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メタルスライムについて

「ふう、やっぱりタマゴサンドは最高だね」

 激うまジュースをぐいっと一気飲みしたシャムエル様は、ひとかけらだけ残してあったタマゴサンドを平らげながらご機嫌でそんなことを言ってる。

 ご機嫌な証拠は、シャムエル様のもふもふな尻尾が、さっきから俺の右手にボフボフと振り回されて当たっているからだ。いいぞ、もっとやれ。

 笑った俺も残っていた鶏ハムサンドを一口で食べ、後はのんびりとコーヒーを飲みながら周りを見回した。



 例のメタルスライムの湧き出る茂みを見て、小さくため息を吐く。

「なあ、ちょっと聞いても良いか?」

 小さな声で、尻尾のお手入れを始めたシャムエル様に話しかける。

「いいよ、何?」

 尻尾のお手入れをしながらも振り返ってくれたので、俺はメタルスライムの茂みを指で示す。

「アイアンスライムってのが、一番メタルスライムの中では出やすいって言ってたよな」

「まあそうだね。でもここ以外の普通のスライムの巣で出る確率としたら、十万匹に一匹くらいかなあ」

「おお、そんな低い確率なんだ。そりゃあまあ、あれだけスライムを狩った俺達でも見た事なかったもんなあ」

 苦笑いしつつそう呟き、さっきテイムしたばかりの赤茶色っぽいアンバーを呼んで手の平の上に乗せた。

 ちょっと得意気に伸び上がるアンバーを両手で揉んでやりながらシャムエル様を見る。

「ハスフェルにテイムしてやった銀色の子がアイアンスライムなら、こいつは何スライムなんだ?」

「え? 何って、その子もアイアンスライムだよ?」

「ええ、どう言う意味だ?」

 無言で顔を見合わす俺とシャムエル様。



 しばし無言で考えていたシャムエル様は、いきなりポンと手を打って俺を見上げた。

「ああ、質問の意味が分かった。あのね、銀色とその赤茶色はどちらも同じアイアンスライム。鉄の属性を持った子だよ。赤茶色は亜種で、その子はいわば酸化した状態な訳」

 今度は俺が無言になる。

「……つまり、鉄が錆びたわけ?」

「身もふたもない言い方するんじゃないよ。酸化鉄って呼んでちょうだい!」

「サーセン!」

 尻尾をブンブンと振り回しながら怒ったように言われてしまい、条件反射で思わず謝る悲しき元営業マン。



「ちなみにアイアン以外にはどんなのがあるんだ?」

 誤魔化すように笑ってこっそり尻尾を触ろうとしたが、嫌そうに取り返されてしまった。うう、ケチ。ちょっとくらいもふらせてくれても良いじゃないか。

「じゃあ、大サービスね! アイアン以外の種類は、ブロンズ、ブロンズ亜種、シルバー、シルバー亜種、プラチナ、それからミスリルと、アダマンタイトとオリハルコンだね。最後の三つは本当に超珍しい子達だから、いつ出るかは私も知らないよ」

「へえ、オリハルコンって、俺があの地下迷宮で見つけた、あれ?」

「そうそう、まあ超希少金属だから、あれをバイゼンヘ持っていって見せたら、そりゃあ大騒ぎになるだろうね。ううん楽しみだなあ」

「ええと、俺……あれとヘラクレスオオカブトの角で剣を作ってもらうつもりだったんだけど……」

「だから、バイゼンで誰に頼むにせよ、その人にとってはそれこそ一生一度の大仕事になるだろうね。それこそ、ギルドを上げてのお手伝いになるんじゃない?」

 頬をぷっくらさせながら、さりげなくとんでもない爆弾発言をかましてくれたぞ、おい。

「まあ、それは現地へ行ってから考えるよ。じゃあ、メタルスライム達の名前を考えてやらないとなあ。ううん何が良いかな」

 腕を組んで考える。

 ハスフェル達もリナさん達も、それからランドルさんも、皆完全に自分の考えに沈んでいて、俺とシャムエル様の会話は全く聞こえてないみたいだ。

 いつもながらこれってどういう仕掛けなのかね?



「なあ、ちょっといいか」

 ハスフェルが顔を上げて俺の腕を突っつく。

「おう、どうした?」

「テイムを始める前に、メタルスライムのテイムをする順番を決めておくべきじゃあないか?」

「ああ、確かに毎回確実に全員分が出現するとは限らないんだから、咄嗟に捕まえた貴重な子がダブった時の事は考えておくべきかもなあ」

 俺の呟きに、ランドルさんとリナさん達も揃って顔を上げた。

「確かにそうですね。万一ダブった時はお互い融通し合うにしても、ある程度は順番を決めておくべきかもしれませんねえ」

「じゃあどうする?」

「ふむ、どうするかなあ」

 ハスフェル達も困ったように考え込むので、俺は収納していたノートとつけペンを取り出した。

 まあ、この世界の一番定番の筆記具だよ。

「よし、あみだくじで順番を決めておこう。自分で捕まえた場合は基本自分でテイムして従魔にする。色がダブった場合はくじ引きで順番を決めておいて譲り合う事にしようぜ」

 俺がそう言ってあみだくじを作り始めると、リナさん達とランドルさんが揃って不思議そうな顔をした。

「あれ知らないか? ええと、俺の家ではよくやってたんだけどなあ」

 一瞬、俺の故郷って言いかけたんだが、ハスフェル達まで不思議そうにしていたので、慌てて自分の家のオリジナルって事にしておいた。

「こんな風に縦線を人数分引いて、横向きに線同士を適当に繋ぐんだ。引いた横線同士が交差しない事。ルールはこれだけ。それで真ん中をこんな風に隠してから、こっちに順番の番号を書き、こっちを好きに選ぶんだ。まあとにかく好きなのに名前を書いてくれよな」

 真ん中のあみだの部分を折って隠し、順番に好きな場所に名前を書いてもらう。俺は最後の一個の残り福だ。

 興味津々で見つめる中、折り返した部分を戻し、もう一度ペンを持ってくじを引き始めた。



「ほら、こんな風に横線が来たら必ず曲がる、それで下へ行ってまた曲がる。上に戻ったり、横線で曲がらないのは無しだぞ」

 説明しながら自分の名前の部分をまずは選んで線を引いていく。

「で、到着した番号が自分の順番なわけだ。おお、二番。なかなか良い番号だったぞ」

 笑った俺は、隣で目を輝かせていたアーケル君に黙ってペンを渡した。

 分かるぞ、自分で引きたいんだよな。



 嬉々として自分の名前の線を引いていくアーケル君。

 結局、リナさんとアルデアさんの分までアーケル君が引き、それ以外は自分で引いて順番も決まった。

 何故か最後のオンハルトの爺さんが引き終わると拍手喝采になったよ。

 何だよ。あみだくじがそんなに面白かったのか?




「さてと、順番も決まった事だし、それじゃそろそろ始めるか」

 ノートとペンを片付けて立ち上がった俺の声に、他の皆も顔を上げて立ち上がった。

 まずは手分けして使った食器をスライム達にきれいにしてもらってから、ちょっとだけ残った野菜とパンを収納して、机と椅子をきれいに片付ける。

 それから揃って少し準備運動なんかしてからメタルスライムのいる茂みへ向かった。



 さて、いよいよメタルマスター目指してテイムラッシュだぞ!

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