふかふかになるんだからね!」
フラッフィーの声を聞いたフランマが、自分もとばかりにもふもふの尻尾を俺の頬から顎のあたりに、上下するみたいに往復させながら何度も叩きつける。
「おう、何この幸せ攻撃は……」
目を閉じてうっとりと無抵抗でもふもふ攻撃に晒される俺。
シャムエル様とベリーとカリディアの吹き出す声が聞こえて、俺も一緒になって吹き出したよ。
「いやあ、だって、もふもふ好きの俺が、これで喜ばないわけないっしょ?」
いっそ開き直った俺の言葉にまた吹き出す声が聞こえた直後、両横から巨大化したラパンとコニーが飛びかかってきた。
「私たちは全身モッフモフだもんね〜〜〜!」
「もふもふ毛玉攻撃炸裂〜〜〜!」
「うわあ〜〜、やられた〜〜〜〜!」
シャムエル様とベリーとフランマが、歓喜の悲鳴を上げてもふもふの海に沈む俺を呆れたような目で見ていたのだった。
『おはようさん。そろそろ起きろよ〜』
心ゆくまで従魔達と戯れていた俺の頭に、ハスフェルからの念話が届く。
『おう、おはよう。起きる起きる』
慌てて答えて、廊下にある顔を洗うための水場へ向かった。
「水遊びはここでは禁止な。水槽には入っても良いけど、床に水をこぼさないように。噴水は禁止だぞ」
跳ね飛んでついて来ようとするスライム達に慌ててそう教える。
「了解です!」
嬉しそうにそう言ってポヨンポヨンと跳ね飛ぶスライム達。
そのまま廊下に出たところで、先に来て水を使っていたギイが顔を上げて振り返った。
「おはようさん。はいどうぞ」
「おはようさん。ありがとうな、じゃあ使わせてもらうよ」
場所を代わってくれたので、お礼を言って顔を洗おうと水槽を覗き込む。
「ああ、待ってくださ〜〜い!」
「交代しま〜〜す!」
水槽の中にいたギイのスライム達が、俺に気付いて慌てたようにそう言いながら一斉に水槽から飛び出して来たのを見て思わず吹き出す。
「あはは、ごめんごめん。もう良いのか?」
「はあい、大丈夫で〜〜す!」
俺のスライム達と仲良くくっつきあって挨拶していたスライム達が、手を上げたギイと一緒に部屋に戻って行く。
「なんだかんだ言って、あいつらも譲った子達を大事にしてくれてるんだよな」
笑ってそう呟き、まずは流れる綺麗な水で顔を洗った。
いつものようにサクラに綺麗にしてもらってから、待っていたスライム達を水槽の中に放り込んでやる。
どうやら水を使うのは俺が最後だったらしく、後に誰も出て来ないのを見てスライム達をそのままにして先に部屋に戻る。
手早く身支度を整えたところで、ノックと共にクーヘンの声が聞こえた。
「おはようございます。朝食の準備が出来てますから、適当に降りて来てくださいね」
「おはようございます! ええ、朝食までいただけるのか?」
そう言いながら閉めかけていた剣帯をしっかりと締め、収納してあった剣を装着する。
「では、私達は先に厩舎へ行って待っていますね。ああ、果物を少し貰っても良いですか」
それを見たベリーの言葉に、振り返った俺は頷く。
「もちろん。スライム達から好きなだけ貰ってくれ。ああそうだ。果物の在庫ってまだ大丈夫か?」
「そうですね。まだ大丈夫ですが……もしも市場でイチジクと梨が売っていたらもう少し買って欲しいですね。あれもマナが多く含まれているんですが、売っている時期が短いんですよね。他には、ブドウやリンゴ辺りでしょうか。飛び地のあの果物とは別に、普通のリンゴやブドウもあればもう少し欲しいですね」
「了解だ。今日は市場にも行くつもりだから、見つけたら大量買いしておくよ」
「申し訳ありませんがお願いしますね。また地下洞窟に行ったら、代金代わりに頑張ってジェムを集めますから」
「私も手伝いま〜〜す!」
「私も手伝いま〜〜す!」
申し訳なさそうなベリーの言葉に続き、フランマとカリディアまでが張り切ってそんな事を言い出し、スライム達の中に保管しているあの地下迷宮で集めた未発表の大量の巨大なジェムを思い出して、ちょっと遠い目になる俺だったよ。
神様軍団だけじゃ無く、どうやらベリーの辞書にも加減とか自重って言葉は載ってなかったみたいです。
知識の精霊なのに、それはないんじゃね?