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クリスタルスライム

「もう、俺の理解の範疇を超えてるよ、勘弁してくれ〜〜〜!」

 頭を抱えて叫んだ俺は、そのまま膝から崩れ落ちた。

 そのままさっきのアーケル君みたいに地面にそのまま転がって、俺の目の前に飛んできた羽付き透明スライムのゲルプクリアを見上げる。

「大丈夫?ご主人」

「あはは、心配してくれてありがとうな。大丈夫だよ」

 心配そうなその声に乾いた笑いをもらしながら、なんとかそう言って地面に手をついて起き上がりその場に座り込んだ。

 これ以上無いくらいの大きなため息を吐いた俺は、目を閉じて少し考えてから顔を上げた。



「なあ、ちょっと聞いていいか?」

「なあに?」

 目の前のゲルプクリアーを見てそっと手を伸ばすと、素直にその手に乗ってくるゲルプクリア。

「その、クリスタル合成って、何?」

 思いっきりストレートな質問だ。

 だけど多分、良くも悪くも単純なスライムにはこれが一番正しい聞き方だと思う。

「何って、クリスタル合成は、クリスタル合成だよ」

 返ってきた予想通りの答えに苦笑いする。

「つまり、アクアゴールドみたいに、今のお前はゲルプクリスタルな訳か?」

「そうそう、綺麗でしょう?」

 得意気にそう言って、ふわりと浮き上がるとその場でくるりと一回転して見せる。

「確かに、無色透明のアクアよりもなんだかキラキラしてるって感じだけど、それがそうなのか?」

「そうだよ。これはクリスタルなんだよ」

「クリスタル……つまり、水晶?」

「そうそう。さすがはご主人だね。分かってくれて嬉しいです!」

 またくるりと一回転したゲルプクリア改めゲルプクリスタルは、嬉しそうにそう言いながらパタパタと小さな羽を羽ばたかせている。

「って事なんだってさ。こいつはアクアと同じ透明スライムじゃあなくて、クリスタル、つまり水晶スライムらしいぞ」

「す、水晶?」

 まだ話についていけず呆然としていたリナさんが、絞り出すみたいな声でそう言い、いきなり駆け寄ってすぐ近くまで来た。

 その後ろを、彼女のクリスタルスライムがふよふよと飛びながら追いかけてきた。

 ゲルプクリスタルをひっ捕まえようとしているのを見て、俺は慌てて先に捕まえた。

「リナさん、落ち着いて。捕まえて確認するのなら、自分の子でどうぞ」

 からかうみたいな軽い口調でそう言ってやると、我に返ったらしいリナさんはものすごい勢いで振り返って、彼女の後を追って飛んで来た自分のクリスタルスライムをいきなり両手で引っ掴んだ。しかも力一杯握りしめたものだから、小さな手の隙間から握りつぶされたクリスタルスライムが変形してはみ出てる。

 まあ、変形自在のスライムだから痛くも痒くもないんだろうけどさ。

 リナさん、相変わらず美少女な見かけによらずやることが乱暴です。



「お前は誰?」



 真顔の彼女の質問に、握りしめられたクリスタルスライムはちょっと苦しそうにプルプルと震えたあと、得意気に伸び上がった。

「今はアイリスだよ!」

 それは俺と同じオリハルコンスライムに彼女がつけた名前だ。

「成る程。クリスタルの時はオリハルコンが基本外面なわけか」

 ハスフェルがそう言って、自分の腕に乗せたクリスタルスライムに話しかけている。

「そうだよ! 今はハイドランジアが外にいま〜す」

 得意気なその返事にハスフェルも笑顔になる。ハイドランジアは、ハスフェルがオリハルコンスライムにつけた名前だ。ちなみに、ハイドランジアってのは、紫陽花の事だよ。

 それを見て、ギイやオンハルトの爺さんだけでなくアーケル君やアルデアさん、ランドルさんまでが慌てて立ち上がり、自分のクリスタルスライムのところへ言って話をしていた。

