早朝のセッティング!
「おお、この屋台飯なかなかいけるじゃないか」
それぞれ好きに取った用意されていたお皿には、いつもの屋台とはまたちょっと違ったメニューが色々と並んでいた。
その中でも俺が選んだのは、大きめのお椀によそったご飯の上に、たっぷりと茶色のソースがかけられた大きなハンバーグもどきが存在を主張している一品で、そのハンバーグもどきの上には目玉焼きが丸ごと乗せられていて、申し訳程度に端っこに乗せられた一粒だけのミニトマトと細切りのピーマンもどき。野菜は少なめだがなかなかに美味しそうな一皿だった。
そう、これはいわゆるロコモコ丼ってやつだな。
ハスフェル達は、当然のようにがっつり分厚い肉が挟まれたバーガーみたいなのを取っていたけど、俺はご飯があって嬉しい!
ハンバーグもどきにたっぷりとかかっていた茶色のスパイスの効いたバーベキューソースみたいなのも思った以上に美味しくて、気付けばあっという間に完食してしまった。
ちなみに、一人前の量が若干控えめだったので、シャムエル様にはこっそり取り出したタマゴサンドと焼いたベーコンを一枚を丸ごと進呈して、なんとか俺の食べる分は死守したよ。
ハスフェル達は、やや小さめのバーガーをあっという間に食べ終えた後は、それぞれ自分が持っていた串焼き肉やハムみたいなのを取り出して齧っていたよ。
分かるぞ。これ一皿は俺で丁度良い量だったんだからさ。ハスフェル達は、これ一皿では絶対物足りないだろう。
苦笑いして、こっそり揚げ物の盛り合わせたお皿を鞄の中のサクラに出してもらい、彼らの目の前に置いてやったよ。
食後にコーヒーをもらい、一息ついたらいよいよ準備開始だ。
その前に、食後に集まって簡単に地図を描いてどこにどんな風に配置するのが良いか相談した。
その結果、合計八個のスライムトランポリンを設置する事にした。
残りのメタルスライム達には、交代で一匹から二匹程度で大きなトランポリンが怖いであろう小さい子供達用のミニトランポリンを担当してもらう事にした。
まずはワンセットの十匹に出てきてもらって、適当に離れた場所に散らばってもらう。こちらは俺が担当して状況に応じて数を増やす予定だ。
大きい方のスライムトランポリンは、お互いの同じ色の子達を交換しあってからセッティングしたので、万一にも間違って合体する心配はない。
オンハルトの爺さんとギイがコンビになって、ハスフェルとランドルさんが実際の場所の長さを測って指示した箇所に直径約10メートルの円を描いていき、俺がそれを追いかけながら描いてくれた円の上に全員から預かったスライム達で、スライムトランポリンを順番に設置していった。
配置はレインボースライムとメタルスライムを二つ並べた状態にして、合計八台用意する事が出来た。
それぞれのトランポリンに置かれた踏み台の横には、ギルドから来てくれたスタッフさんに受付として立ってもらう。そして来てくれたお客さんからギルド特製の特殊なハンコが押された木札を受け取ってもらう。木札がチケットになるのだ。
これは公園入り口に設けられた巨大なテントで、貴重品の預かりと同時に、スライムトランポリンのお金を払ってその木札を渡す事になっている。その木札の枚数がそのままスライムトランポリンを利用出来る回数になる仕組みだ。
ちなみにこの木札、一度に大きいスライムトランポリンは五枚、子供用の小さい方は三枚まで同時に買えるらしい。
つまり、俺達はお金には一切触らず、そこの部分はギルドのスタッフさん達に丸ごとお願いしている状態だ。
一人五枚も買って木札が足りるのか心配になって聞いてみたけど、大量にあるし、使い回すから大丈夫だと言われた。まあ、そこは信じてお任せするよ。
