明日の予定と打ち合わせ
「ところで、明日、スライムは当然全員連れて行きますけど、それ以外の他の従魔達ってどうすればいいですか?」
アルバンさんとエルさんにそう尋ねながら、俺はマックス達を振り返った。
広い部屋の隅で好きに寛ぐ俺達全員の従魔達は、今は大きな子達も大型犬から中型犬サイズに小さくなって仲良く寄り添って寝ているので、もう見ているだけでも幸せな光景だ。
しかし小さくなれない魔獣のリンクスが三匹も増えたおかげで、魔獣達はものすごい圧迫感がある。
「しかも、よく考えたらこいつらって首輪もしてないよな。ううん、どうするかな。いくら紋章があっても首輪無しは怖がる人がいるかもしれないなあ」
「それなら、ギルドの宿泊所を確保してあるから、従魔達にはそこで留守番していてもらえるかい?」
笑ったエルさんが嬉しい提案をしてくれた。
エルさん曰く、一応俺達が神殿に泊まれなかった時の為に、ギルドの宿泊所を確保してくれているらしい。
この祭りはいわば街の祭りで、外からの観光客はほとんど来ないらしい。
なので当然冒険者ギルドは、基本的には通常営業。
ちなみに一部の冒険者は警備の手伝いに駆り出されるらしい。聞くと、これは冒険者ギルドからの正式な依頼らしく、主に初心者の冒険者が割増の日当目当てに出てくれるんだって。
「それなら俺達は今夜は従魔達と一緒に宿泊所に泊まりますよ。これだけの数の従魔がいると、怖がる人もいるかもしれませんからね。明日の夜明けまでにここへ来れば良いですよね?」
知らない人が多数出入りする神殿の部屋よりも、少なくとも勝手が分かっているギルドの宿泊所の方が俺は有難い。
相談の結果、俺達とランドルさんがギルドの宿泊所へ行き、リナさん一家には神殿が用意してくれていた部屋に泊まってもらう事になった。
しかも彼女達からの提案で、祭り当日のスライムトランポリンには、クーヘンやリナさん達が連れているメタルスライム達も貸してもらえる事になった。その結果、予定よりも多い数のスライムトランポリンが提供出来る事になったんだけど、場所は大丈夫なのか?
従魔達も神殿の宿に泊まれるらしいので、俺達はそれぞれ自分の従魔達を引き連れてエルさんと一緒に冒険者ギルドへ向かった。
受付で宿泊所の鍵をもらってそのまま行こうとしたところでエルさんに呼び止められた。
「ああ、待って。疲れているところを悪いんだけど、明日の予定を説明しておくからちょっとこっちへ来てくれるかい」
スライムトランポリンに乗るお客さんには武装解除を条件にしたから、武器や貴重品を預かる保管箱と、その保管箱を管理するスタッフさんを冒険者ギルドが貸してくれるって言ってたもんな。打ち合わせは確かに必要だろう。仕方がないので言われた通りについて行く。ランドルさんまで一緒に付き合ってくれたよ。悪いねえ。
広めの会議室みたいなところに案内されて並んだ椅子に座る。従魔達はまた壁際に集まって仲良く寛いでいる。
「アルバンと相談して、言っていたように武器や防具、あるいは貴重品などを一時的に預かる場所を設ける事にしたからね。各ギルドのギルドカードがあればそれが鍵になるんだ。保管はギルドが提供する保管箱に入れるから安全だよ。ギルドからは受付用も含めて十人のスタッフを保管箱と一緒に寄越すからね、商人ギルドからも人が来てくれるから、スライムトランポリンの受付と貴重品の預かり、それから代金の回収に関しては彼らに任せてくれていいよ」
「代金の回収?」
「もちろん、お金の管理は専門家に任せた方がいいからね。それで一回幾らにするんだい?」
逆にそう聞かれて、俺はハスフェル達と顔を見合わせる。
「ああ、それは考えていなかったなあ。了解。いくらにするか考えます」
そう言って、俺は指を追って数え始める。
「ええと、レインボースライムが、俺とハスフェルとギイとオンハルトの爺さんの子達だから四台と、メタルスライムはランドルさんとクーヘンとリナさんとアルデアさんとアーケル君も参加してくれるって言ってたから……こっちが九台? 合計したら十三台もあるじゃん。ちょっといくらなんでも多すぎじゃないか?」
「ううん、確かに。予定は四個って聞いていたからねえ。追加は出来るくらいの広さは確保してあるけど、さすがに十三個のスライムトランポリンは想定していなかったね」
改めて数えてそう言うと、エルさんも困ったように考えている。
俺はハスフェル達と顔を見合わせ、ランドルさんも加えて相談を始めた。
「一般の人に受けが良いのは、やっぱりレインボーですかね」
「だろうな。祭りの表彰式の時のあれは、しばらく街の話題になっていたらしいからなあ」
「だけど、逆に冒険者達には絶対メタルスライムに反応するぞ」
ランドルさんの呟きに、ハスフェルとギイが答える。
「そっか、何も全員同時に働いてもらう必要はないよな。午前と午後とかに分けて交代すればいいんだよ。それに、例えばスライムには一匹か二匹くらい、これくらいになって貰えばスライムトランポリンに乗るのが危険な小さな子供さんでも遊べるんじゃね?」
考えていた俺は、そう言って両手を広げてみる。
「ああ、表彰式で君とハスフェルが追いかけっこをしていたあれだね!」
満面の笑みで手を打つエルさんに、俺は笑って頷く。
「じゃあ、こうしましょう。予定通りのレインボーカラーのトランポリンを三台。メタルカラーのトランポリンを一台か二台。余裕があれば、もう一台くらい用意しても良いかもしれませんね。それで、それ以外にスライム単体と二匹くらいの大きさのミニトランポリンを場所がある限りやりましょう。スライム達に頼んでおけば、小さな子が飛び乗っても落とすような事はしませんからね」
足元に転がってきていたアクア達が、一斉に直径2メートルくらいの大きさになる。
「これくらいですか〜?」
「ううん、子供用ならその半分くらいで良いんじゃね?」
「じゃあ、これくらい?」
直径1メートル強。文字通り子供が抱きつける大きさだ。
「こどもが飛び乗っても落っことさないように出来るよな?」
「大丈夫だよ〜!」
「任せて〜〜!」
何やらスライム達がめちゃめちゃ張り切ってるんだけど……。
笑ってスライム達を撫でてやり、俺はハスフェル達を振り返った。
「じゃあ、代金は……ミニサイズが一回銅貨一枚、スライムトランポリンは、一回銅貨五枚くらい?」
「いやそれは安すぎるだろう!」
エルさんだけでなくハスフェル達やランドルさんにまで同時に突っ込まれてしまい、俺は困って降参のポーズになるのだった。
ええ、原価ゼロなんだしそのくらいだと思うんだけどなあ……。