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アーケル君の紋章

「有り得ない! メタルスライムがこんなにたくさん! 第一、第一こんなに沢山いたら有り難みってものが全く無いじゃないか! 有り得ないだろうが〜〜〜〜!」

 何故か泣きそうな声でそう叫んでばんばんと机を叩くエルさん。隣ではスタッフさん達が壊れたおもちゃみたいにうんうんと頷き続けている。

「あの、エルさん。落ち着いてくださいって……」

 怖々話しかけた俺に、ガバリと起き上がったエルさんがすごい勢いで迫ってきた。

「まさかとは思うけど、これのジェムも……持っていたりする?」

 上目遣いのエルさんの言葉に笑って頷いた俺は、アクアが一瞬で入ってくれた鞄から例のラメ入りのジェムを取り出して机に置いた。

 またしても上がるエルさんとスタッフさんたちの奇声。ついでに言うと、アルバンさんの悲鳴も一緒に上がってたよ。



 ちなみに、ラメ入りのスライム達のジェムは確認したところ、定番と亜種の二種類のみだったようで、何故か色が違ってもジェムとしては全部同じだったんだよな。だからメタルスライムのジェムの種類としては二種類だけになってる。

 まあ、普通のスライム達も、色の種類は山ほどあるけどジェムの種類としては一種類だけで、しかも亜種は無しなので、亜種があるだけでも珍しいって事なのだろう。

 並んだ二種類のジェムを見て、無言になるエルさん達。

「このジェムは、クーヘンの店とバッカスさんの店にも委託しますので……」

「ギルドにも売ってくれ〜〜〜〜〜!」

 ギルドマスター二人の声が見事に重なり、相談の結果、俺達が持っている分をまとめて冒険者ギルドとクーヘンの店に、ランドルさん達とリナさん一家が持っていた分を商人ギルドとバッカスさんの店にそれぞれ渡す事で話がついた。



「それにしても、これは一般に見せても良いものなのか?」

 エルさん達は顔を突き合わせて真剣に相談を始めた。

「いや、エル。ここは考え方を変えるべきだ。ハンプールに来れば、いつでもメタルスライムを見られる。しかも、危険地帯とはいえ確実に出てくれる出現場所まで分かっているんだ。間違いなく腕に覚えのある冒険者はハンプールに殺到するぞ」

「だな。確かにその通りだ。カルーシュ山脈の奥地ともなれば、行ける奴はある程度絞られるだろう。今後魔獣使いが増えてくれば、メタルスライム目当てにハンプールへ来る魔獣使いやテイマーも増えてくれるさ。よし、例の一件、本格的に実現へ向けて考えるべきだな」

 揃ってうんうんと頷き合った後、何故かがっしりと握手を交わして俺達を揃って振り返った。

「あのね! さすがに春は無理かもしれないけど、近い将来、魔獣使いの方には三周戦とは別の魔獣使い専門のレースを企画するので、そちらで戦ってもらう予定です。皆さんもその際にはそちらに参加してくださいね」

 おお、以前言ってた魔獣使いレースが本当に開催されるかもって。まあこれだけ魔獣使いが増えれば不可能じゃあ無いよな。俺達以外にも、もしかしたらテイマーや魔獣使いが誕生しているかもしれないものな。

 エルさんの言葉に俺達は揃って拍手を贈ったのだった。

「さて、それじゃあ他の人達も順番に登録するよ。全員がメタルスライムを連れてるって事は、全員がメタルマスターの称号持ちになった訳だねえ。いやあ、これもこんなに一気に誕生したら、有難さなんてかけらも無いねえ」

 若干遠い目でそう呟いたエルさんは、次々に吐き出されるギルドカードを確認しては、刻まれた称号の文字を見ては乾いた笑いをこぼしていたのだった。

 世間様の常識をことごとく破壊しててごめんよ。




 なんとか全員の従魔登録が済んだところで、スタッフさんが例のポイントカードもどきの装置を乗せた台車を押してギルドへ戻っていった。

 台車を押す後ろ姿を見送りつつ、内心で手を合わせて謝っておく。忙しい時にお手間取らせてしまって申し訳ありませんでした。ってね。




「それじゃあ、次はここへ来た本来の目的だな」

 俺の言葉にアーケル君が満面の笑みで頷く。

「彼に魔獣使いの紋章を授けていただきたいんですよ。ご覧の通り、魔獣使いとして充分過ぎるほどの従魔をテイムしています。それに紋章無しの強力な従魔達が街の中にいると、街の住民の方々に不要な不安を煽ります。お忙しいとは思いますが何とかお願いできませんか?」

 アルバンさんにそうお願いすると、大きく頷き神官長を呼んでくると言ってくれて、また早足で部屋を出て行った。

 ううん、フットワークの軽いトップって格好良いよね。周りのスタッフさんは大変そうだけどさ。

 しかしさすがに祭り前日、さっきと違ってなかなか戻って来ない。



 手持ち無沙汰で無意味に立ったり座ったりしていると、アーケル君に不意に袖を引っ張られた。

「ん? どうかしたか?」

 驚いて振り返ると、照れたようなアーケル君が俺に何やら紙を取り出して差し出している。

「あの、実はこれ、俺が考えた紋章なんです。どうでしょうか?」



 そこには、リナさんとよく似た大きな丸の中に地面から生える双葉模様が描かれていたのだけど、その双葉の背後には、何故か大きく肉球模様が線だけで描かれていた。



「ケンさんには色々教えてもらったし、すっごく助けてももらいました。だから、母さんとケンさんの紋章から意匠をもらって考えたんです。あの、勝手に使って申し訳ありません。これを俺の紋章として使わせていただきたいんですが……駄目でしょうか?」

 呆然として言葉もない俺とリナさんを見て、今更ながら焦ったようにアーケル君が上目遣いで俺達に聞いてくる。

 俺はリナさんと顔を見合わせて揃って大きく頷き合った。

「そんなの、良いに決まってるじゃないか。こちらこそ嬉しいよ」

「何だか嬉しいねえ。息子が自分の紋章の意匠を引き継いでくれるなんてさ」

 俺とリナさんは、もうこれ以上無いくらいの笑顔でそう答えてアーケル君と拳と突き合わせた。



 その時、足音がしてノックの後にアルバンさんと、豪華な衣装を着た神官がきてくれた。何だか見覚えがあると思って考えて気がついたよ。以前、ホテルまでランドルさんの紋章の付与の際に来てくれた人だったよ。

 へえ、神官長って事は、偉い人だったんだ。

 密かに感心して、アーケル君が神官長に紋章を書いた紙を渡して話をしているのを見ていた。

「では、準備をして参りますので、ここでしばらくお待ちください」

 神官長は、そう言ってアーケル君の紋章を描いた紙を持って部屋を出ていく。

 あの紋章で、例のスタンプを作ってくるんだな。



 神官長を見送り、緊張の面持ちで椅子に座ってやや早い呼吸を繰り返すアーケル君を見て、俺は、彼があの衝撃の紋章の付与でどんな反応を示すか、実は密かに楽しみにしていたのだった。

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