お疲れ様と明日の予定
「それじゃあ帰りますね。お疲れ様でした」
「はあい、お疲れ様でした〜〜!」
まだ片付けをしているスタッフさん達に声を掛けて手を振り、すっかり暗くなった街をのんびりと歩きながら俺達はギルドの宿泊所へ従魔達を迎えに向かっている。
リナさん達は、神殿に預けていた従魔達を引き取ってからギルドの宿泊所へ向かうらしく、街の入り口で別れたところだ。
歩いていると、あちこちから俺達に気付いた街の人達から、楽しかったよ。またやってくれ。と何度も声をかけられ、その度に俺達は笑って手を振り返したり、駆け寄って来た子供とハイタッチをしたりしていた。
「アルバンさんから、定期的に興業としてスライムトランポリンをやって欲しいと頼まれましたよ。まあ、十匹の大型は皆さんがおられる時だけにして、通常は一匹から三匹までのミニトランポリンでやってみようかと言ってたんですよね。それならバッカスさんのところの掃除用のスライムにも出動願えますからね」
笑ったクーヘンの言葉に、俺達も揃って頷く。
「確かにミニトランポリンも思ってた以上に大人気だったものなあ。あれだけでも定期的にやってくれるって聞いたら、皆大喜びしそうだ」
「確かに。子供向けだと思ってたけど、後半は大人の男性も多かったものなあ」
俺の呟きにハスフェル達も面白そうに笑っていた。
「ただいま〜〜〜! 良い子でお留守番してたか〜〜!」
「ご主人帰ってきた〜〜〜〜!」
「おかえりなさい〜〜!」
「待ってたよ〜〜!」
ギルドの宿泊所に到着して扉を開けてそう叫んだ瞬間、待ち構えていたマックスとニニを筆頭に、留守番組が全員揃って俺に向かって突撃してきた。
「ぶわあ。待て待て、ちょっ危ないって〜〜〜!」
扉を開いた途端に吹き出すみたいに飛び出して来たもふもふの塊に突撃されて、そう俺は堪える間も無く廊下に仰向けに倒れ込んだ。
「ご主人あぶな〜〜い!」
いっそのんびりしたアクア達の声が聞こえて、鞄から一瞬で飛び出したスライム達が一気に広がって俺の下敷きになって守ってくれた。
おかげで後頭部を激突させずに済んだよ。危ない危ない。
「おいおい、大丈夫か?」
驚いたハスフェルが、慌てたように俺の腕を引いて起き上がらせてくれる。
俺を押し倒したのはマックスとニニで、それ以外の従魔達は扉に詰まった状態で止まっている。
「お前ら、自分の今の大きさと扉の大きさを考えて行動しろよな」
苦笑いしながら、廊下に出ていたマックスとニニを順番に撫でてやる。
それぞれ小さくなって、申し訳なさそうに部屋に戻る従魔達を見て、苦笑いした俺はマックスとニニも部屋に入れてやる。
「それじゃあもう休むか。明日の予定はどうする? 出来れば出発前に、もう一度くらいは別荘で泊まってゆっくりしておきたいんだけどなあ」
幸い作り置きは、予定外に大量の差し入れをもらったのでしばらく作らなくてもいいくらいに在庫がある。
「いいんじゃないか。じゃあもう一泊くらい別荘で泊まって、ゆっくり休憩してからバイゼンヘ向かうとするか」
ハスフェルの言葉にギイとオンハルトの爺さんも笑って頷いてる。
結局リナさん一家とは別行動になったから、俺たちだけなら転移の扉を使えるって事だよな。よしよし。
「俺は、明日の午後にはリナさん達と一緒にここを出発して草原エルフの里へ向かう予定ですよ。次に会うのは、春の早駆け祭りでしょうかね」
笑ったランドルさんの言葉に驚いて振り返ると、ランドルさんは逆になぜ驚くのかとばかりにこっちを見ていた。
「そうか、彼らにしてみれば神様からのお告げを故郷の皆に伝えに行くんだものな。用事が済めば早々に向かいたいって事か。あれ? そう言えばアーケル君の剣は? 何も聞かなかったけど、もう出来てるのか?」
すると、ランドルさんとクーヘンがいきなり笑い出した。
「実は今日、スライムトランポリンに参加する前にバッカスの店に一緒に寄ったんですよ。何でも、剣そのものは出来上がっているらしいんですが、柄に術の強化の為の石を嵌めてもらうようにお願いしていたので、それの仕上げと最終調整にまだしばらく時間が掛かるらしくて、残念ながらまだ出来上がっていないらしいんですよ。それで相談の結果、先に草原エルフの故郷へ行って、例の話が終わればここへ戻ってくる事にしたみたいですね。その後は、あなた達を追ってバイゼンヘ向かうんだって言ってましたよ。何でも冬の間にバイゼンの地下洞窟に入るんだとか」
笑ったランドルさんの説明に、何故だかハスフェル達が大喜びしている。お前らも地下洞窟へ行く気満々なんだな。
「そりゃあそうだよな、一週間や十日くらいでヘラクレスオオカブトの剣が出来上がると思う方が間違ってるか、仕上げに時間がかかるのも納得だよな」
納得して頷き、小さくなって部屋から出てきた従魔達を順番に撫でてやる。
「じゃあ、一旦ここは撤収して、ギルドで部屋の鍵を返してそのままリナさん達に宿泊の手続きを取って貰えばいいんだよな」
「そうだな。じゃあギルドへ行ってまずは鍵を返して来よう」
ハスフェルの言葉に、このままここに泊まるランドルさんと別れて、俺達はまずはギルドに鍵を返しに向かった。
手続きはすぐに終わって、リナさん達があの部屋を使いたいって言ってた話をすると、すぐに掃除しますと言ってくれた。
まあほとんど汚してないと思うけど、従魔達が一日いたから掃除は必須だよな。
「ありがとうございました!」
笑顔で手を振るスタッフさん達に手を振り返し、俺達は従魔を引き連れてクーヘンの家へ向かった。
「地下洞窟ね。確かにヘラクレスオオカブトの剣を作ったら、行ってみようかって話になってたなあ」
地下洞窟ってろくな思い出がないんだけど……。
俺は若干遠い目になりつつ、隣を歩くマックスの首に縋り付いたのだった。