街へ到着したものの……
「うわっ、何だよあれ!」
悲鳴のような声とともに、蜘蛛の子を散らすみたいに俺達の周囲からあっという間に人がいなくなる。
ドン引きする周囲の視線に、俺達は困ったように顔を見合わせた。
街道に入った途端、今まで以上に大きな従魔が大量に増えた俺達一行は、周囲の人達の大注目を集める事になってしまった。
いやあ、初めてここへ来た時みたいに、俺達の周囲だけ人がいません。遠巻きにして眺める。ってのを文字通りに実践されております。
久々の、周囲の人々の従魔に怯える視線に、俺は大きなため息を吐いて頭を抱えた。
「ええと皆様! どうかご心配なく! 全部、俺達の従魔ですから! 絶対に人を襲ったりしませんのでご安心くださ〜い!」
とにかく大丈夫だって事だけは伝えておかないと、こんな視線に晒され続ける従魔達が可哀想だ。
マックスの背の上で伸び上がるみたいに鞍から腰を上げて立ち上がった俺は、注意を集めるために右手を大きく頭上に挙げて、出来るだけ大きな声でそう叫んだ。
その言葉にそれぞれの従魔達は、大丈夫アピールでもするかのように可愛い声で鳴いたり、仲間の従魔達にすり寄って仲良しアピールしたりしている。
「だって、紋章が入ってない奴がいるぞ。ケンさん。あんた達の従魔じゃ無いって言うのなら、どこの誰が、そんなでかいジェムモンスターをテイムしたって言うんだよ!」
まあ世間の認識は、今の魔獣使いといえば俺と愉快な仲間達だけだもんなあ……若干遠い目になりつつも、俺は笑ってアーケル君を示した。
「彼が新しい魔獣使いだよ」
俺の紹介に得意げに胸を張るアーケル君に、周囲の人々がざわめく。
「ええ、草原エルフ……?」
「マジかよ。だけど草原エルフの魔獣使いなんて、初めて聞いたぞ」
「だけど、ケンさんがそうだって言ってるぞ」
「うわあ、マジかよ」
好き勝手言い放題の周囲に苦笑いした俺達は、もうそれ以上特に何かを言うこともなく、大人しく城門へ続く行列に並んだのだった。
「うわあ、また増えてるよ。有り得ねえ」
ようやく城門に到着した俺達一行を見た兵士の開口一番の言葉がこれって……。
「そうなんです。また色々と増えたんですよね。だけど大丈夫ですから、どうぞご心配なく。こいつらの安全は俺が保証しますよ」
一応ギルドカードを見せながら説明し、早駆け祭りの英雄が保証してくれるのならと、紋章を刻んでいない大量の従魔達を連れている俺達一行でも、何とか街へ入る事が出来た。
いやあ、早駆け祭りの英雄の名声、初めて役に立ったかも。
「ううん、先にギルドへ行って従魔登録するつもりだったけど、これはどっちを優先すべきだ?」
街へ入っても、周囲の人達の視線は変わらず恐怖に満ちたドン引き状態。それどころか、中には悲鳴を上げて走って逃げる人までいる始末だ。
予想以上の周囲の反応に、俺達は一旦歩みを止めて大きな建物の影に入って視線を遮った。
「とにかくこのまま先に神殿へ行こう。紋章を刻んでいない従魔がこれだけいると、事情を知らない人達の恐怖を煽りかねん」
「そうだな。走って逃げて怪我でもされたら問題だもんな」
って事で、俺を先頭に早駆け祭りの参加者で周囲をとり囲んで、真ん中にアーケル君がテイムした従魔達を隠し、神殿までの道を周囲の視線に晒されながら出来るだけ小さくなって進んでいったのだった。
しかし、ようやく到着した神殿で、俺達は予想外の光景に絶句する事になった。
いつもはほとんど誰もいないがらんとしている神殿が、何故だかあふれんばかりの大勢の人でごった返していたのだ。ここに大きな従魔達を連れて中に入るなんて、到底出来そうにない。
神殿前で呆気に取られて立ち尽くしていると、周囲の人達がまたしてもドーナッツ状に空間を開けて俺達を取り囲んでしまった。
「ああ、そうか。明日の祭りって、農協主催だけど祈りは神殿で行われるっていってたよなあ」
頭を抱える俺の言葉に、ハスフェル達も困ったように顔を見合わせている。
「いっそここから神官様を大声で呼んでみたらどうだ。紋章を授けていただきたいんですけど〜!ってさ。クーヘンの店みたいに、伝言ゲームしてくれないかなあ」
投げやりな俺の言葉にハスフェル達が同時に吹き出す。
「悪い考えじゃあないが、後でエルやアルバン達に思いっきり怒られそうだなあ」
笑いながらのハスフェルの言葉に、俺も同じ事を思っていたのでそう答える。
その時、救いの主が現れた。
「おいおい、いつまで経っても帰って来ないから、頼み事を忘れてあのままバイゼンヘ行ったんじゃあないかと思って本気で心配していたのに、何だよ、その従魔の数は。相変わらずとんでもない事をする奴だなあ」
商人ギルドのギルドマスターであるアルバンさんの呆れたような笑い声に、俺達は揃って振り返った。
神の助けキター!
いやいや、神様は大勢いらっしゃいますけど、ここはアルバンさんに助けていただこう。
「いやだなあ。アルバンさんからの頼まれごとを俺が忘れるわけないじゃありませんか」
誤魔化すようにそう言って肩を竦める。
「だな。それじゃあとにかくこっちへ。お仲間の皆さんも一緒にどうぞ」
笑ったアルバンさんにそう言われて、俺達は大注目を集めつつ、神殿の正面側ではなく大きな扉の横にあったいかにも関係者用の出入り口って感じの大きな扉から、神殿の中へ入って行ったのだった。
あれ? これって、もしかしてこのままここで夜明かしさせられるパターンじゃね?
嫌な予感に慄きつつ、前を歩くアルバンさんについて行ったのだった。
ああ、俺の癒しの風呂が〜〜〜〜! 号泣。