手分けして肉を焼く
「それじゃあ肉はまとめて俺が焼きますから、それ以外は自分で用意してくださいね」
スパイスを振った肉を休ませている間に、鞄に入ってくれたサクラから、付け合わせの温野菜や小鉢、味噌汁なんかを順番に並べていく。俺が食べたいからご飯もパンと一緒に並べておく。多分ランドルさんはご飯を食べるだろうしね。
メインのお皿と小皿各種、それからカトラリーも適当に取り出して並べておく。
「ああ、それ以外は自分でって、そういう意味なんですね」
お皿を手に、それぞれ自分の分のパンを焼いたり付け合わせを取ったりしているハスフェル達を見て、納得したみたいにアルデアさんがそう呟きリナさん達と笑顔で頷き合った。
「では、厚かましいですがご一緒させていただきます」
「本当に申し訳ありません」
アルデアさんの言葉に、リナさんとアーケル君も並んで俺に頭を下げる。
「はい、しっかり食べてください。それから、あまり気にしたり遠慮したりしないでくださいね。以前も言いましたけど、せっかく一緒のパーティーにいるんだから、飯ぐらい一緒に美味しく食いましょうよ。だから、この場合、申し訳ありませんじゃなくてありがとう。それから、しっかり残さず食って、ご馳走様でした、美味しかったです、って言ってもらう方が、俺はずっと嬉しいですよ」
コンロにかけたワカメと豆腐の味噌汁をかき混ぜながらそう言って笑うと、リナさん達は一瞬驚いたみたいに目を瞬いた。
それから三人揃って満面の笑みになる。
「ありがとうございます。では、残さずしっかりいただきます!」
三人揃った元気な返事に、俺も笑顔になるのだった。
「さて、では焼くとするか」
肉焼き用の、強火のコンロを並べて大きなフライパンを並べて火にかける。
順番に牛脂を落として油を引いてから、分厚い肉を並べていく。追加で並べたフライパンには、グラスランドチキンとハイランドチキンのもも肉も並べていく。焼くのは皮がついてる側からだぞ。
ううん、しかしすごい量だな。これを一気に焼くのはかなりの高等技術だぞ。
内心でちょっと焦りつつフライパンを揺すっていると、アーケル君とギイが進み出て来た。
「手伝うよ、肉ぐらいなら焼けるからな」
ギイが笑って俺から離れた位置のフライパンをゆすり始める。
それを見て、アーケル君はハイランドチキンとグラスランドチキンを並べたフライパンの前に行った。
「俺も、料理は出来ませんけど、肉を焼くのだけは得意なんです。こっちは任せてください」
ドヤ顔で請け負ってくれたので、信頼してチキンは彼に任せる事にする。
「おう、じゃあよろしくな。そのコンロにはグラスホッパーのジェムが入ってるから、火は強めなんで、後半はちょっと中火ぐらいにした方が良いぞ」
「了解です!」
そう言いながら、チリチリと音がし始めた皮の部分をフライ返しを使って器用に剥がして次々にひっくり返していく。
確かに、その手つきを見る限り、得意だと言ったのはあながち嘘じゃあなさそうだ。
俺もお箸とフライ返しを使いながら、肉を順番にひっくり返していった。
油の焦げる香ばしい匂いが辺りにあふれる。
「うああ、これを嗅がせておいて、まだ食えないなんて、一体何の拷問だよ」
ハスフェルの叫びにオンハルトの爺さんの同意する声が重なり、リナさんとアルデアさんが揃って吹き出す。
「まだまだ駄目駄目〜もうちょっと〜〜お肉が焼っけるまっで、おっあ〜ずっけ〜、おっあずっけ、おっあずっけ、ちょっと待て〜〜」
アーケル君が、肉をひっくり返し終えたフライパンに蓋をしながら、やや調子外れの即興待ての歌を歌い始める。
それを聞いて、全員揃って吹き出して大爆笑になったね。
おかしいなあ。RPGに出てくるエルフって、普通は歌が上手いんじゃないのかよ。
「よし、焼けたぞ〜!」
ほぼ同時に肉が焼き上がったので、順番にお皿に並べていく。
俺の分は、肉を焼いている間にハスフェルが用意してくれていた。
野菜多めにご飯大盛り。ありがとうな。シャムエル様の分を差し引くと、ピッタリ俺がいつも食ってるくらいの量だよ。
ちなみに、アーケル君担当のグラスランドチキンとハイランドチキンは、ふっくらジューシーでめっちゃ美味しそうに焼き上がっていたよ。
作り置きのステーキソース各種も取り出しておき、それぞれが席につく。
俺は大急ぎでスライム達が用意してくれた簡易祭壇に、自分の分を一通り並べて手を合わせた。
「今夜はグラスランドブラウンブルの熟成肉のステーキです。後でデザートも用意するから、お楽しみにな」
いつもの収めの手が俺を撫でてから、料理を順番に嬉しそうに撫でてから消えていく。それを見送ってから、俺はお皿を大急ぎで自分の席へ運んだ。
「ああ、待っててくれたのか。悪い悪い」
皆、席について俺を待っていてくれた。慌てて謝り席に座る。
「ご苦労さん、ビールでいいか?」
冷えたビールを出されて、笑顔で空のグラスを差し出す。
まあ、ここは郊外だけど安全地帯らしいし、これだけ仲間や従魔達がいてくれるんだから、ちょっとくらい飲んでも許されるよな。
「では、魔獣使いのリナさんの復活と、テイマーアーケル君の誕生を祝って、乾杯!」
ハスフェルにお前が音頭を取れと言われてしまい、苦笑いしつつ立ち上がった俺は、冷えたビールの入ったグラスを高々と掲げて大きな声でそう言った。
「乾杯!」
全員の声が重なり、ビールを一気に半分くらい飲み干す。
「くあ〜〜 冷えたビール最高!」
おっさんみたいな声が出たけど、気にしない、気にしない。
笑って座った俺は、お皿の横で、大きなお皿を持ってステップを踏んでいるシャムエル様を見た。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ! ジャジャン!」
最後はとんぼ返りを打って見事に着地したシャムエル様は、決めのポーズの後にキラキラの目で俺を見上げながらお皿を突き出してきた。
「はいはい、ちょっと待てよな」
俺はそう言いながらたっぷりの和風ステーキソースをかけた分厚いステーキを三分の一くらいと、ハイランドチキンとグラスランドチキンも大きく一切れずつ肉厚な部分を切り分けてやる。それから付け合わせも一通り取り分けて綺麗に盛り合わせてやった。
ご飯と味噌汁は、それぞれ別のお椀に入れてやる。
「わあい、ステーキだ〜〜! 美味しそう! では、いっただっきま〜す!」
嬉しそうに宣言すると、真っ先に分厚いステーキを鷲掴んで丸齧りし始めた。
客観的に見ると、これはどう見ても肉食のリス……冷静に考えたらめっちゃ怖いぞ、おい。
しかし、リナさん達やランドルさんは、それには全く反応しない。
どうやら、普段は見えてる事もあるみたいだけど、ダンスを踊ってたりお食事中のシャムエル様の様子は、彼らには見えていないみたいだ。
ううん、いつもながらこれってどうなってるんだろうな? でもまあ、神様のする事だから良いのか。
苦笑いしつつそう思って自分を納得させた俺は、大きく切った熟成肉を丸ごと口に入れたのだった。
ううん、熟成肉って最高〜!