再出発への第一歩!
土手に作られた巣穴から、まるで緑色の噴水が噴き出すみたいに、ピンクジャンパーが次々に飛び出してくる。
緑色の毛にお尻のところがピンク色になったピンクジャンパーは、リナさん一家に向かってものすごい勢いで飛びかかって行った。
小さいけどあのキックと噛みつき攻撃は舐めてかかると酷い目に会うよ。
はい、実体験済みの俺が断言する。ウサギ系って意外に攻撃力高いんだよな。
最初の頃に、これの色違いのオレンジジャンパーとジェム集めの為に戦った時、クーヘンと二人して本気であざだらけになったんだっけ……。
大丈夫かなあ。リナさん達って小柄だから、亜種のでかいのに本気でぶち当たられたらマジで吹っ飛ばされそう。
離れたところから見ながら、もしも本当にそんな事になったら、一応助けに入るつもりで腰の剣を左手で押さえた。
「よっしゃ〜! 来た〜!」
しかし、そんな俺の心配をよそに、巣穴からあふれ出すピンクジャンパーを見たアーケル君が、めっちゃ嬉しそうな声でそう叫んで拳を握りしめた。
そして腰に装着している剣を抜き、目の前に掲げるようにして突き出したのだ。
「風よ切り裂け!」
そう叫んだ瞬間、剣の切っ先から竜巻以外の何者でもない、すごい風の塊が吹き出したのだ。
しかし、その風や竜巻はかなり範囲が限定されていて、離れている俺達の所には全くと言って良いほど風が吹いてこない。
竜巻は、彼に向かって飛びかかって来たピンクジャンパーを根こそぎジェムに変えていく。
それはあまりにも一方的で、ちょっと見ていてピンクジャンパー達はかわいそうになるくらいの雑魚扱いだったよ。
これは駆逐、いや、駆除って言ったほうがいいレベル。うん、もうそれ以外の表現のしようがないくらいに一方的な力の差による蹂躙だったよ。
そして考える……この力の差による一方的なまでの蹂躙っぷりはどこかで見たことがある。
しばし考えて思い出した俺は遠い目になったよ。
これって、あの地下迷宮で翼竜の群れを一発で駆逐した、ベリーの使った風の術のミニマム版じゃんか。って事は賢者の精霊と同レベルの術を使えるって事だよな。草原エルフ、怖いっ! 絶対怒らせないようにしようと心に誓う俺だった。
「おお、これは見事だ」
「全くだな。ここまで見事な竜巻は久し振りに見るぞ」
「いやあお見事。久し振りに良いものを見せてもらったな」
完全に観客気分のハスフェル達は、のんびりとそんな事を話しながら眺めているだけだ。
ちなみにリナさんとアルデアさんは、アーケル君から少し離れた左右に展開して、竜巻から逃げ延びたピンクジャンパー達をこれまた容赦なくぶった斬っていた。
しかも、これもまた剣を抜いてはいるが全て風の術によるぶった斬りで、かまいたちっていうんだっけ? 剣を振ると一瞬空気の揺らぎみたいな筋が太刀筋に沿って飛ぶのが見えて、その直後にその線上にいたピンクジャンパー達が見事に真っ二つになってるという、これまた恐ろしい技だったよ。
術の効果範囲は、多分5メートルくらい。
従魔達が離れて戦ってる意味がよく分かった。
あれは迂闊に近寄ると、こっちがバッサリいかれるパターンだよ。
旅の道中で一緒に戦うような事があれば、絶対に気を付けよう。
基本物理攻撃一筋の俺なんて目標のジェムモンスターに近寄らないと戦えないんだから、絶対彼らの術の範囲には近寄らないようにしないとな。
内心では相当ビビりつつも、平然とした顔で彼らの戦いを見ていると、ようやく一面クリアーが近くなってきたみたいで、ピンクジャンパーの出現数がガクンと減り始めた。
ここでようやく物理攻撃に切り替えた三人は、これまた見事な剣さばきで跳ね飛んでくるピンクジャンパーを次々に叩き斬っていく。
しばらくすると、もう完全に一面クリアーしたらしく、とうとうピンクジャンパーの出現が止まった。
足元には敷き詰められた砂利みたいに、ピンクジャンパーのジェムがゴロゴロ転がっている。
「じゃあ集めるね〜!」
スライム達がそう言って次々に跳ね飛んだり転がったりして散らばっていく。
「じゃあ後でまとめてリナさん達に渡してやってくれよな」
「了解で〜す!」
アクアの元気な返事が聞こえて、笑って手を振った俺は一番大きな、以前繋ぎの子が出てきた巣穴を覗きに行った。
「ジェム集めはスライム達に任せておけば良いですよ、後でまとめてお渡ししますから、まずはこっちへ」
俺の呼びかけに、ジェムを拾っていたアーケル君が目を輝かせてこっちへ走って来る。
途中にリナさんの腕を引いて一緒に走って来るあたり、彼は気配りのできる良い奴なんだなと思ったね。
二人の後ろから心配そうなアルデアさんもついて来て、三人も俺と一緒に巣穴を覗き込んだ。
「ああ、かっ……可愛い!」
穴から這い出してきた小さな繋ぎの子を見て、アーケル君がそう叫んで膝から崩れ落ちる。
しかし、リナさんはその小さなピンクジャンパーを見つめたきり、固まったかのように動かない。いや、動けないのかもしれない。
リナさんの顔色は、真っ青になっていたのだ。
「母さん、やらないなら俺が先にテイムするぞ」
へえ、アルデアさんは親父って呼ぶのに、リナさんの事は母さんって呼ぶんだ。
妙なところで感心していると、その呼びかけに我に返ったらしいリナさんが身震いしたあと、両手で自分の身体を抱きしめて大きく深呼吸をした。
「行っておいで、大丈夫だ。きっと上手くいくよ」
怯えたように後ずさるリナさんの背中に手をかけて、アルデアさんがそう言ってゆっくり前に押し出す。
数歩前に進み出たところで、いきなり足元にいた小さなピンクジャンパーを右手で鷲掴むとそのまま顔の前まで一気に持ち上げた。
おいおいリナさんってば、取り押さえる時の扱いが俺より乱暴かも……。
しかし、そのピンクジャンパーを掴んでいる手が小さく震えているのに気付き、俺はからかうのをやめて息を潜めたまま彼女の言葉を待った。
目の前まで持ち上げたピンクジャンパーとしばし見つめ合っていた彼女は、もう一度身震いするみたいに大きく体を振るわせると、震える口を開いた。
しかし、声が出てこずに空気が抜けるみたいな音がするだけだ。
彼女の呼吸がその度にどんどん早くなるのが分かって、さすがにこれは止めた方がいいんじゃないかと俺が一歩足を踏み出した途端に、大きく息を吸ったリナさんは悲鳴のような大きな声で叫んだ。
「わ、私の、私の、仲間に……仲間になれ!」