アルデアさんの従魔と名前
「よし、もう分かったぞ。次はもっと上手くやる」
新しくテイムした、グリーンフォックスのコッティーに抱きついていたアーケル君がいきなりそう呟いて立ち上がった。
「どうする? 親父の分は誰がテイムするんだ?」
リナさんとアルデアさんは顔を見合わせて笑顔で頷き合った。
「アーケル、お前に頼むよ」
「良いのか? 俺が捕まえたら紋章無しだぞ」
てっきりリナさんにテイムしてもらうのだと思っていたらしいアーケル君が、驚いて二人を見る。
「従魔を五匹以上テイムすれば、神殿にお願いして魔獣使いの紋章を付与してもらえる。お前なら出来るよ。これが六匹目だ。気合いれてやってごらん」
リナさんの言葉に、アーケル君は、レッドクロージャガーのベガが噛み付いて押さえつけているグリーンフォックスを振り返った。
「分かった、もう一回やってみる」
小さく頷き、一旦収めていた腰の短剣を抜こうとした。
するとその時、押さえつけられていたグリーンフォックスが意外な行動に出た。
「クゥ〜〜〜ン。キュンキュンキュウ〜〜〜〜〜ン」
なんとも情けない声で鳴いた後、そのまま自ら地面に伏せるみたいにして、ぺちゃんこになってしまったのだ。
そのためにベガに噛みつかれていた首元の皮が、まるで子猫みたいにビロ〜ンと伸びてて何とも面白い格好になってる。
咥えていたベガまでが驚いたみたいに目を見開いてる。ううん、ジャガーのびっくり顔って意外にレアかも。
思わず吹き出す俺とリナさん。少し遅れて全員が吹き出した。
「どうやら、あいつはさっきの竜巻攻撃を見てアーケル君には敵わないと判断したみたいだな。もう大丈夫だからやってみろよ。今ならテイム出来るぞ」
笑いながらそう言ってやると、大きく頷いたアーケル君は剣を戻してゆっくりとグリーンフォックスに近づいて行った。
そしてあっけなくテイム出来たよ。
うん、アーケル君って、実はとっても優秀なテイマーだったようです。これならもう、彼は今日中に余裕で魔獣使いになれるんじゃね?
感心しつつ、大きく拍手してやる俺達だった。
「ほら、お前はこの人のところへ行くんだよ、可愛がってもらえよ」
テイムしたグリーンフォックスをアルデアさんの前に連れて行く。
「アルデアだよ。よろしくな」
笑顔でグリーンフォックスを撫でるアルデアさん。
「名前はどうする? せっかくだから、親父が名付けてやれよ」
まだ名前を与えていなかったので、笑いながらそう言われてアルデアさんが慌てている。
「ええ、俺が考えるのか?」
「良いじゃん、これからずっと一緒なんだから、自分で考えろよ」
「ええ、お前が考えてくれるとばかり思ってたから、何も考えてないぞ」
「俺がつけたら、コットンテイル二号か、フラッフィーパート2のどっちかになるぞ」
「やめてくれ。それは嫌だ」
真顔で即座に否定するアルデアさんに、彼以外の全員が同時に吹き出したよ。
しばらく腕を組んで考えていたが、小さく笑ってアルデアさんは頷いた。
「よし決めた。じゃあ、ビリジアンで頼むよ。この子の足先は、他の子達よりも色が綺麗だ」
確かに、最後の一匹は、足先の緑色の部分が他の子達よりも薄くて緑だけど青っぽい色をしている、言われてみれば絵の具に入っていたビリジアンブルーって感じの色に近い。
「良いんじゃないか。ビリジアン。じゃあそれでいこう」
笑顔で頷いたアーケル君が、もう一度グリーンフォックスの頭に手を当てる。
「お前の名前はビリジアンだよ。よろしくな、ビリジアン。俺、まだ紋章を持ってないから、お前に紋章を刻んであげられないんだ、頑張るからもうちょっと待ってくれよな」
「前のご主人、じゃあ待ってますので頑張ってくださいね」
ビリジアンは嬉しそうにそう言って、アーケル君の腕に頭をこすりつけて甘えている。
「おめでとう。もう分かっただろう?」
笑ってアーケル君の背中を叩いてやると、もうこれ以上ないくらいの笑顔で頷かれた。
「そうですね。ちょっと自信が付きました。カルーシュ山脈の奥地にいる子は、きっと強いだろうから俺にテイム出来るかどうかは分かりませんけど、いろいろ頑張ってみますのでどうか助けてください。お願いします!」
そう言って深々と頭を下げられてしまい、俺は慌てて彼の肩を叩いた。
「もちろん助けるよ。そんなの当然だって。是非とも今回の旅で、紋章を手に入れてくれよな」
笑顔でそう言って右の拳を突き出してやると、アーケル君も笑顔で拳を突き出してきて、俺たちは拳をぶつけ合ってから手を叩き合ったのだった。
「さて、これで騎獣になる従魔を全員分無事にテイム出来た事だし、明るいうちに移動して今夜のベースキャンプを設置しようぜ。でもって、今夜は二人のテイム成功を祝って、豪華に肉を焼くぞ。それからデザートも付けちゃう」
俺の言葉に、全員から拍手喝采をいただきました。
やっぱり皆、肉は好きだよなあ。
落ち着いたところで新たにテイムした従魔達にリナさん達が乗り、俺達もそれぞれの従魔に乗り、全員揃ってカルーシュ山脈手前にある境界線へ移動する事になった。
ううん、巨大化したグリーンフォックスが三匹並ぶと、なかなか壮観だね。
きっとこれまた街へ戻ったら大注目されるんじゃね? 街の人達の驚く様子が目に見えるようだよ。
小さく笑った俺は、遥か先に見えてきた境界線に向かってマックスを思い切り走らせるのだった。




