打ち上げ開始〜〜!
「おっ肉〜おっ肉〜〜おっにっく〜〜〜!」
「おっ肉〜おっ肉〜〜おっにっく〜〜〜!」
前述は、俺の頭の上に収まりご機嫌で肉が焼けるのを待っているシャムエル様の歌声。そしてもう一方は、なぜだかシャムエル様と全く同じフレーズで鼻歌を歌いつつ、商人ギルドのスタッフさん達が手早く切り分けて大皿に山盛りにしてくれる大量の肉を、焼き台の横の机にせっせと運んでいるアーケル君の声なのだ。
もう両方が聞こえる俺達は、先程から必死で笑いを堪えている。
「一体、何の歌だよそれ」
「「お肉の歌です!」」
思わず突っ込むと、これまた同時に全く同じ答えが返ってくる。
そして、とうとう堪えきれずに吹き出す俺達。
「なあ、アーケル君にはシャムエル様って見えてないんだよな?」
小さな声でそう尋ねると、一瞬で右肩に現れて座ったシャムエル様は楽しそうに笑いながらうんうんと頷いてる。
「見えてないんだけどね。なんて言うか、波長が合ってる的な感じ?」
「どうしてそこで疑問符なんだよ」
笑いながらもふもふの尻尾を突っついてやると、嫌そうに取り返される。
「ちょっとくらい良いじゃんか」
「大事な尻尾の毛が減るから駄目です!」
何故だかドヤ顔でそう言われてしまい、悔しくなってもう一度もふもふの尻尾を横から突っついてやったよ。
あっという間に準備が整い、公園の真ん中に四台並べられた大きな移動式の焼き台には、以前カルーシュの街の冒険者ギルドでやった宴会の時みたいな大きなコンロが設置されていて、何人ものスタッフさん達が網焼きと鉄板焼きでそれぞれ大量のお肉を焼いてくれている。
はっきり言って野菜はごく少量。ほぼ肉しか無いバーベキュータイムだ。
少し考えて、茹でてそのまま収納して合ったくし切りのじゃがいもを鉄板の隅に並べ、輪切りの玉ねぎも並べておく。
それから、差し入れでもらったおにぎりをどっさり、空いていた机の上に並べておいた。
俺は焼きおにぎりにして食うよ。この肉汁でおにぎりを焼いたら絶対美味いに決まってるよ。
「一応挨拶するからちょっとだけ待て〜〜!」
アルバンさんの大声に、あちこちからブーイングが起こる。そりゃあまあ、これだけ美味しそうに焼けた肉を目の前にして挨拶するから待てって言われたら、俺でもブーイングするよ。
って事で、ハスフェル達と一緒になって大笑いしながらブーブー文句を言ってやった。
「ええ、では僭越ながら、商人ギルドマスターのアルバンは、挨拶は嫌だと言うので、不肖、冒険者ギルドマスターの私、エルが、無事に終わった収穫祭の打ち上げに際しまして、ご挨拶をさせていただきま〜〜す!」
わざとなのだろう、ゆっくりと話すエルさんに、またしても笑い声と共にあちこちから遠慮のないブーイングが起こる。
ギルドのスタッフさん達、フリーダムすぎるよ。一応ギルドマスターって一番偉い人だよね?
