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まずは小手調べから

「ごちそうさまでした。どれも本当にすっごく美味しかったです!」

 四個のキャベツサンドを完食して、他にもいくつもサンドイッチや揚げ物を食べていたアーケル君は、俺を見ながら、満面の笑みでそう言って空になったお皿を見せた。

 ううん、アーケル君は小柄な体に似合わず意外に大食漢だ。リナさんやアルデアさんよりも多分沢山食べてるんじゃないか?

 だけど大丈夫だよ。人数が増えて消費が増えるのは、予想の範疇だ。

 たっぷりと買い置きしてある作り置きの料理の数々を思い出して、俺は内心で安堵していた。

「はい、お粗末様。じゃあ少し休んだら出発するか」

 ご馳走様の声を聞きながら笑ってそう言い、空になった食器を片付けていく。机や椅子を片付けるのは、また皆が手伝ってくれた。




「さてと、俺達の従魔達の脚なら、日が暮れるまでには目的地のカルーシュ山脈の奥地の手前にある境界線前の安全地帯まで行けるだろうから、まずはそこで一泊するのが良いのかな?」

 マックスの背中に乗り、またさっきと同じ従魔達に駆け寄るリナさん一家を見ながらハスフェルに話しかける。

「ああ、その事なんだが、まだ時間はありそうだからな。それまでの道中で何かの従魔を一度は彼女にテイムさせておくべきじゃあないか。今回の狩りは時間制限がある上に、目的は彼女に強い従魔をテイムさせる事だ。万一にも奥地で出会ったオーロラ種の強力なジェムモンスターを相手にして彼女が怖気付くような事があったら大変だからな」

 ニニに話しかけているリナさんを見ながらのハスフェルの言葉に、俺も納得して頷く。

「確かにその通りだな。あそこのジェムモンスターの強さは半端ねえもんなあ」

 俺のオーロラグリーンタイガーのティグや、ランドルさんのオーロラサーベルタイガーのクグロフをテイムした時の事を思い出してちょっと遠い目になる。

「どうする? どこかに良さげなジェムモンスターっているか?」

「そうだなあ。どうするかなあ」

 シリウスに乗ったままハスフェルが腕を組んで考え込んでいる。

 俺達がまだ出発しようとしないから、それぞれの従魔に乗ったリナさん一家は不思議そうに俺達を見ている。

『なあ、この辺りにリナさんがテイム出来そうな従魔っていないかな?』

 念話のトークルーム解放状態で、ギイとオンハルトの爺さんにもそう話しかける。

 顔を見合わせた二人も少し考えた後、ギイが手を打つ。

「それなら良さそうなのがいるから案内するよ。小手調べと行こうじゃないか」

 そう言って、リナさん達の方を振り返った。

「リナさんは、犬科と猫科のどっちが良いですか?」

 どこかで聞いたことのある台詞に、俺は思わず目を見開く。

「私はどちらも好きですよ。それがどうかしたんですか?」

 その答えに、ギイは嬉しそうに笑って頷いた。

「このまま一気にカルーシュ山脈の奥地へ向かっても良いんですが、途中にちょっと寄り道していきましょう。犬科のジェムモンスターでも構わないなら、グリーンフォックスの巣があるんです。フォックス種にしてはやや大型ですが、一度の出現数はそれほどではありませんからね。このメンバーなら余裕で行けますのでご安心を」

 グリーンフォックスと言われて、顔色を変えるリナさんだったが、ハスフェルとオンハルトの爺さんはそれを聞いて大きく頷いた。

「ああ、確かにそれは良いな。亜種を捕まえられれば、彼女でも乗れるんじゃあないか」

「うむ、確かに」

 二人がそう言うのを聞いて更に顔色をなくす彼女を見て、俺はちょっと心配になって来た。

 グリーンフォックスってのは戦った事が無いからちょっと分からないけど、名前を聞く限り大型のキツネで間違い無いだろう。彼女が乗れるサイズなら大型犬サイズ以上はまず間違いない。となると戦闘能力もかなり高いと推測される。

 いくら一からやり直す決心をしたとは言っても、百年も全くテイムしていなかったのに、あのスライムのアクアウィータだって知らない内にテイムしたって言っていたのに、それでいきなり大型の肉食のジェムモンスターをテイムさせるのは、いくらなんでも乱暴過ぎるんじゃあないだろうか。

 彼女の手が震えているのが見えて、俺は咄嗟に口を開いた。

「なあ、待った待った。それならいきなり肉食系に行かずに、まずはウサギとかリスみたいな草食のジェムモンスターでテイムさせてみるべきじゃあないか、小手調べってのは、安全なところから始めるものだと思うけどなあ。それにウサギの従魔は絶対一匹は欲しいですよね?」

 最後の言葉はリナさんに向かって、わざと軽い口調で言ってやる。

 俺の言葉に明らかに安堵した様子のリナさんは、一度唾を飲み込んだ後に大きく頷いた。

「確かにグリーンフォックスをテイム出来れば最高だと思いますが、正直言っていきなりテイム出来るかどうか……全く自信がありません」

 最後は消え入りそうなくらいの小さな声で、そう言ったきり俯いてしまう。

 だけどその呟きは全員の耳にちゃんと届いていた。



 何となく、気まずい沈黙が落ちる。



「ふむ、確かにケンの言う事にも一理あるな」

「確かにそうだな。大丈夫だと思っていたがちょっと急ぎすぎていたようだな」

「そうだな。確かにケンの言う通りだ。じゃあ、まずはそうだな……何があるかな」

 顔を見合わせた三人は、そう言ってまた考え込む。

「それなら、マーサさんにテイムしてやったピンクジャンパーなんてどうだ?」

 ふと思いついてそう言うと、ピンクジャンパーと聞いた途端に顔を上げて目を輝かせるリナさんを見て、ハスフェル達が吹き出す。

「よし。じゃあ今日の目標は、まずはピンクジャンパーを一匹テイムする事にするか。リナさん。焦らせるような事を言って申し訳ありませんでした。無理はしなくて良いので、駄目だと思ったら下がってくれて構いませんから」

 ハスフェルにそう言われて、リナさんは笑顔で頷くのだった。



 リナさんの後ろでは、アーケル君がピンクジャンパーと聞くなり彼女と同じくらいに目を輝かせているのが見えて、俺は笑いを堪えるのを必死で我慢していたのだった。

 アーケル君、従魔が欲しければ是非とも自分でテイムしてみるんだな。

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