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昼食とリンクスの捜索

「はあ、おにぎり美味〜」

 屋台の串焼き肉とおにぎりを両手に持って交互に食べながら、俺はしみじみとそう呟いた。ちなみに机の上には、茹でたソーセージの齧り掛けも置かれている。

 今からテイムするんだから、がっつり食っとかないとな。



 空は快晴。周りに見える景色も秋の気配を感じさせるとは言え一面の緑の草地と所々が紅葉した巨大な森。

 周りに潜むジェムモンスターの凶暴さを考えなければ、ちょっとした遠足気分だよ。



 出してあったキャベツサンドを駆逐したアーケル君は、今は俺と同じ串焼き肉に齧り付いているし、リナさん達もガッツリとソーセージを挟んだ特製コッペパンサンドを作って嬉々として食べてる。ハスフェル達はまあ言うに及ばず、ランドルさんも俺と同じおにぎりと串焼き肉とソーセージのガッツリセットだ。

 狩りの前なのでアルコールは止めて俺は麦茶を飲んでる。

 食べている途中で、味噌汁くらい出せば良かったとちょっと思ったんだけど、もう半分以上減っていたので面倒になってそのまま食っている。



「ごちそうさまでした」

「美味しかったよ」

 あちこちから元気な声が聞こえて、ちょうど食べ終えた俺も笑って返事をしてから、残った料理を手早く収納した。

 いつニニ達が戻って来るか分からないので、机と椅子も早々に片付けマックスの背に飛び乗る。

 何があってもマックスの背の上にいると安全度は桁違いだからな。

 片付けを終えた全員が、それぞれの従魔達に飛び乗る。



 何となく全員が黙って森の方を見たまま、しばらく時が過ぎる。



「ううん、なかなか見つからないみたいですね」

 苦笑いしたアーケル君の呟きに、リナさんが振り返る。

「そりゃ相手は野生のリンクスなんだから、そうそう見つかる訳が無いさ」

 顔を見合わせて頷き合った時、森の方からものすごい咆哮が聞こえて俺達は揃って飛び上がった。

 一気に従魔達が警戒する。

 寝転がっていたセーブルが、あの巨体にも関わらず俺のすぐ隣へ文字通り一瞬ですっ飛んで来た。

「群れを見つけたようですね。しかも二匹……いや、三匹の鳴き声が聞こえますよ。どうやら親子のようですね」

 セーブルの言葉に俺の目が輝く。おお、三匹いるなら俺もテイム出来るじゃん。

 一応、食事をしながらの相談の結果、もしもリンクスが複数見つかった場合、一匹目はリナさんに、二匹目はアーケル君に選んでもらい、三匹目を俺がもらう予定だ。

 ただし、もしも二人には無理だと判断するレベルの巨大な亜種が先に来た場合は、俺に譲ってもらうって事になってる。



 以前ハスフェルから聞いた話だと、リンクスは猫科の猛獣の中では珍しく雌を中心に小規模の群れを作る事があるらしい。

 基本、番いで一緒に行動する事も無いわけじゃあないけど、子育ては雌が行い雄は一切関与しない。

 なのでその群れというのは、母親を中心にその子供程度。母親に姉妹がいてそれも子供を産んでいると姉妹で共同で子育てしたりする事もある程度なんだって。

 つまり、雄は一匹で放浪し、広いテリトリーの中を巡回する。それに対して雌はある程度住む場所が決まっていて、そこから離れることは殆ど無いらしい。

 子供がある程度大きくなると当然親離れするんだけど、雄は早々に群れから追い出されるが、雌の場合は群れに留まる事もあるらしい。

 成る程、女系家族なわけか。

「ううん、となるとニニのお相手は望み薄かな?」

 出来れば雄をテイムして、将来的にはニニのお婿さんになってリンクスの子供が産まれたら超嬉しいんだけど……。

 って、希望的妄想を脳内で描いていたんだけど、どう考えてもまた従魔の女子率が上がって終わる気しかしない。



 大きな咆哮はあれ一度きりで、結局沈黙に耐えきれずに俺がセーブルを見て口を開いた。

「なあ、静かなままだけど、あれからどうなってるんだ?」

 先程から、時折立ち上がって遠くを見るような仕草をしているセーブルに尋ねると、立ち上がってまた森の方角を見ていたセーブルは、困ったように俺を見下ろした。

「ううん、睨み合いのこう着状態になってますね。どうやらかなり強いのが一匹いるらしく、ニニちゃんでも攻めあぐねていますね。ちょっと増援に行ってきます」

 そう言って巨大なまま駆け出して行ったセーブルを見送り、俺は背中に冷たい汗が流れるのを感じていた。

 あのニニでさえ攻めあぐねるって……一体どんなデカいのを見つけたんだよあいつら。



「なあ、セーブルまで行っちまったけど、一体どうなってるんだ?」

 シリウスに乗ったハスフェルが近付いて来る。

「おう、なんかリンクスの三匹の群れを見つけたらしいんだけど、睨み合いになってるらしい。で、セーブルが増援に行くって言って、走って行ったよ」

 俺の説明に、ハスフェル達だけでなくリナさんやランドルさんも心配そうに森を見つめた。

 またそのまましばらく静かな時間が過ぎる。

「ううん、分かってはいたけど、こうなるとベリーの有り難みを思い知るな」

 苦笑いして隣のハスフェルに小さな声でそう言うと、ハスフェルだけでなく、ギイとオンハルトの爺さんも一緒になってこっそり笑っていた。



 何となく待ち時間が長すぎて集中力が切れかけた時、いきなりそれは現れた!



 突然すぐ近くでものすごい咆哮が聞こえ、直後に森から従魔達が塊になって転がるようにして飛び出してきたのだ。

 マックス達が一瞬で飛んで下がる。

「うわあ!」

 気が緩んでいた俺は、悲鳴を上げて咄嗟に手綱にしがみついて落ちる寸前で踏ん張ったよ。危ない危ない。

 さすがにハスフェル達は平然としているが、リナさん一家とランドルさんも俺と似たような有様だ。



 そして目の前の光景に俺達は揃って絶句する事になった。



 何しろ、巨大化したセーブルとニニが押さえつけているのは、ニニよりも明らかに大きな巨大な薄茶色に虎みたいな縞模様が浮き出たリンクスで、ジャガー達と狼達が手分けして押さえ込んでいる同じ柄の二匹のリンクス達も、ニニよりも少し小さい程度のどれもリンクスとしてはかなり大きな個体だったのだ。

 三匹とも歯を剥き出しにして物凄い形相で唸り続けている。

 それ以外の猫族の従魔達は、俺達を庇うみたいに目の前に立ちはだかって仁王立ちしている。

 おお。ヤミーのその巨大な尻尾に抱きついても良い?



「うわあ、すっげえ」

 脱線しそうな視線を必死でニニ達に向けていると、まるで他人事のようなランドルさんの呟きが聞こえて思わず吹き出す俺。

 リナさんとアーケル君は、従魔達に総掛かりで押さえ込まれつつも、隙あらば反撃しようとして唸り続けている巨大な野生のリンクス達をグリーンフォックスの背の上で完全に固まったまま無言で見つめていたのだった。

 深呼吸した俺も、改めて目の前の巨大なリンクスを見て血の気が引いた。



 どうすんだよ。本当に俺達にテイム出来るのか? これ?

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