メタルスライム
「はあい、よろしくお願いしま〜〜す」
元気良く答えた銀色のスライムに、俺は笑ってハスフェルが決めたカペラって名前を伝えて、俺の紋章を授けた。もちろん場所は他の子達と同じ額の上だよ。
「お前は、俺じゃなくて別の凄い人のところへ行くんだからな。可愛がってもらえよ」
そう言ってひとしきり撫でてやってから、後ろで待ち構えていたハスフェルにカペラを渡してやる。
「新しいご主人ですか?」
「ああ、そうだよ。ハスフェルだ。よろしくな」
差し出されたカペラがハスフェルを見ながら伸び上がって話しかけるのを、俺は興味津々で見つめていた。
「はあい、よろしくお願いします! 新しいご主人!」
受け取ったハスフェルは、嬉しそうに話しかけながら大きな手でカペラをおにぎりにしている。
「おお、普通の子とまたちょっと手触りが違うな。ほら、見てくれよ」
笑ったハスフェルがそう言って、ギイとオンハルトの爺さんに見せに行く。
俺も、アンバーを捕まえてギイとオンハルトの爺さんに見せに行った。
「ほお、これまた面白い色だなあ」
オンハルトの爺さんの言葉にハスフェルとギイが笑って頷く。
「いやあ、まさか本当にあったとはなあ」
「だよな。これは間違いなくメタル系スライムだよな」
笑顔でウンウンと頷きあうハスフェルとギイの背後に、いきなりランドルさんが駆け寄ってきた。
「ちょっと待ってください! い、今テイムしたスライムは何ですか! その色〜〜〜!」
ものすごい大声で叫んだランドルさんは、アンバーとカペラに頭を突っ込みそうな勢いで覗き込み、直後に奇妙な悲鳴をあげた後、腰が抜けたみたいでその場にへなへなと座り込んだ。
「ま、まさか……それは伝説のメタルスライム!」
今からまさに、その話をでっち上げようとしていた俺達は、ランドルさんの悲鳴に続いて駆け寄って来たリナさん一家の更に大きな叫び声に、揃って目を見開く事になった。
「はあ、なんですか、その伝説って?」
芝居じゃ無しの俺の本気の質問に、真顔のリナさんが何度も頷く。
「これも草原エルフの里に伝わる伝説の一つです。メタルスライムを手にした者は更なる称号を手にしたのだと。ですが、残念ながらそれがどのような称号だったかまでは伝わっていません」
「まさか、ここでメタルスライムに出会えるなんて。ああ俺、テイマーになって良かった〜〜! 絶対、俺もテイムするぞ〜!」
感激のあまり、拳を握りしめて叫ぶアーケル君を、俺達は若干ドン引きしつつ見つめていた。
「へえ、俺達の故郷以外でもメタルスライムの言い伝えが残っていたとはな」
丸太みたいな腕を組んだギイが、感心したようにそう呟く。
当然、全員の視線が彼に集中する。
「俺が亡くなった爺さんから聞いた話なんだけどな。大昔はこの世界に幾つかメタルスライムの湧く箇所があって、そこへテイマーや魔獣使いが行けば、メタルスライムを捕まえられたんだって」
「ああ、その話なら俺も聞いた事がある。俺は全種類集められたらメタルマスターの称号を得られるんだって聞いたけどなあ」
同じく、これまた丸太みたいな腕を組んだハスフェルがうんうん頷きながらそんな事を言ったものだから、もうリナさん一家のテンションは天井知らずに上がりっぱなしだ。
「メタルマスター!」
リナさんとアーケル君は、まるで恋人同士みたいに手を握りあってキラッキラに目を輝かせている。
一見すると美少年と美少女のコンビだけど、あれは親子。しかも美少女は、五人の子持ちの肝っ玉母さんで、若干乱暴者。
ううん、相変わらず視界からの情報と脳内の情報が一致しなくて脳がバグるよ。
『なあ、ちょっと聞いていいか?』
苦笑いしてから深呼吸を一つした俺は、一応リナさん達の手前、シャムエル様にこっそり念話で話しかけた。
『ん? どうしたの?』
マックスの頭の上に座っていたシャムエル様が振り返って不思議そうに俺を見る。
『称号って何? 俺の中では勇者の称号とか、剣匠とかみたいに特別な人に与えられる呼び名って認識なんだけど、ちょっと違うみたいじゃね? この世界では何か特別な意味があったりするのか?』
『ああ、ケンの認識の称号もあるけど、この場合の彼らが言ってる称号ってのは、神殿で私が直接授ける祝福の称号の事を指すね』
『はあ、直接? 確かシャムエル様は人には直接手出しは出来ないんじゃなかったっけ?』
驚いてそう尋ねると、ちょっと考えてから笑って顔の前で手を振った。
『ああそんな難しく考えなくていいって。この場合の称号は、テイマーや魔獣使い専用の称号で、ちょっとだけテイムがしやすくなる特典があるよ。他は、ギルドカードに勝手に称号が浮き上がるだけなんだよね。だからそれは創造神から授かった祝福の称号だって言われてるんだ。実を言うと、他にも幾つか称号はあるんだけど、例の地脈が乱れてって話の少し前から、いろいろ大変でそれどころじゃ無くなってて、最近は付与するのもとんとご無沙汰なんだよね。だから君達がメタルマスターの称号を手に入れてくれたら、張り切って授けちゃうもんね』
器用にマックスの頭の上でくるっと一回転したシャムエル様は、なぜだかドヤ顔で俺を見た。
「だからケンも頑張って全種類制覇してね!」
『成る程。了解だ。じゃあ張り切って俺もテイムする事にするよ』
笑って宣言した俺は、右手を挙げて大きな声で叫んだ。
「提案です! 祭りまでの残りの日程、ここでキャンプしながら皆でメタルマスターの称号目指してメタルスライムをテイムしようぜ!」