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今後の予定

「ええと……大丈夫ですか?」

 しばらくの沈黙のあと、地面に座り込んでドラゴンが消えた空を見上げたまま瞬きもせずに固まってしまっているランドルさんに、俺はそう言いながら右手を差し伸べた。

 しかし、ランドルさんからの答えが無い。



「ランドルさ〜〜〜〜〜ん! だ、い、じょ、う、ぶ、ですか〜〜!」

 顔を覗き込んで、目の前で右手を振ってやる。

「ううん、反応が無い。よし、これでどうだ!」

 全くの無反応なので、面白くなって耳元に口を寄せた。



「ラン、ドル、さ〜〜ん!」

 大きな声で耳のすぐ近くで呼んでやる。



「うわあ〜〜!」



 いきなりのものすごい悲鳴と一緒に文字通り飛び上がるランドルさん。

「おおすげえ。多分今、50センチくらいは確実に飛び上がったぞ」

 笑った俺の呟きに、ハスフェル達三人が揃って吹き出す音が聞こえる。



「ケンさん……い、今のって……夢じゃあないですよね?」

 慌てたようにもう一度上空を見上げた後、ものすごい勢いで横に立ってる俺を見上げた。

「ドラゴンがいましたねえ」

「そして、クリームが……」

「何やら不思議な声で、リナさん達にお告げみたいな事を言ってましたねえ」

「でもあれ、クリームの声じゃあ無かった……です、よ、ね……」

「ですねえ」

 俺の相槌に無言で頷いたランドルさんは、まるで壊れたおもちゃみたいにギシギシと音がしそうなくらいのぎこちなさで、側で自分を見つめている白鷺、もといイーグレットのクリームを振り返った。

「クリーム、だよな?」

「そうよご主人! あなたがテイムしてくれたクリームよ!」

 シャムエル様の声を届ける際、リナさん達のところへいった時に、何故かテイムした時くらいの大きさに戻っていたので、今はそのまま大型の白鷺サイズになっている。

「お前、一体……何をしたんだ?」

「そんなの私が一番聞きたいわ! いつの間にか体も元の大きさに戻ってるし、一瞬気が遠くなって元に戻ったら、ご主人じゃなくて草原エルフの皆さんのところにいたんだもの!」

