新たなテイマーの誕生
「よし! 俺もやってみる!」
蹲って泣きながら、スライムのアクアウィータとテイムしたばかりのピンクジャンパーのテネルを抱きしめていたリナさんは、アーケル君の楽しそうなその宣言に顔を上げた。
「アーケル、本当に良いの?」
リナさんの顔を正面から見つめた彼は、にっこりと笑って大きく一度だけ頷いた。
「約束する。絶対に大切にする。一生かけて大事にする」
その言葉にまだ頬に涙の跡を残したリナさんは、もうこれ以上ないくらいの笑顔になった。
「貴方のこれからに祝福を」
額にそっとキスをする彼女を俺達は黙って見つめていた。
「ええと、じゃあこの子にする!」
巣穴から顔を出していた繋ぎの子をしばらく見つめていたが、そのうちの一匹を手を伸ばしてそっと抱き上げた。
「お前、俺の従魔になってくれるか?」
優しいその問いかけに、掌の上で後ろ脚で立ち上がったピンクジャンパーは、鼻をヒクヒクさせた後、耳をピンと立てて嬉しそうに答えた。
「はい、貴方に従います!」
答えた直後に光って一気に大きくなるピンクジャンパー。
「うわあ、大きい!」
慌てて地面にピンクジャンパーを下ろしたアーケル君は、起き上がって自分を見つめるその子に向かってそう叫んだ。
恐らく亜種なのだろう。俺のラパンやコニーと同じくらいの大きさだ。リナさんがテイムした子よりもひとまわりは余裕で大きい。
「名前はホッパー。よろしくな」
「わあい、名前貰った〜〜!」
嬉しそうにそう言ったホッパーは、光った直後にそのまま跳ね飛んでアーケル君に向かって飛びついて来た。
「わふう!」
正面から飛びつかれて支えきれずに押し倒され、さっきのリナさんと全く同じ状態になるアーケル君。
「ふあぁ〜〜なんだよこれ、幸せすぎる〜〜〜!」
巨大化したホッパーの下敷きになったまま、全くの無抵抗でそう叫ぶアーケル君に、俺達は全員揃って同時に吹き出したのだった。
どうやら無事新たなテイマーが誕生したみたいだ。
それからしばらくして復活したアーケル君は、巨大化したホッパーにずっと抱きついたまま笑み崩れている。リナさんはようやく落ち着いて改めて子ウサギサイズになってるテネルを抱き上げ、自分の涙と涎で毛皮がカピカピになっているのにようやく気づき、慌てて背負っていた鞄から布を取り出して拭き始めた。
だけどすっかり乾いてしまっていたみたいで、なかなか綺麗にならずに苦労している。
「なあ、あのくらいなら汚れを取り除くのって普通のスライムでも出来るよな?」
小さな声で、右肩に座っているシャムエル様に質問する。
「それなら一度濡らしてから水分をとって貰えばいいよ。それなら普通のスライムでも大丈夫だって」
得意げにそう言われ、頷いた俺は必死になってテネルを拭いているリナさんに声をかけた。
「リナさん、水筒の水で構いませんから一度毛皮を濡らしてやるといい。それでアクアウィータに言って、水分ごと汚れを取ってやれば綺麗になりますよ」
驚いて振り返ったリナさんは、足元で跳ね飛んでアピールしているアクアウィータを見た。
「出来る?」
「出来るよ〜〜!」
得意気に伸び上がってそう答えるアクアウィータ。
「じゃあこれを使うといい」
アルデアさんが大きめの水筒を渡してくれたので、頷いて受け取ったリナさんは、その水筒からコップに水を注ぎ、ゆっくりとテネルを濡らし始めた。
嫌そうにしつつも大人しくじっとしているテネル。
「じゃあお願い」
びしょ濡れになったテネルをアクアウィータの前へ差し出す。
一瞬で伸び上がってテネルを包み込んだあと、すぐに戻る。
「おお、すっげえ。綺麗になった!」
アーケル君が感心したように叫ぶ。
びしょ濡れだったテネルは、すっかり綺麗なふかふかの毛に戻っていた。
「ありがとう。お前は頼りになるな」
手を伸ばしてアクアウィータを撫でたリナさんは、テネルを足元に下ろした。
「このままだとちょっと踏みそうで怖いよ。さっきくらいの大きさになってくれるか」
「はあい、じゃあ普段はこれでいることにします!」
嬉しそうにそう答えると、一気に大きくなって大型犬サイズになる。
「改めて、これからよろしくね」
もう一度抱きついたリナさんの目に、もう涙は無かった。
「さて、それじゃあさっき言ってたグリーンフォックスの巣へ行きましょう。今ならアーケル君もテイム出来るだろうからな」
ハスフェルの言葉に、立ち上がったリナさんとアーケル君は顔を見合わせた。
あれ、まだ自信が無いのか?
ちょっと心配になって見ていると、二人は揃って俺を振り返った。
「あの、この近くにスライムの巣はありませんか? 俺もレインボースライムを集めたいです!」
目を輝かせるアーケル君の言葉に、リナさんまでが一緒になって頷いている。
「あはは、そう言う事か。ええと、どうだろう。何がどこにいるかはあいつらの方が詳しいから、俺もいつも教えてもらってるんですよね。なあ、この辺りにスライムの巣はあるか?」
それぞれの従魔のところへ行こうとしていたハスフェル達を振り返る。
「スライムか。それならグリーンフォックスの巣の近くにもあるぞ。じゃあ先にそっちへ行って、好きなだけテイムすれば良いさ」
笑ってシリウスの背中に乗ったハスフェルの答えに、目を輝かせる二人。
「ああ、言っておくけど、一日のテイム数には絶対気をつける事!」
「もちろんです!」
二人が揃って笑顔で答えるのを見て、俺も安心してマックスに飛び乗ったのだった。