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夜のジェムモンスター狩り

 樹海を出た俺達は、レスタムの街を目指してなだらかな平原をマックスとシリウスの背に乗って駆け抜けて行った。

 来た時よりも少し早いペースで進み、更にはハスフェルからの提案を受けて、昼間に仮眠をとって、日が暮れてからも少し進んでみる事にした。


 一応、ランタンに火はつけていないが出してある。

 どうなる事かと心配だったが、思っていた以上に景色が見えて自分でも驚いた。

「へえ、本当に見える。確かに、日が暮れて真っ暗になっても、夜目が利くと便利だな」

 マックスの背の上で、周りの景色を見ながら感心していると、ハスフェルが不意に止まった。

 俺が指示する前に、気付いたマックスが止まってくれる。

「どうしたんだ?」

 マックスの首元を撫でてやりながら振り返ると、彼は右のほうに見える林を指差していた。

「ちょっと聞くが、あの林が見えるか?」

 マックスに乗ったまま、すぐ側まで戻る。

「ああ、林があるな。何かいるのか?」

「そうじゃなくて、他との違いが分かるか?」

 改めてそう尋ねられて、もう一度その林を見る。

 しかし、特に他との違いには気が付かなかった。


「ええと、特に変わりはないと思うけど、何が違うんだ?」

 とりあえず、素直にそう答える。

「色の違いだよ。分からないか?」

「色? 俺の目には、ほぼ白黒に見えてるから違いは分からないよ」

 だって、本当に今の俺にはモノクロの世界が見えてるんだから、そう言うしかない。

 昼間は綺麗な色彩に彩られた森や草原も、日が暮れて仕舞えば殆どモノクロの世界になる。

 森は真っ黒だし、草原も白っぽく見えるだけで、灰色に近い。夜空も星は綺麗だが背景は当然真っ暗だ。

 色彩という言葉とは程遠い世界に見える。

 俺の言葉を聞いたハスフェルは、何やら真剣に、無言で考えている。


「シャムエル。彼の鑑識眼はどこまで解放したのだ?」

 真顔のハスフェルから質問されて、俺の肩に乗っていたシャムエル様が、一瞬消えたかと思ったら彼の右肩に移動した。

「第一段階だけだよ。あまり見えすぎても、日常生活に支障をきたすかと思ってさ」

「それなら、第二段階までは解放してやれ。大丈夫だ。普通の人間でも、そこまでなら問題なく使える」

「あ、そうなんだ。了解。じゃあちょっと待ってね」

 不意に消えたシャムエル様が、俺の右肩に戻ってくる。

「ケン、目を閉じてくれる」

 俺の顔の前に身を乗り出すシャムエル様に頷き、ちょっと右を向いて目を閉じた。

「うん、良いって言うまで開けちゃ駄目だよ」

 顎のあたりに、もふもふの、恐らくシャムエル様の腹の毛が当たる。


 く、くすぐったい……!


 笑いそうになるのを必死で堪えて、俺は顎を少し引いて、俺の目に手が届きやすいようにしてやる。

「第二の目、鑑識眼の第二段階を解放する。その目を持って真実を見きわめよ」

 例の、神様っぽい声でそう言って、軽く俺の閉じた両目を叩いた。

「はい、もう目を開けても良いよ。どう?見え具合は」

 そっと目を開くと、目の前に広がる景色に、俺は驚きの声を上げた。

「おお、色が付いてる!」

 確かに、昼間よりも格段に暗い世界だが、普通に色が付いて見える。

 慌てて、さっき言われた右側の林を見てみた。

「なんとなく、葉が全体に赤っぽく見えるな。なんだあれ?」

「見えているな。じゃあもう少し近付くから、他にも見えたら言ってくれ」

 ゆっくりと、マックスとシリウスは足音を忍ばせながら近寄っていく。

「なんだ? 羽虫みたいなのが飛んでる?」

「見えたか。じゃあここまでで良い」

 ハスフェルの言葉に、二匹が足を止める。

「以前、夜しか出ないジェムモンスターがいると言っただろう。ここがそのジェムモンスターの出る場所だ。目印は、他よりも赤く見える木の葉とあの羽虫の群れだ」

「それって、どんなジェムモンスターなんですか?」

「冒険者の間では、ナイトメアと呼ばれてる。正式には、ブラックモスキートイーター」

 直訳すると、黒い蚊食い。なんだか嫌な予感しかしないぞ。

「ええと、そいつは具体的には、どんな姿?」

「夜目が利けば怖くはない。だが、普通の人間では、恐らく気が付かないうちに襲われてそれっきりだろうな。そろそろ来るぞ。降りろ」

 そう言ってシリウスの背中から軽々と飛び降りた。慌てて俺も後に続く。一気に飛び降りて地面に降り立つと、大急ぎで立ち上がって剣を抜いた。


「鳥か?」

 それは、鳩より一回り大きいぐらいの真っ黒な鳥で、広げても扇子みたいなやや丸い翼と、赤い平べったい広がった嘴を持っていた。要するに、全体的に丸っこい印象だ。それに、さっきの木が赤く見えたのは、この嘴のせいだったみたいだ。

 その鳥が数羽、木から飛び立ってこっちへ向かって飛んできたのだ。

 しかし、その飛び方は何だかフラフラとしていて、はっきり言って下手な飛び方だ。


「木から飛び降りて来た時に、あの蚊の群れに飛び込んで平べったい嘴で食うんだ。しかし、飛ぶ事そのものは、はっきり言って下手くそでな。すぐに地面に落ちる。落ちたら地面を走って木に戻るから、それを狙え。掬い上げるようにして剣を振ると良いぞ。ただし、足の鉤爪に気を付けろ。背中に乗られると厄介だからな」

「了解です!」

 話を聞く限り、なんだかかなり情けない鳥みたいだ。

 だけど、油断は禁物!