 クリームのパニックぶりを表すかのように、大きな翼をバタバタ羽ばたかせながら何度も小さく跳ね回っている。

「あれを、覚えていない?」

「さっきからずっと、皆が変な目で私を見るの! ねえご主人、私、どこかおかしい? せっかくテイムしてもらえたのに、私はいらない?」

 泣きそうな声でそう言うクリームに、ランドルさんは呆れたように笑って手を伸ばした。だけどまだ腰は抜けたままだったみたいで、手が届かずに空振りしてしまう。

「ほら、とにかく立って」

 苦笑いした俺は改めて手を差し伸べ、今度は握り返してくれた手を力一杯引き上げてとにかく立たせてやる。

「大丈夫だよ。お前は大事な俺の従魔だ。絶対に捨てたりしないから安心していいぞ」

 緩やかにS字を描く細い首から滑らかな曲線を描く体へ、確認するかのように何度も撫でたランドルさんは、安心したみたいに大きなため息を吐いた。

「別にどこにも異常は無さそうだな。よかった」

 そう言って、そっとクリームを抱きしめた。

「へえ、クリームの羽の手触りは、マカロンとはまた違うんだな」

 笑ってそう言い、まだ跪いたまま固まっているリナさん達を振り返った。



「あれ、どうしますか?」

「どうしましょうかねえ?」

 苦笑いするランドルさんの言葉に、俺も同じく苦笑いしながらそう答える。

 あそこまでびっくりするとは思わなかったから、ちょっと罪悪感もあるんだよな。

「ええと、リナさ〜ん。アルデアさ〜ん。アーケルく〜ん」

 離れた所から呼んでも全くの無反応。

 そっと近寄ってみると、ランドルさんやハスフェル達もついて来た。

 俺がリナさん、ハスフェルがアルデアさん、ランドルさんがアーケル君の横に立ち、さっきの俺がしたみたいにそれぞれの名前を耳元で大声で呼んでやる。



「きゃあ!」

「うわあ!」

「ヒョエエ〜〜!」



 一名変な悲鳴を上げた三人は、揃って飛び上がりものすごい勢いで辺りを見回した。

「み、見ました?」

 もの凄く遠慮がちなリナさんの言葉に、俺は神妙な顔で頷く。

 いや、もう必死で我慢していないと吹き出しそうだったものでね。



「まさか、我らに御神託が下されるとは……」

「なあ親父、これはどうするべきだ?」

「どうすると言われてもだなあ……」

 困ったように顔を見合わせるアルデアさんとアーケル君。

「なあ、母さんはどう思う?」

「これは、どう考えても里に知らせなければいけないでしょう……」

 ドラゴンの消えた空を見上げて、リナさんは困ったようにそう言ってランドルさんを振り返った。

「ランドルさん。大変申し訳ないのですが、里に戻る際にご一緒いただけないでしょうか。貴方の従魔が御神託を賜ったのですから、それを見せるべきかと」

「まあ、それくらいお安い御用、と言いたいんですけど、それって今すぐですか?」

 右の頬を指の先でかきながらそう言って、困ったように俺を振り返る。

「ええと、何か問題ありますか?」

 首を傾げる俺に、ランドルさんは照れたように笑った。

「いや、スライムトランポリンに並ぶ気満々だったもので、今すぐ一緒に来てくれって言われたら、悲しいなあと、ちょっと思ったものでねえ」

 その言葉に全員揃って吹き出したよ。



「た、確かに。それを言うなら、俺も移動するのは祭りが終わってからにしたい!」

 笑って手を上げるアーケル君を見て、リナさんとアルデアさんが揃って大きなため息を吐く。

「お前はもうテイマーなんだから、スライムでトランポリンをやりたきゃあスライムをテイムすればいいだけだろうが」

「違うよ、親父はわかってねえなあ。祭りの日に、皆で一緒に大笑いしながらやりたいんだよ。一人でやったってそんなの面白くねえって」

 口を尖らせるアーケル君の言葉に、俺達はもう一度吹き出してから揃って拍手をした。

「いいんじゃないですか。じゃあこうしましょう。祭りまでここに滞在して、リナさん達はランドルさんと一緒にその草原エルフの里って所へ行ってください。俺達は当初の予定通りに、祭りが終わればバイゼンへ向かいます。冬の間はバイゼンに滞在予定ですから、里への伝達が終わればバイゼンへ追いかけて来てくださいよ。俺は冬の間に装備を一新する予定なんで、出来上がったら一緒にダンジョンに潜りましょう。それに、春の早駆け祭りにも参加しないとね」

「いやしかし、里へ戻るとなると相当の時間が……」

 途中で言葉が途切れ、ランドルさんがテイムしたクリームを見るアルデアさん。

「あなた、分かったわ、私とアーケルがイーグレットをテイムすればいいのね」

「分かった、親父の分もテイムしてやるよ。それでランドルさんにも一緒に行ってもらって、イーグレットに乗って飛んで行けばいい。絶対に里では大騒ぎになるから、その勢いで御神託の事を告げればいい」

 そう言って真剣な顔で頷くリナさんとアーケル君。

 ハスフェル達も笑顔で頷いているので、それで良いのだろう。



「じゃあ、今夜はこの辺りで休むか。で、明日二人には頑張ってテイムして貰えば良いんじゃあないか」

 予定が決まったところで、俺がそう提案するとギイが長老の木を見上げて首を振った。

「それじゃあ場所を変えよう。この奥に見晴らしの良い高台がある。そこなら何か来てもすぐに分かるだろうからな」

 確かに森に近いここは、いきなり森から出て来た何かに出くわす危険性がある。なのでここで休むのはちょっと無理だろう。

 リナさん達も頷いてくれたので、それぞれの従魔に乗ってとにかく移動する事にした。

「それなら今夜も作り置きか肉を焼くくらいだなあ。野外キャンプのお約束メニュー、皆でカレーを作ろうかと思ってたんだけど。それならカレーは明日かな」

 小さな俺の呟きに、いつの間にかマックスの頭の上に戻っていたシャムエル様の目がきらりと輝いたのに俺は考え事をしていて気付かなかったのだった。

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