朝のもふもふタイムと朝食
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
チクチクチク……。
ショリショリショリ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん、起きるよ……」
翌朝、いつものモーニングコールチームに起こされた俺は、大きな欠伸を一つしながら起き上がった。
「ううん、やっぱりまだ眠いけど、以前みたいに頭は起きてるのに体が動かないってのは無くなったな。これ、本当に何かしてくれたみたいだ」
もう一度大きな欠伸をしながらそう呟くと、座った俺の膝の上にドヤ顔のシャムエル様が現れた。
「よしよし、もうこれで大丈夫そうだね。寝起きも良くなって良い事づくめじゃん」
笑ったシャムエル様の言葉に俺も笑って頷くと、こっそりと手を伸ばして油断しているシャムエル様を両手で捕まえた。
「朝からもふもふタ〜イム!」
そう言って、シャムエル様のもふもふ尻尾に顔を寄せる。
「おお、これだよこれ、このもふもふの最高の肌触り〜〜〜」
「やめてください! 大事な尻尾に涎をつけるな〜〜!」
ちっこい足で、俺の頬を蹴っ飛ばしたシャムエル様は、そう叫びながら俺の手から転がるように脱走してマックスの頭の上へ瞬時に移動した。
「ほ〜ら、こっちだよ〜〜!!」
これ見よがしに、尻尾をバタバタと振り回しながら俺を挑発する。
「逃げたな〜〜!」
笑って両手を広げてマックスに飛びかかる。
しかし、当然だが捕まる直前に瞬時に移動して、今度はフラッフィーの背中に移動した。
「逃げるとは卑怯だぞ〜!」
笑いながらそう言ってフラッフィーに飛びかかる。
「ああ、この尻尾も最高だよ」
シャムエル様は瞬時に移動して逃げられたが、俺は目の前の大きなふさふさ尻尾に抱きついた。
「ご主人ったら、朝からお盛んなんだから」
笑ったフラッフィーがくるっと尻尾を巻き取り、俺の腕からもふもふ尻尾をいとも容易く抜き取る。
「ああ、待って。俺の癒し〜〜逃げないでくれ〜〜!」
起き上がって追いかけようとすると、テントの外から吹き出す音が聞こえた。
「あはは、そっかそっか、今朝はリナさん達が一緒だった」
誤魔化すように咳払いをして、急いで身支度を整えたよ。
サクラに綺麗にしてもらい、緩めていた防具を締め直し剣帯を締めて剣を装着する。
「おはようございます。じゃあ飯にするか……あれ、そんな所に水場って無かったよな?」
大急ぎでテントの垂れ幕を巻き上げていると、俺達のテントから少し離れた岩場に、昨夜は無かった水場が出現していたのだ。
地面から突き出した大きな岩の隙間から途切れる事なく湧き出す水は、その岩に小さな泉を作って溢れ出た水は周りの砂利の中に染み込んでいる。
「ああ、顔くらい洗いたいでしょう? 一応簡易ですが、水を呼んでおきました」
笑ったリナさんの言葉に目を見開く。
「ええと、つまりこれってリナさんが作った水場ですか?」
「ええそうです。この辺りは水脈が豊富にあるのでね、ちょっと呼んでやればこれくらいの水はすぐに湧いてくれますよ」
何でもない事のように言うが、簡単な事じゃないよな?
思わずハスフェル達を振り返ると、笑いながら頷いている。
「へえ、すごいですね。じゃあ有り難く使わせていただきます」
って事で遠慮なく顔を洗わせてもらった。
ううん、冷たい湧き水で顔を洗えるって最高!
テントに戻ると、手早くサンドイッチや惣菜パンを取り出して並べる。駆け寄ってきたランドルさんも、ふわふわな焼きたてパンを出してくれたので、お礼を言って鶏ハムや燻製肉、それからカットしたチーズとバターとマヨネーズの瓶も一緒に並べておく。
飲み物は、コーヒーの入ったピッチャーと、適当にジュースも何種類か取り出して並べて、少し考えてミルクと豆乳も一緒に並べておいた。
それから簡易オーブンを出しておけば準備完了。あとは好きに食え。
「おはようございます。おお、朝から豪華ですね」
アルデアさんの言葉に、アーケル君の喜ぶ声が重なる。
「おはようございます! このキャベツサンド、めっちゃ美味しいですよね!」
目を輝かせたアーケル君が、嬉々としてキャベツサンドをお皿に取るのを見て、俺は追加を取り出してやった。
ううん、キャベツサンドの在庫が減ってるぞ。どこかで追加を作った方が良いかも。
「でもまあ、他はいっぱいあるから、とりあえずしばらくはあるもので済ませるぞ」
一応、今回の遠征では俺もちょっとはやる気になってるので、ベースキャンプは撤収して俺も一緒に行くつもりだ。
タマゴサンドの横で自己主張をしているシャムエル様に笑って頷き、タマゴサンドを二切れ確保した。それから少し考えて、ランドルさんが出してくれた焼きたてのコッペパンみたいなのに、切り目を入れてマヨネーズを塗り、燻製肉をたっぷり挟んでお皿に乗せた。今朝はガッツリ肉が食いたい気分だったんだよ。
久々に豆乳オーレにして、激ウマジュースもミックスしてグラスにたっぷり注ぐ。当然のように盃とショットグラスを用意して待ち構えているシャムエル様に先に入れてやり、減ったマイカップとグラスに追加を注いだ。
「はいどうぞ。タマゴサンドと、あとは何がいる?」
タマゴサンドは丸ごと一切れ渡してやると、お皿を覗き込んだシャムエル様が分厚い燻製肉を挟んだコッペパンを指差す。
「これ、お肉だけください」
「あはは、肉食リス再びかよ」
笑って真ん中の分厚いのを一枚丸ごと引き抜いてやる。
「はいどうぞ。じゃあこれでいいな」
手を合わせてから食べようとして、苦笑いした俺は、そのまま簡易祭壇にお供えしてから頂いたよ。
いや、何となくだけど視線を感じた気がしたもんだからさあ。
食事を済ませて少し休憩したら、一旦テントを全部撤収して出発だ。
テントを片付けたリナさんは、水場に近付き両手を水の上に差し出す。アルデアさんが横に来て同じように両手をかざした。
どうなるかと思い見ていると、あっという間に湧き出していた水が静かになり、そのまま岩に吸い込まれるみたいに消えてしまったのだ。
「おお、すげえ。水が消えたぞ」
「先ほどのは、言ってみれば無理矢理地下の水脈から水を引き込んでいたので、用が済めば元に戻します。あの水は、あくまで一時的なものですから放っておいてもすぐに消えてなくなります。ですが術を使ったまま放置すると、それに引っ張られて何らかの問題が出る可能性もあるので、固定の術でない限りはこうやって消すのが礼儀ですね」
「へえ、そうなんだ」
あっという間に乾いてしまった岩を見て、感心するように呟く。
『もしかして、ハスフェル達も出来たりするのか?』
こっそり念話で尋ねると、二人から笑って否定の返事が返ってきた。
『俺は風の術と癒しの術。ギイは変化の術なら使えるよ。だけど二人とも水の術はあいにくと持っていないから、あれは無理だな』
『でも、水が出る水筒があれば水には苦労しないからな』
ハスフェルとギイの説明に、納得する俺だった。
確かに、あの無限に水が出る水筒があれば、水には不自由しないもんな。
「へえ、術にも色々あるんだな」
小さく感心した俺は、マックスに鞍を取り付けるために振り返った。