後片付けと今夜の予定
「お疲れ様でした〜! これにて打ち上げを終了致しま〜す!」
ちょっと酔っ払ってご機嫌なエルさんの声が公園に響き、あちこちから拍手と口笛が聞こえる。
空になったお皿を集めてやりながら、手早く焼き台の掃除を始めるマンマとスタッフさん達を見た。
鉄板の隅には、焦げた肉のかけらや野菜のかけらなんかが集められている。
よし、ここはスライム達の出番だろう。
「お疲れ様。ねえ、その汚れた鉄板やお皿ってどこで洗うんですか?」
さりげなく、スタッフさんの一人に声をかける。
「ああ、ケンさん。お疲れ様です。これはギルドへ手分けして持って帰ってスタッフ総出で洗って片付けるんですよ。こっちは冒険者ギルドの分。向こうの台とその横は商人ギルドの分なんです。打ち上げは良いんですけど、後片付けが大変でね」
そう言って、ちょっと疲れたように苦笑いするスタッフさん。周りのスタッフさん達も声が聞こえたみたいで、苦笑いしながら頷いている。
予想通りの答えに俺はにんまりと笑って頷いた。
「ハスフェル、ギイ、お前らのスライムは商人ギルドの分を担当してくれ。俺とオンハルトの爺さんのスライム達で冒険者ギルドの方を担当するからさ」
もうそれだけで、ハスフェル達は俺が何を言いたいのか理解してくれて、揃って吹き出した後、ベルトの小物入れからスライム達を呼び出していた。
「じゃあ俺はお皿を担当させるから、ケンはそっちの鉄板と道具を頼むよ」
オンハルトの爺さんも、小物入れから飛び出すスライム達を見ながらそう言って笑っている。
「了解、じゃあ皆、出て来てくれるか」
背負っていた鞄に向かって呼びかけると、ピンポン玉サイズになってたスライム達が次々と飛び出してくる。
「こっちの鉄板と焼き台、それからここに集めてある道具を綺麗にしてくれるか」
「了解で〜〜〜す!」
嬉しそうなスライム達の返事が聞こえた直後、バレーボールサイズになったスライム達が焼き台とその横に積み上がっていた生肉を並べていたお皿や焼くのに使っていたトングなどに殺到した。
「ええ! ちょっと待ってください!」
鉄板や道具ごと丸呑みするスライム達を見て、スタッフさん達が大慌てしている。
「大丈夫ですよ。あいつらは食って良いものと駄目なものをちゃんと心得ていますから」
「ええ、そうなんですか?」
驚くスタッフさん達の目の前で、スライム達はモグモグと飲み込んだ道具や鉄板を次々に綺麗にして吐き出していく。
とは言え、大きな鉄板なんかは数匹がかりで即席合体してそのまま飲み込んでモグモグやってるから、知らずに見たらなかなかにシュールな光景だよ。
せっせと働くスライム達を見て、ポカンと口を開けたまま驚きのあまり固まっているスタッフさん達。
「出来たよ〜〜!」
元気な声と共に、大皿やトングなどの道具類が次々に吐き出されていく。
スライム達も心得ていて、あまり綺麗になりすぎないようにしていて、いつもよりもやや落ちが悪いように見える。と言っても、普通に綺麗になってるよ。
だけど例えば、いつもなら絶対残さないであろうひび割れの隙間に染み込んだ汚れや、お皿の裏側に残るちょっとした汚れ、道具達の凹みや傷。そういった、使う際に問題にならないちょっとした汚れ程度は全部そのまま残ってる。うん、さすがだ。
「ああ、めちゃめちゃ綺麗になってる〜〜!」
ようやく我に返ったらしいスタッフさん達の歓喜の叫びが、ここだけでなくあちこちから聞こえて笑っちゃったよ。
そりゃあ、あれだけ大忙しだった後に、まだ大量の洗い物が残ってるって言われたら疲れもするよ。だけど、それが全部目の前で綺麗さっぱりなくなったわけだから、スタッフさん達の喜びようと言ったら、それはもう大変な大騒ぎだったよ。
「ありがとうございました〜〜〜!」
満面の笑みのギルドのスタッフさん達総出でそう言われて笑って手を振りかえし、スライム達を回収した俺達もそろそろ撤収する事にした。
「すっかり遅くなっちゃったな。じゃあ宿泊所に戻って、従魔達を連れて別荘へ戻るか」
大きく伸びをしながら俺がそう言ってハスフェル達を振り返った。
「もう暗いんだし、このまま宿泊所を使ってくれて構わないよ」
「おう、良いのか。じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ」
だけど、その直後のエルさんの言葉に、俺が何か言う前にハスフェル達が普通に返事したし。
って事で、このままもう一泊宿泊所にお泊まり決定〜〜!
