誰がテイムする?
「じゃあ、せっかくだからそのイーグレットと戦ってテイムしてみましょうよ」
俺の声に、呆然として目の前の鳥と見つめ合っていたリナさんがもの凄い勢いで振り返った。
「ケ、ケンさん! 無茶を言わないでください。あれは、あれは……」
「ただのジェムモンスターですよ」
笑った俺の言葉に、それでもリナさんは困ったように振り返ってまだそこにじっとしている真っ白な鳥を見つめた。
「確かに、確かにただのジェムモンスターです。ですが、ですが長老の木に住む白鷺は、我々にとっては……」
そこで、俺はあえて質問した。
「ええと、俺は草原エルフについてはほとんど知らないので教えていただけますか。そもそも長老の木ってなんなんですか? それにあの鳥が何故、神の僕なんて呼ばれているんですか? 創造神様ならドラゴンでしょう?」
もう一度俺を振り返ったリナさんは、苦笑いしてため息を吐いた。
「確かにそうですね。ケンさんの疑問は当然です。まず長老の木は、自然の中に神が宿るとする草原エルフの考えの源になっているもので、創世の時代、創造神様は、最初に作った一本の木から様々な物をお造りになったとされています」
「ええ、じゃあこれがその元になった木だと?」
リナさんはアルデアさんやアーケル君と顔を見合わせ、また俺を振り返る。
「これがその木かどうかは分かりません。ですがこの長老の木と呼ばれている木は、他の樹木とは明らかに違う幾つかの特徴があります。ねじれたように伸びる太い枝と樹皮。そして特徴的なその葉。文字通り、他に無い唯一の木なのです」
思わず、手の中にいるシャムエル様を見てしまう。
「つまり、長老の木、って珍しい種類の木な訳ですか?」
俺の呟きに揃って頷くリナさん一家。
「ああ確かに! 長老の木は個別に作ったから他には無いね。この世界に二本だけだね」
まさに、たった今気が付いたと言わんばかりに手を打つシャムエル様の言葉に、俺は脱力したよ。本気で膝から崩れ落ちそうになるくらいに脱力したよ。
『相変わらず色々雑すぎる!』
さすがに声に出して叫ぶわけにはいかないので念話で力一杯叫んだら、まだトークルームは全開状態だったみたいで、ハスフェル達が同時に吹き出しかけて誤魔化すように咳き込んでたよ。
だよな。お前らもそう思うよな!
「じゃあ、草原エルフの里にある木と、この木は同じ木なわけですね」
見上げた俺の言葉に、リナさんも笑顔で頷く。
「故郷の森にある長老の木にも、同じく白い鳥、イーグレットが定期的に出現します。ここも同じようにイーグレットが出ると言う事は、やはりあの鳥が神の僕なのでしょう」
「いや、だから創造神様ならドラゴンでしょう?」
俺の疑問にリナさんが笑って首を振る。
「ドラゴンは、創造神様ご自身で、イーグレットは創造神様の言葉を伝える役目を担うとされています。現に里ではその昔、イーグレットから神託が下されたとの言い伝えが複数残されています」
「へ、へえ……御神託ねえ」
苦笑いした俺は、いわば完全に第三者の立場のランドルさんを振り返った。
「ランドルさんは、今の話をご存知でしたか。それにどう思いますか?」
「いやあ、その長老の木ってのも含めて初耳です。話を聞いても、正直に言うと凄い伝説だなあ、くらいにしか思えませんね。それに、俺は他でならイーグレットを狩ってジェムを手に入れた事は何度もありますよ。尾羽と冠羽が素材なんですが、装飾用として人気がありますよ」
苦笑いしているランドルさんを見て、俺は計画を実行することにした。
「じゃあ、ランドルさんならあのイーグレットをテイムしたいと思います?」
俺の問いに、ランドルさんはにんまりと笑って上空を見上げた。
「実はさっきから、あんなに綺麗な鳥ならちょっと欲しいと思っていたところなんです。ですが、草原エルフの方々が嫌がられるようなら、どうしようかと考えてもいます」
おお、予想通りの真面目な答えに俺は笑ってリナさんの肩を叩いた。
「どうですか。あれをランドルさんがテイムしても構いませんか?」
こちらも苦笑いしたリナさんが俺を見上げる。
「どうぞご自由に。草原エルフでもない皆さんの行動にまでとやかく口出しするつもりはありませんよ。ですが、狩りやテイムをなさるのなら我々はここは静観させていただきます」
アーケル君も困ったように笑って頷いているので、どうやら同意見みたいだ。
「良いですね。では遠慮なくやらせていただきましょう」
嬉しそうなランドルさんが進み出てくれたので、俺がやるつもりだったテイムは、彼に任せる事にした。まあ、お空部隊のメンバーは充実してるからね。無理にテイムする必要は……。
「ええと、誰に捕まえてもらうのが良いかな?」
ランドルさんは自分の従魔達を見て考えている。
さっきまでリナさんと見つめあっていた白鷺、じゃなくてイーグレットは、軽く羽ばたいて長老の木に戻ってしまった。
なのでテイムしようと思ったら、まず捕まえるところからやらなければいけないのだ。
「それなら、俺達のお空部隊にも手伝わせますよ」
俺は笑ってそう言い、お空部隊を指さした。
実はさっきから、長老の木の枝先に並んで留まっていたお空部隊の面々が、めっちゃドヤ顔で自己主張するかのように上空のイーグレットと鳴きあっているのだ。
あれは明らかに挑発している。
しかも、オウム達やインコ達が鳴く時は明らかに向こうも挑発するみたいなギャーギャーした鳴き声なのに、ファルコが大きくひと鳴きすると途端にパニックになってる。さすがは猛禽類。
「あれ、でも普通ならオオタカと白鷺だったらどっちが強いんだろう? やっぱりオオタカかなあ。でも白鷺の大きさなら、オオタカの獲物サイズじゃ無い気がするけど……?」
そう呟いてファルコを見た瞬間、ひと鳴きして大きく翼を広げたファルコが一気に巨大化して上空へ舞い上がった。同時にそれに続いてこちらも巨大化して舞い上がるお空部隊の面々とランドルさんの従魔のモモイロインコのマカロン。
「任せろって言って行きましたね」
俺の言葉に、ランドルさんも嬉しそうに頷いて上空を見上げる。
ギャーギャーと鳴きながら逃げ惑うイーグレットの群れを見ながら、俺はそっとシャムエル様をマックスの頭の上に戻した。
「じゃあ、無事にテイムしたらあとはよろしく!」
小さな声でそう言って、親指を立ててやる。
ドヤ顔で頷くシャムエル様に笑って手を振り、俺も上空を飛び交うお空部隊の様子を目で追ったのだった。