謎のクリアなスライムの正体やいかに?
「はあ〜〜〜〜? どうしてクリアがここにいるんだよ?」
目の間に転がる、俺の紋章を刻んだクリアなスライムを見て俺は思わず叫んだが、異変が起こったのは俺だけじゃあなかった。ハスフェル達やリナさん達、そしてランドルさんのテイムしたメタルスライム達までが、何故だか超定番のクリアな子に変わっていたのだ。
「ありえない、あれだけ苦労して集めたメタルスライムが消えた〜〜!」
頭を抱えてそう叫び、地面に転がるアーケル君。その隣では、アルデアさんと手を取り合ったきり瞬きもせずに固まっているリナさん。ランドルさんに至っては、クーヘンの分も合わせて、目の前に転がる二匹のクリアな子を見つめてその場に座り込んで半泣きになって笑っている、うん、ちょっとショックのあまりどこか壊れたみたいだ。
ハスフェル達も呆然としたまま、目の前のクリアな子と見つめあっているだけで全く動かなくなった。
全員がショックのあまり放心していると俺は逆に冷静になってきて、無言で目の前のテイムした覚えの無いクリアなスライムを見つめた。
だけど、額には間違いなく俺の紋章が刻まれているから、俺の従魔には違いない。って事は……。
「あれ? クリアにしては、なんと言うか……若干煌びやかと言うか……輝きがあると言うか……」
足元の短い草むらに埋もれるみたいにして俺を見上げるそのスライムは、バスケットボールサイズ。まあちょっと大きめのいつものスライムサイズだ。
だけど、ちょうど昼過ぎのほぼ真上からの光に照らされて、そのスライムが妙に輝いて見える事に俺は気がついた。
「もしかして……」
ふと思いついたそれは、間違いない気がして俺はクリアなスライムに向き直った。
「なあ、今のお前の名前を聞いていいか?」
「今はゲルプがいるよ〜」
予想通りの答えに、俺は安堵のため息を吐いて自然に座り込んだ。
「あはは、そう言う事か。そう言う事かよ〜〜〜!」
地面に突っ伏して、笑いながら右手でバンバンと地面を叩く。
「おいおい、何がそう言う事なんだよ。分かるように説明してくれ」
「だから、レインボースライムをコンプリートした時と一緒なんだよ。こいつらが全色揃ったら、クリアーに合体したわけだ!」
そう言ってハスフェルの肩に乗っかっているスライムを指差した。
「俺の子は今、全員はいないから合成出来ないけどさ」
アクアを捕まえてモミモミしながらそう言うと、ハスフェルは納得したように頷いて自分のスライム達を見た。
「おいで」
手招きした瞬間、あちこちにいたハスフェルのスライム達が跳ね飛んできて空中で合体して、リアルスズメサイズの羽付きゴールドスライムになった。
「もしかして……」
振り返った俺が、地面に転がるクリアなスライムを見つめると、まるで聞きたい事が分かったかのようにブルっと体を震わせた。しばしの沈黙の後一瞬でリアル雀サイズに小さくなり、その後にニョキって感じに左右に小さな羽が飛び出して、パタパタと羽ばたきながらすぐ側まで飛んで来る。
その羽も透明なんだけど、やっぱりなんとなくキラキラして見える。
「おお、やっぱりそうか。合体したら羽付きなんだ」
「成る程。メタルスライムが十色揃えば、羽付きクリアスライムに合体するとはねえ」
目の前を羽ばたく二匹の羽根つきスライムを見て、腕を組んで感心したようにそう言って笑っているハスフェル。
俺ももう堪えきれずに、横で大笑いしていた。
ようやく理解したギイとオンハルトの爺さんも、それぞれの羽を出現させたクリアなスライムを撫でたり揉んだりして大喜びしていた。
「ちょっと待った〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
突然響き渡るアーケル君の叫びに、彼らの存在をすっかり失念していた俺達は揃って飛び上がり、目の前で羽ばたいているハスフェルのクシーゴールドを無言で見つめた。
「そ、それ……何ですか? ってか、今突然出て来ましたよね、その金色の羽付きスライム! 一体どこから出したんですか!」
「待って、それより、レインボースライムちゃん達は何処へ行ったの?」
リナさんまで真顔になってる。
……まあそうなるわな。
苦笑いして大きなため息を吐いた俺は、クシーゴールドを捕まえて手に乗せると、リナさん達やランドルさんによく見えるように差し出した。
全員にガン見されて、恥ずかしそうにクシーゴールドが羽ばたく。
「皆さんが自力で確保するまでは内緒にしておくつもりだったんですけどねえ。バレちゃったらしょうがない。実はこいつは、クリアとピンククリア、それから、レッド、オレンジ、イエロー、グリーン、ブルー、ダークブルー、パープルのレインボーカラー七色の合計九色集まった結果、金色合成してゴールドスライムになった子なんですよ。羽付きなのは多分、合成して出来たスライムの特権なんですかね。ああ、ちなみにクリアな子とオレンジの子をくっつけると金色合成しますよ。ただし、スライムトランポリンの時みたいに、金色合成するなって厳命しておけば、合成はしないでもいられるみたいですね」
一応、水浴びの時みたいに遊んでいる時は無防備だからうっかりくっ付いたら合成しちゃうみたいだけど、人が大勢いるような場所では勝手に合成しないように我慢も出来るらしい。
俺の説明に、リナさん一家とランドルさんは、もうこれ以上無いくらいにぽかんと口を開けたまま固まった。
「定番のクリア二色にレインボースライム七色で、羽付き金色スライムになるって……」
「有り得ねえ、いくらなんでもあり得ねえって。そんなの聞いた事も無いよ」
ようやく頭が働き出したらしく、まだ呆然としつつもそう呟くリナさんとアーケル君。その横で、まだアルデアさんは立ち直れずにいる。
「あはは、あはは、あはは」
そしてランドルさんはまた壊れたみたいで、座り込んだまま側にいた巨大化したピンクジャンパーのクレープに抱きついて笑い出した。
すっかりカオスの様相を呈したその場に、なんとも暢気な声が聞こえた。
「ご主人、それはちょっと違うよ〜」
「はあ、何が違うんだ?」
声の主は羽付きクリアのゲルプクリア。
振り返った俺はそう尋ねると、くるっと一回転したゲルプクリアはドヤ顔になった。うん、俺には分かるよ。今のは間違いなくドヤ顔だった。
「これはクリスタル合成だから、クリアとは違うよ」
得意気に俺の目の前を右に左に飛びながら、またしても爆弾発言をかましてくれたのだった。
「もう、俺の理解の範疇を超えてるよ。勘弁してくれ〜〜〜!」
叫んだ俺は、悪く無いと思う。