ああ、またしても俺の癒しのお風呂タイムが〜〜〜! 号泣。
「お疲れ様でした。もう撤収ですかね?」
俺が一人悔し涙を噛み締めていると、元気なアーケル君の声が聞こえて顔を上げた。
「ああ、お疲れ様。そうだな。もう撤収して良いと思うよ」
そう言った瞬間、俺は良い事を思いついた。
「ええと、リナさん達は今夜はどこに泊まるんですか?」
さりげなく尋ねると、リナさん達は揃って困ったように顔を見合わせる。
「それが聞くところによると、ギルドの宿泊所の庭付きの部屋はもう後一つしか空いていないらしいんですよ。なので、誰が一階に泊まるか今話し合い中なんです」
それはつまり、誰が従魔と一緒に寝る権利を獲得するかって話だよな。
予想通りの答えに、俺はさも今思いついたといった感じにハスフェル達を振り返った。
「なあ、この街に家がある俺達が宿泊所を占拠してるせいで、リナさん達が泊まる所が無いって、駄目だよな」
「ああ、それは確かに申し訳ないな。じゃあ俺達は別荘に戻ってリナさん達に宿泊所を使って貰えば良いんじゃないか?」
返ってきたこれまた予想通りの答えに、俺は笑いそうになるのを必死で我慢していた。
「いえいえ、そんな、追い出すみたいで申し訳ないですよ」
リナさんとアルデアさんが慌てたように顔の前で手を振っている。
「お気になさらず、せっかく買った家なんだから使わないとね」
いえいえ、貴方達のおかげで別荘に帰れるんですから、俺的には大歓迎っすよ!
内心でサムズアップしながら、何でもない事のようにそう言って笑って二人の背中を叩いてやった。
「本当によろしいのですか?」
「申し訳ありません」
「ありがとうございます! これで皆と一緒に眠れます!」
リナさん達の声に続き、自分の欲望に忠実なアーケル君の声が重なる。
「従魔と一緒に寝ると最高だろう?」
もうこれ以上無い笑顔で頷くアーケル君と、俺は笑ってハイタッチをしたのだった。
「もう暗いですから、別荘まで戻るのは大変でしょう? よかったら家へどうぞ。皆さんの為の部屋がありますから、遠慮は要りませんよ」
その時、まさかのクーヘンの声が聞こえて俺達が揃って振り返る。
「そうか、クーヘンの家って手があったな。急だけど良いのか?」
ハスフェルの言葉にクーヘンは笑って大きく頷いた。
「言いましたでしょう。いつでも帰って来てくれて構わないって。まあ、あの大きな別荘があれば必要無いかもしれませんが、今のようにすっかり遅くなってしまった時なんかは、どうぞ遠慮なくお使いください」
「すまないな。じゃあ遠慮なく世話になろう」
当然のようにハスフェルが笑ってそう言い、結局俺達はギルドの宿泊所からクーヘンの家へ従魔達を連れて大移動する事になったのだった。
ああ、俺の癒しのお風呂タイムが〜〜〜〜!
作戦失敗。またしても内心で号泣する俺だったよ。