 しばらくして、ほぼ全員同時に大きなため息を吐き、それから大爆笑になった。



 もういつまでも笑いは止まらず、全員座り込んでひきつけを起こしたみたいに笑い続け、最後には笑いすぎて泣きながらそれでもまだ笑っていた。



「はあ、最後の最後にとんでもない展開だったな。しかし、これってどうするべきだ?」

 ようやく笑いがおさまったところで、なんとか立ち上がって改めてクリスタルスライムを見る。

「ええと、その羽って隠せるんだよな?」

「出来るよ。これでいい?」

 一瞬で羽を畳んで隠したゲルプクリスタルは、そのまま地面に転がってバスケットボールサイズになった。

「ええと、もっと小さくもなれるか?」

「出来るよ!どれくらい小さくなればいい?」

 そう言うなり、どんどん小さくなり、ピンポン球サイズにまで小さくなってしまった。

「おお、ここまで小さくなれるのなら、普段は小さくなって鞄に隠れてて貰えばいいよな」

 そう言って笑ってピンポン玉サイズになったゲルプクリスタルをおにぎりにしてやる。

「ううん、普通のスライム達とはまたちょっと違う弾力性だな。なんだろう、すごく覚えがあるぞ。ううん……あ、あれだ、硬めの低反発枕!」

 小さく呟いた俺は思わず吹き出し、誤魔化すように何度か咳をしてから水筒を取り出して水を飲んだ。



「やっぱり、これは隠すべきですかね?」

 同じくらいに小さくなったクリスタルスライムを手に乗せたランドルさんの困ったような声に、俺はハスフェルと顔を見合わせる。

「ううん、そこなんだよな。いっそ、ギルドマスターにだけはメタルスライム達を全員で見せて目の前で合体させるとか……」

「いや、その前に従魔登録をどうするか、って問題もあるよな」

 俺の言葉にハスフェルも考え込んでいる。

「だけど、こいつを迂闊に人目に触れさせるのは危険だろう?」

「だな、下手な好事家にでも目をつけられたら事だ」

 一気に真顔になるリナさんの背中をアルデアさんがそっと叩く。

「それなら、やはりこのクリスタルスライムの事は隠すのが良いのでは? 今ここにいる皆と、あとはクーヘンだけですよね。ならば、もう魔獣使いとその仲間達だけの秘密って事にしましょう」

 ランドルさんの言葉に真顔で頷き合った俺達だったが、アーケル君が突然右手を挙げた。

「はい質問です!」

「どうぞ」

 思わず条件反射でそう言ってしまう俺。

「ちなみに、そのゴールドのスライムは従魔登録しているんですか?」

 まだ合体したままで、パタパタとハスフェルの頭上を飛んでいるクシーゴールドを示す。

「ああ、これはしていない。だって実際には合計九匹以上のスライムが合体しているだけだからな」

 そう言われて瞬きしたアーケル君は、納得したように頷いた。

「そうか、実質ゴールドやクリスタルの子がいても従魔の数は増えてはいないわけか」

「じゃあ、とりあえずクリスタルスライムの件はゴールド同様に内緒って事で、逆にこのバラけたメタルスライムの状態の子を普通に登録すべきじゃない?」

 真顔のリナさんの言葉に俺たちも頷く。

 まあ普段は鞄の中とかに合体して小さくなって隠れてて貰えば問題無いだろう。

 もしもメタルスライムを誰かに見られたとしても、ここはあの飛び地と違ってそれなりの力量のある奴なら来る事だって可能な訳だから、メタルスライムはここで捕まえたって堂々と言えばいい。

 話がまとまったところで、ここで食べる最後の昼食の準備を始めた。

 食事が終われば、そのままここを撤収してようやくハンプールの街へ戻る予定だ。



 明日は祭り当日だから、必ず今日のうちにハンプールの街へ戻らなければいけない。

 普通なら、この距離を半日で帰るなんて絶対無理な距離なんだけど、俺達が乗っているのは全員が足の速い従魔だ。しかも持久力も抜群のね。

 手早くサンドイッチや作り置きの惣菜を取り出しながら、頭の中では祭り当日の大騒ぎの予想と、ようやく見えてきたバイゼンの街へ想いを馳せていた。



 そうだよ。俺達は忘れていたんだよ。

 称号がついたら、ギルドカードに隠しようのない文字が浮かび上がるんだって事をさ……。

 張り切った称号を授けたシャムエル様の仕事っぷりを俺達が知るのは、街へ戻ってからの事になる。

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