夕食とデザート
「これは美味しい」
「へえ、カレーって肉の味付けに使うかスープにするくらいしか知らなかったけど、これは確かに美味しいわね」
アルデアさんとリナさんが、揃ってカツカレーを食べながら感心したようにそう呟いている。
アーケル君は、自分が焼いたチキン二種類をがっつり取って、目を輝かせて黙々と山盛りのカレーを食べている。
口いっぱいにカレーを頬張るものだから、両頬がシャムエル様みたいに膨らんでてちょっと可愛いと思ったのは内緒だ。
「ううん、以前は一日お預けでしたが、今回はすぐにいただけましたね。でも、これも十分過ぎるくらいに美味しいと思いますよ」
ランドルさんはトッピング全種類乗せにして、カレーもたっぷりかけてこれまた嬉しそうに頬張っている。
ハスフェル達は言わずもがな。当然のようにこちらもトッピングは全種類乗せにして、山盛りのご飯にカレーをかけて食べてます。
「念願のカレーだな。待たせて悪かったかな?」
からかうように俺がそう言うと、皆わかりやすく笑顔になる。
「いや、いつ作ってくれるかと待つのも楽しかったぞ。それにカレーの魅力の一つが、こうやって皆で作れるって事もあるな。一人では絶対出来ないけど、カレールウを作るのは得意になったぞ」
ちょっと得意げなギイの言葉に、皆が笑う。
「おう、頼りにしてるよ。次もよろしく!」
「任せろ。完璧なカレールウを作ってやるさ」
ドヤ顔のギイの言葉に、俺は笑って拍手しておいた。
「一日お預けって、どうして?」
口一杯になってたカレーをようやく飲み込んだアーケル君が、ランドルさんの呟きを聞いて不思議そうに彼を見る。
「ああ、何でも作ってから一日置いた方が美味しくなるんだって言っていましたよ。でも、今日のこれも、俺は十分美味しいと思いますね」
ランドルさんの説明に、アーケル君だけで無くリナさんとアルデアさんも驚いたように自分のカレーを見つめた。
「ええ、待って。まだこれ以上に美味しくなるって言うんですか?」
真顔のリナさんに、若干ドン引きしつつランドルさんが頷く。
「そうなんですよね。美味しいと言うか、こう……」
上手い表現が思い付かないらしく、説明の途中で考え込んでしまう。
「母さん。じゃあ良い方法があるよ。まだカレーはありそうだから、明日の夕食もカレーにして貰えば良い。そうすれば、どう変わったか食べ比べ出来るじゃないか」
笑顔のアーケル君の言葉に、お代わりする気満々だったハスフェル達が揃って吹き出し、カレーに咽せて咳き込んでたよ。
カレーとか香辛料のきつい料理で咽せると、鼻の奥とか痛くなるんだよなあ。
完全に他人事の俺は、咽せて涙目になってるハスフェル達を眺めながら自分のカレーをのんびりと楽しんでいたのだった。
え、もちろん俺のトッピングも全部乗せだよ。だって、シャムエル様がもらう気満々で大きな皿を手に待ち構えてたからさあ。
「おおい、この後にデザートも出すから、その分の腹は空けておいてくれよ」
手を振ってそう言ってやると、返ってきた元気なアーケル君の返事にまた皆で顔を見合わせて笑い合った。
「さて、何を出すかな?」
カレーを食べ終えお皿を片付けた俺は腕を組んで何をデザートにするか考えていた。
皆もそれぞれ食べ終えたお皿をスライム達に綺麗にしてもらって机の上を片付けくれている。残ったカレーの大鍋は、先に俺が鞄に隠れたサクラに飲み込んでもらっている。
「ううん、昨日はデコレーションケーキだったんだよな。二日続けて生クリームはちょっと……」
小さな声で呟いていると、後頭部の毛を引っ張られる感触に小さく吹き出す。
「はいはい。それで何がご希望だ?」
予想通りに現れた収めの手は、丸い形を作った後、その表面をツルツルと撫でるふりをして、何かを乗せるような仕草をしてみせた。
ジェスチャーゲームの開始だ。
「ううん、丸いケーキ?」
そうだそうだと言わんばかりに、上下に動く収めの手。よし、一つ正解したみたいだ。
「ホールケーキなら、在庫があるのはチョコ生クリームか、チョココーディングした……」
そう呟いた瞬間、それだと言わんばかりに拍手する収めの手。
「了解、これが良いんだな」
そう言って、サクラの入った鞄からチョコレートコーディングがツヤピカなチョコレートケーキを取り出した。上に飾られている赤い小粒の果物は、確かラズベリーって言うんじゃなかったっけ。
木箱から取り出して机の上に乗せると、アーケル君が奇声を上げて駆け寄ってきた。
「ふおおおお〜〜! こ、これは素晴らしい。これもケンさんが作ったんですか!」
キラキラに目を輝かせるアーケル君にドン引きつつ、俺は笑って顔の前で手を振った。
「まさか、さすがにこれを作れたらそっちの方が驚くよ。これは、クーヘンの店の横の広場に出ていた屋台で買ったケーキだよ。昨日食べたケーキと一緒の店だよ」
「へえ、そうなんですね。街へ戻ったらちょっと見に行ってみよう」
そう呟きながらチョコレートケーキを見つめるアーケル君を見て、俺は少し下がって彼の気が済むまで待ってやった。
「すみません、お待たせしました」
照れたようにそう言って席に戻るアーケル君の背中を叩いてやり、それから先に簡易祭壇にケーキを丸ごと置いてお供えしておいた。
「ご希望のチョコレートケーキだよ。これは変にデコレーションしない方が美味しいだろうから、俺達も切っただけでそのまま頂きます」
手を合わせて小さく呟き、収めの手が俺の頭を何度も撫でてからこれ以上ないくらいに嬉しそうにケーキを撫でて、何度も持ち上げてから消えていくのを見送った。
「お待たせ、それじゃあ切るからな」
拍手する仲間達に俺も拍手で応えてから、いつものようにお湯でナイフを温めては綺麗にナイフを拭いて八等分にカットした。
真ん中に山盛りになっていた赤い果物は、先にお箸を使って一旦全部取っておき、カットしてからお皿に小分けする事にした。
若干意識して大きめのを二つ作り、一番大きそうなのをアーケル君に、その次のを俺が貰う。俺の分を少し取ってもシャムエル様の分が沢山あるように一応気を使ったんだよ。
だって、もうさっきから俺を見つめるシャムエル様の瞳には、絶対エフェクト効果入ってるだろうって言いたくなるくらいにキラッキラになってたんだからさ。
果物を盛り付けなおしてから、それぞれの前に置いてやる。
カットしてる間にハスフェルがコーヒーを用意してくれたので、食後のデザートタイムもなかなかに豪華になったよ。
無意識にステップを踏んで待ち構えているシャムエル様に笑って、俺も自分の分のケーキとコーヒーを手に席についたのだった。