明日の予定とおやすみ
「本当に料理もデザートも、どれもめっちゃ美味しかったです。ごちそうさまでした!」
「ごちそうさまでした。いやあ野外でこれだけ美味しい料理を出されると、ケンさんと別れた後が辛くなりそうです」
「本当に美味しかったです。ねえ、この際だからやっぱり時間遅延の収納袋を探すべきじゃなくて?」
綺麗に平らげた後のお皿を返してくれながら、リナさん一家が真剣に時間遅延の収納袋の購入を検討し始めてる。ランドルさんも言ってたけど、確かに郊外で美味しいもの食べる習慣がついちゃったら、干し肉と水だけの食事なんて味気なくて絶対我慢出来なさそうだもんな。
何だか申し訳なくなって見ていると、ランドルさんがにんまりと笑ってリナさん一家に駆け寄り、アルデアさんの肩を叩いて何やら話し始めた。
漏れ聞こえる話をまとめると、王都に本店がある、とある雑貨屋が最近ハンプールにも支店を出したらしいんだけど、そこが時間遅延の収納袋をはじめとした高額の大容量の収納袋の在庫を多数持っているらしい。
ランドルさんも、そこから時間遅延の収納袋を購入したらしく、資金があるのなら今なら選べるからお勧めだと笑いながら教えていたのだ。
「おお、それは良い事を聞きました。ハンプールに戻ったら早速行ってみます」
嬉しそうなアルデアさんの言葉に、リナさんとアーケル君も揃って頷いている。
まあ、地下洞窟の恐竜のジェムや素材があれだけあれば、資金面での心配はなさそうだから、高額の収納袋でも選び放題だろう。
「良いのが見つかるといいな」
俺の言葉に、揃って振り返ったリナさん一家は、これ以上ない笑顔で頷いたのだった。
「それじゃあお休みなさい」
「おやすみなさい。ほらコッティー、ホッパーもおいで、一緒に寝よう」
スライム達は既にアーケル君の肩と頭の上に収まっている、呼ばれた二匹は、一緒にくっついていた俺の従魔達に鼻チュンの挨拶をしてから嬉しそうに彼の後についてテントの中に飛び込んで行った。
リナさんとアルデアさんの従魔であるグリーンフォックスのララとビリジアンも、それぞれの主人と一緒にいそいそとテントの中に入って行った。
リナさんのテントに、出遅れたピンクジャンパーのテネルが飛び込んで行き、中から楽しそうな笑い声が聞こえて来た。うん、幸せそうでなによりだね。
「じゃあ俺達も休むか。明日は奥地へ行くんだよな?」
そう言いながら振り返ると、空き瓶を回収していたハスフェル達が顔を上げる。
「そうだな。せっかくここまで来たんだし。もう少しくらい強い従魔を二人にテイムさせてやれ。確か前回行った場所よりももう少し山側の方へ行けば、リンクスもいたはずだ。彼女はリンクスを欲しがってたよな」
「以前の従魔に大事なリンクスがいたって言ってたからな。もしもいるのなら、ぜひテイムさせてやりたいけど……どうだ?」
振り返ってマックス達に尋ねる。野生のリンクスがもしもニニと同レベルなんだとしたら、相当獰猛だろうからな。
「ああ、リンクスなら確かにいますね。テリトリーは広いですから、ちょっと探すのに手間取るかもしれませんが、この顔ぶれなら見つかると思いますよ」
セーブルの言葉に、猫族軍団がなぜか大張り切りしている。どうやら、確保は任せろと言いたいらしい。
「ううん、リンクスなら俺もちょっと欲しいかも……いや、小さくなれない従魔は、さすがにもうこれ以上増やすのは、無理、かなあ……? でもなあ……」
考えながら小さくそう呟き、笑い崩れそうになる顔を無理やり引き締める。
「じゃあその予定で行くか。まあ、他に何かいたら、その時に考えればいいな」
「そうだな。じゃあそれで行こう。それじゃあお休み」
「お休み」
笑ったハスフェル達が立ち上がり、手を振ってそれぞれのテントへ戻って行った。それぞれの従魔達が当然のようにその後について行く。