「初めてのスライムトランポリンも大盛況でした。愉快な仲間達本当にどうもありがとう! 協力感謝するよ! 次回もよろしくね〜〜!」
笑い声と共に、大きな拍手が沸き起こり、仕方がないので代表して俺が笑顔で手を振っておいた。
「って事で、あとは好きに食え! 以上!」
大歓声と共に、一際大きな拍手が沸き起こり、ほぼ全員が焼き台に殺到した。
「はい、並びな〜〜〜!」
一番大きな焼き台の面倒を見ていた大柄な年配の女性が、そう言ってまるでホコリでも払うみたいに手で集まってきた人達を払う。
「お前さん達、スライムトランポリンに殺到する街の人達に、並べって一日中言い続けていたんだろう? それなのに、よもや自分達が並べないなんて事は、無いよなあ?」
最後は魔女の微笑みもかくや? と言わんばかりのにんまりとした微笑みに、お皿を持って殺到していたスタッフさん達が慌てたように下がり、何故か全員が素直に列を作って並んだ。
あの婆さん、誰か知らないけどなんか凄い。
完全に出遅れてしまい、感心して後ろで見ていると、笑ったエルさんの声が聞こえた。
「あれは街一番の居酒屋、黒猫亭の引退した元女将でね。今は息子夫婦と孫達が店を盛り立ててるよ。だけど大人しく座って隠居してる柄じゃないらしくてね。商人ギルドの役員は今も引き受けてくれているし、今みたいに打ち上げの時なんかは、大抵一番大きな台を担当してくれるんだよ。皆からは、今でもマンマと呼ばれて慕われてるんだ」
「へえ、そうなんですね。なんていうか……強そうな人ですね」
かなり控えめな俺の感想に、エルさんが遠慮なく吹き出す。
「まあ言いたいことはすごく良くわかるよ。何しろ、酔っ払って店で暴れる冒険者達を一撃で床に沈めて、片手でつまんでそのまま道路に放り出すような御仁だからね。一部の冒険者達は今でも黒猫亭に出入り禁止を食らってるよ」
「あはは、そりゃあ凄い。絶対逆らわないようにしますね」
俺の言葉にエルさんも笑いながら何度も頷いていたよ。
ようやく最初の大行列が捌けてきたみたいなので、俺も空のお皿をもらって短くなった列に並んだ。
当然、マンマのいる一番大きな台だよ。
「おやおや、早駆け祭りの英雄殿じゃあないか」
俺の番になった時、マンマが嬉しそうにそう言って顔を上げた。
「私もスライムトランポリンで遊ばせてもらったよ。いやあ、童心に帰るってのは、ああいうのを言うんだろうね。あんなに笑ったのはいつ以来か思い出せないくらいに笑わせてもらったよ。楽しかったよ。ありがとうね」
「気に入っていただけたのならよかったです。頑張って沢山用意した甲斐があるってもんです」
「ああ、ご苦労さん。たんまり食っとくれ」
これまた魔女の笑みでそう言ったマンマは、俺のお皿に焼き立ての牛肉やハイランドチキンのぶつ切り肉を山盛りに盛り付けてくれた。
「しっかり食いな。足りなかったらまた並んどくれ」
これならシャムエル様に好きなだけ取ってもらっても、俺の分は余裕でありそうだ。
「ありがとうございます。いただきます」
笑顔でお皿を受け取りそのまま横へ移動する。
だって、隣の鉄板では、今まさに焼きおにぎりが大量に出来上がっていたのだから、これを取らないって選択肢はないよ。
当然これもガッツリともらい、両手に山盛りのお皿を持って空いた席に座る。
「ええと、このまま手だけ合わせても大丈夫かな?」
一応、シルヴァ達にもお裾分けしたいんだけど、ここで簡易祭壇を出すのはちょっと無理っぽい。
「うん、いいよ。敷布だけ敷いてくれれば、彼女達には分かるからね」
俺の肩の上で、さっきから早足でステップを踏んでいるシャムエル様にそう言われて、俺は敷布を取り出して机に置いた。
「肉とおにぎりしかないけど、せっかくなのでお供えします。無事に大きな事故やトラブルも無く終わりました。ありがとうございます」
小さな声でそう呟き、そっと手を合わせて目を閉じる。
いつもの収めの手が現れて何度も俺の頭を撫でてくれた後、嬉しそうに山盛りの肉のお皿と焼きおにぎりのお皿を順番に撫でてから消えていった。
「無事に届いたみたいだな。じゃあいただくとするか」
そう言った俺は、空のお皿を手にして目を輝かせているシャムエル様と笑ってハイタッチを交わしたのだった。