誰がどれをテイムする?
「よし、絶対テイムしてやる!」
俺がもふもふパラダイス強化計画を密かに発動して笑み崩れていると、またティグの大きな咆哮が聞こえた。
しかも、なんと言うかさっきよりも切羽詰まった感じだ。
「おいおい、たかがキツネ一匹にうちの従魔達が遅れを取るわけなかろうが、一体どうしたってんだ?」
森の様子を伺いつつ不安げにそう呟いた時、いきなり森の茂みの中からなんだかよく分からない塊が転がり出して来た。
一気に緊張する従魔達。
のんびり草を食んでいた草食チームが一斉に巨大化して俺のすぐ側まですっ飛んできた。
「うわっ、デカい!」
転がり出してきたその塊は、ティグと巨大なキツネだった。
グリーンフォックスの名の通り、赤茶色っぽいその尻尾の先と足先が濃い緑色をしている。しかし、驚くべきはその巨大さで、体の大きさは余裕でマックスサイズだ。誰だよ、シリウスより小さいって言ったのは。めちゃめちゃデカいじゃんか。
しかも体に負けないくらいの巨大な尻尾がついているため、はっきり言って今の俺の従魔の中でも巨大なティグと同じかそれより大きいくらいに感じる。
「無理。絶対無理〜! あれは亜種です。あんな大きいのをテイム出来る訳が無い!」
悲鳴のようなリナさんの声に、アーケル君も一気に顔色を失って必死になって首を振っている。
あれ、それってもしかして俺がテイムしても良いって事?
ものすごい唸り声と共に、ニニ達が茂みから飛び出して来る。そこにはあと三匹、明らかに小さい個体が従魔達に取り囲まれるみたいにして一緒に走り出て来たのだ。
「ええ、あれって子キツネか?……いや、そんな訳ないか。ジェムモンスターは生殖活動はしないって言ってたもんな。って事は、あれが普通サイズで、ティグが戦ってるのが亜種で、異常にデカいのか」
なんとなく状況を理解した俺は、笑いを我慢出来ない。リナさん達はあの亜種は無理だと断言してるけど、俺は別にそうは思わない。
絶対にテイムするのが無理なら、ティグはあそこまでして捕まえようとはしないだろう。苦戦しているのは、無傷で捉えようとしているからだと見た。
「なあ、ニニ。あの、ティグが戦ってるのが亜種なんだよな」
俺のすぐ前に来て身構えているニニに小さな声で尋ねる。
「ええそうよ。ちょうど小さめのが三匹集まっていたから、それをまとめて確保してこっちへ連れてこようとしたら、あの大きいのと獣道で出くわしちゃったの。でも、ご主人ならあれでも大丈夫だと思って連れてきたんだけど、ちょっと苦戦してるみたいね。テイムするでしょう?」
「そうだな。せっかくだしテイムしたいけど、確保出来そうか?」
「任せて」
余裕綽々でそう言うと、ニニはいきなりそこから飛び上がった。
ティグと戦うグリーンフォックスまでの距離をひとっ飛びしたニニは、ティグと顔を突き合わせて歯を向いていたグリーンフォックスの背中に飛びかかったのだ。
「キャウン!」
不意をつかれたグリーンフォックスが、まるで犬みたいな鳴き声を上げて転がる。
しかし、首元に噛み付いたニニは全く離れる様子が無い。
それを見たティグも、もの凄い声を上げた直後にニニが押さえ込んだグリーンフォックスの背中のちょうど肩甲骨の上辺りに噛み付いた。
これまた悲鳴のような声を上げるグリーンフォックス。
「キュウ〜〜ン」
しかし、巨大な二匹に噛みつかれて完全に抵抗を封じられてしまい、何度かもがく様に足をばたつかせていたが、さらに軽自動車サイズに巨大化したセーブルに尻尾の根元の辺りを押さえつけられてしまい、動きを完全に封じられてしまった。
情けないような声で鳴いたグリーンフォックスは、それっきり急に大人しくなった。
「もう大丈夫ね。誰がどれをテイムするの?」
雪豹のヤミーの声に振り返ると、三匹の小さめのグリーンフォックス達も、それぞれジャガーに首根っこを噛まれて完全に動きを封じられていた。
全く見てなかったけど、どうやらグリーンフォックス三匹は一瞬で確保されてしまったみたいだ。まあ、うちのジャガー達も強いもんな。
「おう、ありがとうな。ちょっとだけ待ってくれるか」
笑ってそう言った俺は、リナさん達を振り返る。
「で、誰がどの子をテイムしますか?」
リナさんとアーケル君は、戸惑うように顔を見合わせてほぼ同時に首を振った。
「あの、ケンさんにあの大きな子をお願いしてもよろしいでしょうか。私はちょっと、あの大きさは怖いです」
申し訳なさそうなリナさんの言葉に続き、同じくアーケル君も何度も頷いている。
まあ、確かに長期間のブランクの後、スライムとピンクジャンパーをテイムしただけで、いきなりあの巨大さはちょっと無理かもしれない。アーケル君なんて、まだそもそも魔獣使いですらないしなあ。
って事で、消去法で俺があの大きいのをテイムするしか無くなったわけだ。仕方がないなあ。よしよし。
「分かった。じゃあ俺があのデカいのをもらうよ。リナさん達はこっちの子達をテイムしてくれるか」
そう言った俺はマックスに乗ったまま、ニニ達が取り押さえてくれている巨大なグリーンフォックスに近寄って行った。
「気をつけてねご主人。まだちょっと抵抗してるみたい」
巨大化したソレイユがマックスのすぐ横に来て、俺を見上げながらそう教えてくれる。
頭の中でカッチカチに凍った氷の塊をイメージしつつ、頷いた俺はゆっくりとマックスの背から降りる。
猫族軍団とは違う低い犬のような唸り声に、小さく身震いした俺は深呼吸を一つしてから、ゆっくりと右手を突き出し目標に近付いて行ったのだった。
見せてやるよ。最強の魔獣使いのテイムって奴をさ!