オンハルトの爺さんの騎獣のエルクのエラフィと、ギイの騎獣のブラックラプトルのデネブはいつもテントの外で寝ているが、それ以外の子達はそれぞれの主人と一緒に寝ているらしい。
なんだかんだ言っても、あいつらも譲った従魔を可愛がってくれているんだよな。
そんな事を考えながら小さく笑って振り返ると、俺を見つめていたらしいニニと視線が合う。すると、ニニは何だかすごくしょげたみたいに俺から視線を外してそっぽを向いてしまった。
「ええ、どうしたんだよ」
慌てて立ち上がり、ニニのところへ走って行く。
「ん? どうしたんだ?」
そっと手を伸ばして撫でてやると、嫌がる様子はなく喉を鳴らしながら甘えるみたいに額を擦り付けてくる。
「良かった。一体どうしたんだ?」
やっぱり元気が無い気がして、頭を抱きしめながら小さな声でそう聞いてやる。
「私はもう、用無しなの……?」
消え入りそうな小さな声でそう呟くニニ。
「はあ、どうしてニニが用無しなんだよ?」
驚く俺に、悲しそうな顔のニニは更にしおしおとしょげかえるみたいに耳をぺたんこにして俺の手に甘えてくる。
「だって、新しいリンクスが来たら、きっとご主人は新しい子に夢中になって、その子と一緒に寝るんでしょう?」
驚きに目を見開いた俺は、大きなため息を吐いてニニを力一杯抱きしめてやった。
「ニニが、用無しになる日なんて、永遠に来ません! 俺の一番のベッド役はニニだよ」
そう言って、俺は抱きしめたニニを押し倒してやる。
ニニが踏ん張れば、俺如きがいくら押そうとも倒れる訳もないのだが。ニニは俺が寄りかかるとそのまま仰向けに転がってくれた。
「俺の愛を思い知れ〜〜!」
笑ってそう叫ぶと、もふもふのニニの腹毛に潜り込んだ。
「ああ、やっぱりここが一番落ち着くよ」
もふもふの腹毛に埋もれて俺がそう呟くと、嬉しそうに目を細めたニニが、大きな音で喉を鳴らし始めた。
「大好き、ご主人」
そう言って大きな舌で俺を優しく舐める。
「痛い痛い、ニニの舌は俺の皮膚には痛いんだって」
笑って口を押さえてもう一度大きな顔に抱きつく。
「ご主人! 寝る準備完了です!」
サクラの声に振り返ると、いつものスライムベッドがドドンと机から少し離れた場所に出来上がっていた。
「ほら、行こう。俺はもう眠いよ」
笑ってそう言ってやると、嬉しそうに声の無いニャーをしたニニが起き上がってベッドの上に軽々と飛び上がった。マックスがそれに続き、他の子達もそれに続く。
「ご主人綺麗にするね〜〜!」
サクラの声が聞こえた直後、触手が俺を包んで一瞬でいなくなる。もうそれだけで、俺の身体も髪もサラサラだ。
「いつもありがとうな。それじゃあおやすみ」
ベリー達が、別荘の庭で薬草探しをしてくれているので、アルファとベータとゼータが収穫した薬草を受け取るために一緒に行っている。なのでいつもよりも数が少なかったんだけど、今回俺も追加で黄緑の子をテイムしたから、ほとんどいつもと変わらない大きさのベッドが出来上がっている。
手を伸ばしてスライムベッドを撫でてやり、俺はニニとマックスの間に飛び込んだ。
ラパンとコニーが巨大化して俺の背中側に並んで収まり、タロンとフラッフィーが二匹並んで俺の腕の中に飛び込んできた。それ以外の狼コンビとソレイユとフォールはスライムベッドの横でくっつきあって団子になって寝るみたいだ。
「ああ、しまった。ランタンをつけたままだ」
いつもはベリーが消してくれるんだけど、今はいないんだった。
欠伸をしながらそう呟くと、スライムベッドからニュルンと触手が伸びて、ランタンの明かりを次々に消してくれた。
「あはは、ありがとうな」
もう一度笑ってスライムベッドを撫でると、俺は改めてニニの腹毛に顔を埋めた。
「それじゃあおやすみ……明日は、どんな出会いが、あるんだろう、な……」
もう一度欠伸をした俺は、そう呟いたきり気持ち良く眠りの海へ垂直落下して行ったのだった。
ううん、我ながらこれ以上ない寝付きの良さだね。