 前回、喰われかけた経験から俺は肝に銘じていた。

 ジェムモンスターを舐めてはいけない。

 この世界は、まだまだ俺の知らない事だらけなんだ。


 教えられた通りに、蚊の群れから少し離れたところで待っていると、確かに、奴らは蚊の群れに突っ込んだ後、ぼとぼとと地面に落ちているのが見えた。

 翼を畳んでもやっぱり丸いシルエットのそいつらは、鶏みたいに走ってこっちへ向かって来た。

「せい!」

 ゴルフのスイングの要領で、両手に持った剣を掬い上げるようにして振る。

 見事にヒットして。真っ黒なジェムになって転がった。


「キィキィキィ!」

 パニックを起こした鳥達が、やや甲高い声で鳴きながら逃げようとする。

 しかし、逃げようとするやつと、こっちへ向かって走ってくる奴らとがぶつかり合って、足元は大混乱に陥っている。

 とにかく、俺は必死になって剣を振り回した。


 少し離れた場所では、巨大化したタロンとニニとラパン、セルパンの女子組が、嬉々として鳥を叩いて蹴って転がしている。

 上空では、ファルコが上から鳥を叩き落としているのも見えた。

 マックスとシリウスも、嬉しそうに木の根本まで戻って来た奴らを叩いて転がしていた。

 うちの子達もよく働くね。

 ちなみに、ベリーはと言うと、完全に見学者に徹していて、少し離れた場所でのんびりと座って寛いでいた。

 そう言えば、ベリーが戦ってるのって見た事無いぞ。

 やっぱり、言っていたみたいに、魔法で一撃なのかね?

 そんな事を考えながら、俺は剣を振り回していた。

 鳥達はまだまだ途切れる事なく走って来るので、俺の剣の先に引っ掛けられて、鳥達が次々とジェムになって転がっていた。


 そのうちの一羽が、翼を羽ばたかせていきなり俺に向かって突進して来た。

「うわっと!」

 とにかく剣を立てて切りつけると、簡単にジェムになって転がった。しかし、その転がる先を見ている暇もない。

 次から次へと羽ばたいて突撃してくる。だけどそれだけだ。嘴は丸いから突かれたところで痛くも無い。その中途半端な反撃を俺は冷静に剣を振り回して防いだ。


 俺の背中はスライム達が守ってくれているが、正面からの突進は自分で防ぐしか無い。

 何度目かの突進で、足の爪で引っ掻かれて頬に傷が出来た。

 そのまま俺の肩に飛び乗ろうとするのを見て。上空で鳥を叩き落としていたファルコが急降下して来てくれた。

「ありがとうな!」

 また飛びかかってくるのを切りつけながら叫ぶ。

 サクラが回復薬を頬にかけてくれた。


 従魔達の見事な連携のお陰で、ようやく駆逐したようで、鳥達も、それから蚊もいなくなった。


「お疲れさん。引っ掻かれたときはどうなる事かと思ったが、万能薬を持っていたとは驚きだったよ」

 剣を収めたハスフェルの言葉に、俺は思わず質問した。

「なあ、もしもあのまま飛びかかられて、あの鉤爪でざっくり怪我してたら、どうなってたんだ?」

「聞きたいか?」

 ニンマリと笑うその顔に、嫌な予感しかしない。

「あの鉤爪には、ある毒薬に近い成分が出る仕掛けがあるんだ。睡眠薬みたいなものでな。まあ、かすり傷程度なら大丈夫だが、ざっくりいかれるとその場で昏睡するな。十日は目が覚めない。単独の冒険者なら最悪だ。運が良ければ目が醒めるまでその場で放置だが、運が悪ければ、その後出て来た、魔獣か野生動物の餌食だよ」

「何それ怖い! そう言う事は、先に言ってくれよ!」

「言っただろうが、鉤爪には気を付けろと」

 真顔で返されて、思わず口籠る。

「まあ、そうだけどさ。そうか、真っ暗な中で、いきなりあれに襲われてざっくりやられたら、確かに気が付かないうちに昏倒するな」

「分かっただろう。だから、ナイトメア、悪夢なんて名前が付いてるんだ。ただし、見えさえすれば怖いジェムモンスターでは無いな」

 納得して、足元に転がる真っ黒なジェムを一つ拾う。

 サクラとアクアが、あっという間に集めてくれた。

「終わったようだな。じゃあもう少し進んでおこう。それから仮眠だな」

「良い経験になったよ。色々ありがとうな」

 俺の言葉に、ハスフェルは笑って振り返った。

「まだまだ世界は広いぞ。ここなんて、世界の端の端だからな」

「ああ、楽しみにしてるよ」

 笑った俺達は手を叩き合って、それぞれの従魔に飛び乗った。

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