俺は、基本はミニサイズのトランポリン達の管理をして、合間に他のスライムトランポリン達の様子も見る事になってる。ま、これは全員の言葉が分かるのが俺だけだからさ、俺にしかできない役目だよな。
そしてハスフェル達には交代で常に誰か一人以上は会場に立ってもらい、もしも無茶な利用や割り込みをする人がいれば、穏便につまみ出してもらう予定だ。
まあハスフェルやギイが会場に立っていれば、それだけで間違いなく無茶な事をする奴は減ると思うぞ。
そこまで終わる頃にはすっかり日も昇り、秋晴れの良いお天気になっていた。
そして、賑やかな人の声に振り返った俺は思わず固まったね。
何しろ、まだ解放していないこの公園入り口から見える街道を埋め尽くさんばかりに、最後尾が全く見えない、ものすごい大行列が出来上がっていたのだ。
並んでいる人達は、人種も職種も様々で、明らかに冒険者であろう大柄な武装した奴らから、手を繋いで目を輝かせている普段着の親子。十代半ばくらいだろうか、何人もの友人達と一緒に並んでいる子供達もたくさんいる。大柄だけど背は低いドワーフもあちこちに見えるから、職人通りの店は、もしかしたら今日は軒並み自主休業なのかもしれない。
「おいおい、もしかして街の人が全員来てるんじゃあないだろうな」
呆れたようにそう呟くと、すぐ近くにいたハスフェルも苦笑いしつつ頷いてる。
「あいつら、どれだけ言いふらしたんだ」
「あいつらって……もしかして、ギルドの裏の運動場でスライムトランポリンを体験してもらった、あの冒険者の皆さん?」
「ああ、そうだよ。さっきエルから聞いたんだが、レプス達がこの数日、街の店や酒場へ行く度に、いかにスライムトランポリンが楽しかったかを嬉々として話して回り、またそれを聞いた人達があちこちで言いふらしていたらしい。昨夜は、徹夜組が街道に既に大行列していたらしいぞ」
「マジか〜。ううん、どうする? 場所に余裕はあるから奥にもう二台、メタルスライム達だけでスライムトランポリンをやってもらうか?」
そう呟きながら、すぐ側のアクア達が作っているレインボースライムトランポリンを見る。
「なあ、一日休憩無しでも大丈夫か?」
「全然大丈夫だよ〜〜皆やる気満々なんだからやらせてくださ〜〜い!」
「そうだそうだ〜〜!」
「みんなやる気満々で〜〜〜す!」
「交代なんて絶対しないからね〜〜!」
一応、交代要員のメタルスライム達には、小さくなって俺の鞄に入ってもらっていたんだけど、その声が聞こえたらしく、いきなり鞄の中でモゴモゴと動いて自己主張を始めた。
『出してくださ〜〜い』
『出してくださ〜〜〜い』
『我々にも〜〜!』
『遊ぶ権利を〜〜〜〜!』
その声に思わず吹き出し、俺は大急ぎで本部のテントがある場所へ走った。
もちろん追加のスタッフさんの派遣をお願いする為だ。
結局、開場時間ギリギリまでかかって、奥にあと三台のメタルスライムトランポリンを作り、そちらの受付は追加できてもらったスタッフさんにお任せしておき、残りの十匹は、俺が担当する子供用のミニトランポリンを追加してもらった。
一匹の子と、二匹から三匹でくっつきあった子。大混雑が予想されるので、結局ここにもそれぞれにチケット受付用のスタッフさんに来てもらった。
ううん、ギルドの人海戦術ってすごい。ありがたやありがたや。
内心でスタッフさん達に手を合わせたところで大歓声が沸き起こり、拍手と共に公園の入り口を塞いでいた衝立が外された。
木札を握りしめた冒険者達が先陣切って走ってくるのが見えて、もう俺は吹き出しそうになるのを必死で堪えていたのだった。
さあ、いよいよ大騒ぎの始まりだ。
どれくらいの人がスライムトランポリンを楽しんでくれるんだろうな?