本日解散!
「いや、それは安すぎるだろう!」
これくらいかと思って提案したスライムトランポリン一回の価格だったんだけど、何故か全員から一斉に突っ込まれてしまい、俺は降参のポーズになる。
「ええ、どうせ原価ゼロなんだし、俺はそれくらいで良いと思うんだけどなあ」
「せめてそれの倍は最低でも取らないと。スライムトランポリンが、街でどれだけ話題になってると思ってるんだよ」
真顔のエルさんにそう言われ、ハスフェル達やランドルさんも隣でものすごい勢いで頷いているのを見て、俺は皆の意見に従って予定の倍額で価格設定をする事にした。
スライムトランポリンのミニサイズが一回銅貨二枚、大型のスライムトランポリンは一回銀貨一枚だ。
高いと思うんだけど、まあエルさんがそれで良いと言うので信じておくことにしたよ。
「ギルド所属の冒険者達も、ほぼ全員が並ぶ気まんまんだったからねえ。いざとなったら、行列の整理をするスタッフを追加して貰わないといけないかもしれないねえ」
腕を組んだエルさんに苦笑いしながらそんな事を言われてしまい、むさ苦しいマッチョな冒険者達が嬉々として並んでいる図を想像して吹き出す俺だったよ。
もっと簡単で、単に楽しんで遊んでもらえれば良いのにくらいに思ってたけど、なんだか思っていた以上に大ごとになってるみたいで、だんだん心配になってきた。
「ええと、ちなみにスライムトランポリン用に使える場所ってどれくらいあるんですか?」
エルさんを振り返って質問する。
「早駆け祭りの時に、外環沿いにあった大きな公園を覚えてるかい。あそこを今回は冒険者ギルドが丸ごと借りてるから、そこでスライムトランポリンをやってもらう予定なんだ。公園の端に幾つかスタッフ用のテントが張ってあるだけで、あとは好きに使ってもらえるよ」
「あれ、屋台が出るんですよね? 公園を使うんじゃあないんですか?」
「屋台が出るのは外環に続く街道沿いだよ。公園沿いの外環の一部も通行止めにして、そこにも屋台が出てるから、早駆け祭りほどじゃあないけどこれもかなり賑やかだよ」
「おお、良いですね。俺も今回は、ちょっとくらいなら屋台も見て回れるかな」
嬉しそうな俺の言葉を聞いたエルさんが、何か言いたげに俺を見ている。
「ええと、どうかした?」
「いや、きっとスライムトランポリンは今回の出し物の中では一番の大人気だろうからさ。スライム達を管理してくれる君達には、さすがにゆっくり屋台を見る時間はないと思うんだけどね」
「ええ、そんなあ〜〜俺の楽しみが〜〜」
突っ伏す俺の嘆きに、エルさんは笑っている。
「まあ、差し入れくらいはいくらでもしてあげるから、屋台見物は諦めて頑張ってくれたまえ」
「うう、よろしくおねがいします」
顔を上げてそう言った俺は、足元に擦り寄ってきたマックスを撫でてエルさんを振り返った。
「じゃあ、話はそんなものですかね。そろそろ眠くなってきたので、宿に帰らせてもらいますね」
「ああ、疲れてるのに引き留めて悪かったね。じゃあ明日も早いから、ゆっくり休んでくれたまえ」
立ち上がったエルさんもそう言って笑うと、俺の腕を叩いてから一緒に部屋を出て行った。
「それじゃあ、もう今日は解散だな。明日は早いらしいから頑張って起きないとな」
扉の前まで来て、そういった俺はハスフェル達を振り返った。
「寝坊するなよ」
「あはは、俺は従魔達が総出で起こしてくれるから寝過ごす心配は無いよ」
「毎朝お熱いことで」
笑ったハスフェルに額を突っつかれた俺は、手を上げて部屋に入ろうとする彼の後ろから膝カックンしてやったよ。
悲鳴を上げて崩れ落ちる彼を見て、それを見ていた全員揃って吹き出す。
「よくもやったな〜〜!」
いきなり復活したハスフェルに首を完全に決められてしまい今度は俺が悲鳴を上げる。
「ギブギブ、ごめんって。まさかそんなに綺麗に決まるとは思わなかったってば」
腕を叩きながら謝ると、額にデコピンしてから解放された。
今度は俺が崩れ落ちるのを見て、俺以外の全員がまた吹き出す。
「ああ、もう何やってるんだよ。ほら、もう寝る! 解散解散!」
俺も一息に立ち上がってそう言うと、今度こそ手を振ってそれぞれの部屋に入った。
「全く、良い歳した大人が何やってるんだってな」
部屋に入るなり甘えてきたニニとマックスを順番に抱きしめてやり、遅れて俺の背中に頭突きをするカッツェも抱きしめてやる。
「さてと、それじゃあもう疲れたし休むか」
別荘の風呂を思い出しつつ、諦めのため息と共に防具を脱いでサクラに綺麗にしてもらう。脱いだ防具はスライム達が綺麗にしてくれている。
「あれ、メタルスライム達も洗浄の能力はもらったんだな」
先を争うようにして、レインボースライム達と一緒に俺の防具を綺麗にしてくれてるのを見て思わずそう呟く。
「そうだよ。新しいスライム達には、全員に洗浄と収納の能力を付与しておいたからね」
いつの間にかベッドの枕の上に座っていたシャムエル様がそう言い、せっせと尻尾のお手入れを始める。
「おう、ありがとうな。そっか、じゃあこいつらにも頑張って色々教えてやってくれよな。あ、明日のスライムトランポリンの事も、教えておいてくれよな」
近くにいたアクアにそう言って撫でてやると、得意げに伸び上がってポヨンと跳ねた。
「任せて〜〜! 今、時間経過のやり方を教えてるところだよ。明日までにはいつもお手伝いしていることは、全部覚えられると思うからね!」
「おう、なんて優秀なんだ。俺のスライム達は〜〜!」
嬉しくなってそう言うと、アクアだけでなく、近くにいたサクラも一緒におにぎりにしてやった。
甘えてくるマックスとニニとカッツェに三匹がかりで押し倒されて、俺は悲鳴を上げながらベッドに倒れ込んだのだった。