狩りに出発!
「さて、それじゃあ行くとするか」
俺の言葉に、並んだ武器を眺めていたハスフェル達も振り返った。
「おう、だけど昼はどうする? まだちょっと早いが、何か食ってから行くか?」
確かに、なんだかんだで時間を取られたので予定よりも少し遅くなってる。だけど、昼飯にはちょっと早そうだ。
「それならもうこのまま出かけて、現地へ到着したら何か食って、それから狩りに行くのが良いんじゃあないか? 今日のところは、近場でまずは一匹リナさんにテイムさせるのが目的なんだからさ」
「ええ! もうカルーシュ山脈へ行くんじゃないんですか!」
やる気満々のアーケル君の叫びに全員揃って吹き出す。
「ええ、まずは手慣らしがてら、近場で小さいのを一匹テイムさせようと思ってたんだけど……」
「ええ、俺ももう一度カルーシュ山脈へ行くって聞いたから、準備万端にしてきたのに!」
ちょうど奥からランドルさんが出て来てそんな事を言うので、俺はまた吹き出したよ。
「あはは、何だよ。皆してそのやる気満々っぷりは」
「だって、そう簡単には行けないような場所ですからね。行くと聞いたら張り切りもしますよ」
アルデアさんまでそう言って笑うもんだから、結局そのまま祭り当日まで、またカルーシュ山脈へ行くことになったよ。
ああ、俺の風呂生活が遠くなる……。
せっかくお風呂セットの準備万端整えたのに。しょぼーん。
一人意気消沈する俺に気付かず。やる気満々な一行は、そのままそれぞれの荷物を持って外へ出る。
「気を付けて!」
バッカスさんの声に振り返って手を振った俺は、ため息を一つ吐いて背筋を伸ばした。
「よし、こうなったらここは切り替えよう。祭りが終わったら最後に別荘のお風呂を堪能して、バイゼンで家を買う時は、絶対風呂付きの家にしよう。よし、そうしよう」
自分に言い聞かせるようにそう呟き、最後に店を出る。
「じゃあ、またリナさん達は好きな従魔に乗ってください」
そう声をかけると、前回と同じくアーケル君は迷わずセーブルのところへ、アルデアさんはテンペストに乗りかけたところで後ろからもう一頭のオーロラグレイウルフのファインに頭突きをされて、笑って今度はファインの背に乗せてもらったらしい。
そして、リナさんはまたニニのところへ走って行った。
嬉しそうに喉を鳴らすニニを見て、またちょっと嫉妬の炎を燃やした俺でした。我ながら心の狭い男だねえ。あはは……。
これだけの従魔連れの団体が道を行くと、もうこれ以上ないくらいの大注目だ。
あちこちから声を掛けられて、無視も出来ずに誤魔化すように笑いながら手を振り返したよ。ううん、またしても俺のメンタルがゴリゴリと削られた気がする。
ようやく城門を抜けて外へ出た時には、思わず安堵のため息を吐いたよ。
やっぱり俺は、平凡なモブが似合ってる気がする。
街道の端を一列になって早足で駆け抜けていく。
ここでも大注目を集めたが、さすがに声をかけて来る猛者はおらず、しばらく行ったところで俺たちは街道を離れて林の中へ突っ込んでいった。
この辺りは比較的平坦で、雑木林が点在している程度で草原が広がっているので思い切り走らせてやる事が出来る。
誰が言い出した訳ではないんだけど、どんどんスピードは上がっていき、気が付けば早駆け祭りの参加チームは全員が全力疾走になっていた。リナさん一家は遥か後方だ。
しかも、ほぼ全員が綺麗に横一列になって走っている状態だ。
「ちょっと待ってくれよ。これってどこまで走るんだよ〜〜!」
「あはは、先にゴールを決めるべきだったな」
俺のすぐ隣を走るシリウスに乗ったハスフェルが、笑いながらそんな事を言ってる。
「じゃあ、あの赤い実の成ってる木まで!」
はるか先にかすかに見えている赤い実を鈴生りにつけた巨木が目に入ったので、俺はそう叫んで前方を指さした。
「おお!」
ほぼ同時に全員がそう叫び、さらに加速する。
俺も振り落とされないように体を伏せるようにしてマックスにしがみつき、ものすごい勢いで流れていく地面をちょっとドン引きつつ眺めていた。
「到着〜〜!」
これまたほぼ全員の叫ぶ声と同時に、俺達はその巨木の横を左右に分かれって走り抜けていった。
「うわあ、これまたほぼ同着でしたね。残念ながら、これでは誰が一着だったか分かりませんね」
笑ったランドルさんの声に、俺たちも笑いながら頷く。
「なあ、誰が一番だったんだ?」
マックスの頭に乗って、一緒に駆けっこを楽しんでいたシャムエル様にこっそりと聞いてみる。
「では、結果を発表しま〜す!」
振り返ったシャムエル様が、尻尾を振り回しつつ片手を上に上げた。
「一位がハスフェルで二位がケン。まあこれは本当の僅差だったから、ハンプールのレースの判定基準だと同着一位だね。三位がランドルで、四位がギイ、五位がオンハルトだよ。いやあ、皆本当に早い早い」
手を叩きつつそう言って笑うシャムエル様の声はどうやらランドルさん以外には聞こえているみたいで、ハスフェルは小さく拳を握って喜んでいるし、ギイとオンハルトの爺さんは二人揃って悔しがっていた。
俺も笑って、大喜びで跳ね回るマックスの首元を撫でてやった。
「よしよし、よく頑張ったぞ。さすがだな」
「はい、久しぶりに思いっきり走れました。また走りましょうね!」
尻尾を扇風機状態にしてごきげんのマックスがそう言った時、後方から他の従魔達と一緒にリナさん一家が追いついてきた。
「ねえ、誰が一番だったんですか!」
「彼が勝ったぞ」
追いつくなりそう叫んだアーケル君の声に、俺達は揃って笑って適当にお互いを指差しあい、ほぼ同時に吹き出したのだった。