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クーヘン達からのプレゼント!

「ありがたい事に、細工物も数がまとまった大口の注文などを幾つもいただいてて、郷の若い細工師達にも協力をお願いして、別注品は彼らに量産してもらっているんです」

 廊下を歩きながら嬉しそうにそう言ったクーヘンの言葉に、俺は納得した。

「へえ、そりゃあすごいな、じゃあさっきのがそれな訳か」

 店を振り返りながらそう呟くと、笑顔のクーヘンが頷く。

「あれは、マグノリア通りにある有名な私塾の経営者の方からの注文なのですよ。なんでも塾を開いてちょうど五十年の節目の年なんだとかで、先生方に記念品として配りたいとの事でしたね。知恵の象徴であるフクロウがご希望だったので、いくつか案を見て頂いて決定しました。注文から納品までの期間が短かったので間に合うか心配だったんですが、郷の皆が頑張ってくれたようで素晴らしい品が届きましたね」

 誇らしげなその言葉に、俺も嬉しくなる。



「ほら、これもそうなんです。さっきのと一緒に昨日届いたばかりですよ」

 そう言って廊下の途中にあったさっきの部屋へ寄って見せてくれたのは、小さなコイン状の銀細工のペンダントトップで、まだ紐も付いていないそれがまとめて大きな袋に入っていた。

 これも多分百個以上は余裕でありそうだ。

 横には小さな木箱が並んでいるので、どうやら箱詰めはここでやるみたいだ。

「へえ、すごいな。じゃあ、これも何かの記念品なのか?」

 小さな声で呟くと、クーヘンが嬉しそうに俺を見上げて頷く。

「はい、これはハンプールでは恐らく一番の老舗のノーブル商会が、創業者の生誕二百年を記念してご注文くださったペンダントトップです。ここの金具を変えればブローチにもなりますよ。店の常連のお客様方や取引先の方々向けに記念品を渡したいとご相談くださいまして、相談の結果、創業当時から使っている店の紋章をペンダントにしました。これもなかなか素敵なペンダントになりましたよ」

 笑顔で一つ取り出して見せてくれたそれは、百円玉くらいの大きさの丸いレリーフになっていて、簡略化された女性の横顔に交差する麦の穂が添えられている。コインの周囲には、細かくてちょっとよく見えないが、ぐるっと一周小さな文字が彫り込まれていて、これもなかなかに見事な細工だ。

 あれを記念品だと言って貰えたら、きっと皆大喜びするだろうと思えるくらいに、それは素晴らしい出来栄えだった。



「あれ、この紋章ってどこかで見た事があるぞ。ああそっか、あれだ」

 見ていて、それが見覚えのある紋章であるのに気付いて思わずそう呟く。

 それはセレブ買いで大量に食料を買った際にお世話になった店の、品物を運ぶ際に使っていた箱に入っていた紋章と同じだったのだ。

「食品だったらなんでも扱ってると豪語したあの店だったのか。へえ、こりゃあ凄えや」

 感心したようにそう呟き、ペンダントトップをクーヘンに返す。

 倉庫には、それ以外にも幾つもの袋や形の違う箱が積み上がった山があって、どうやらジェムだけではなく、俺が思っていた以上に細工物も人気になっているみたいだった。

「良かったな」

 俺まで嬉しくなってそう呟くと、クーヘンもこれ以上ないくらいの笑顔で頷いてくれた。




 その後、案内されて行った部屋は何と台所で、ちょうどネルケさんが料理の仕込みを始めていたところだった。

「ああ、ケンさん、来てくれたんですね」

 大きな鍋をかき回していたネルケさんが、俺の顔を見て満面の笑みになる。

義姉(ねえ)さん、ケンさんに渡してやってくださいますか」

「了解、ちょっと待ってね」

 笑ってそう言うと、一旦鍋に蓋をして火から下ろし、台所の隅に置いてあった大きな袋を二つ持ってきた。

 一つは見覚えのある食材用の温度変化の無い収納袋だ。もう一つのこれも、おそらく保存出来るタイプの新しい収納袋なのだろう。

 見ていると、そこからネルケさんは大皿に乗せた山盛りのソーセージを幾つも取り出して机に並べ始めた。

「ケンさん。貴方にお渡ししようと思って一家総出で沢山作ったんですよ。ケンさんの収納は時間停止なんだって聞きましたからね、どうぞありったけ持って行ってください。茹でてスープにするも良し、そのまま弾けるまで焼いてパンに挟めばそれだけで立派な一品になりますからね」

 得意気に胸を張るネルケさんの言葉に、俺は驚きに目を見開いて山盛りのソーセージを見つめた。

「それからこっちは、細めのソーセージを燻製にしたものです。これも茹でたり焼いたりしていただけばそのまま食べられすよ。さっきのとはまた風味が違いますから、楽しんでいただけると思いますね」

 最初の見覚えのある方の袋から取り出したそれは、いつもの太くて長めのソーセージと違って、細くて短めのソーセージだった。しかも、燻製にしてあるとの言葉通り薄茶色になったそれは、俺が元の世界でもよく買って食べていた、ドイツの都市の名前がそのままついた高級ウインナーそのものだった。



「ええ、こんなに沢山頂けませんよ」

 まだ次々に出てくるソーセージの山を見て慌ててそう言ったが、クーヘンとネルケさんは笑って首を振る。

「何を仰っているんですか。前回の早駆け祭りの時、ケンさんから高級肉をどれだけ頂いたか私は忘れていませんよ。こんなものではお返しにもなりませんが、皆さん肉がお好きだと伺いましたので、きっと喜んでいただけると思って大張り切りで作ったんです。断られたら泣いてしまいますよ」

 真顔でそう言った後、二人揃って泣く真似をする。

 ここまで言われて断るのも確かに失礼だろう。

 考えてみたらウインナーやソーセージってあんまり買っていなかったから、これがあればまた違ったメニューが楽しめそうだ。

「分かりました。ありがとうございます。それじゃあ、遠慮なく全部いただきます」

 大きく頷いた俺は、ちょっと考えて鞄に入ってるサクラから、使っていないバットを取り出してもらい、そこに種類別にソーセージを並べていった。

 ネルケさんも手伝ってくれたので、手分けしてどんどんバットに並べては収納していき、しばらくすると山ほどあったソーセージは綺麗さっぱり無くなっていた。

 聞くと定番のハーブ風味だけじゃなく、チーズ入りや唐辛子入り、黒胡椒風味など味の変化もあってしばらく楽しめそうだ。

「いやあ、本当にありがとうございました」

「それとこれは、そのソーセージを使ったポトフのレシピです。ハーブの配合がちょっと独特なのでね。それからこれも良かったら持って行ってください。そのポトフに使う我が家秘伝の配合調味料です。煮込み料理だけでなく、肉を焼くときに使ってもらうとまた違った風味が楽しんでもらえますよ。特に鶏肉との相性は抜群です」

 そう言って自慢気に差し出してくれたのは、ポトフのレシピが書かれたメモと、大瓶に入った配合調味料だった。



 さすがは料理上手なネルケさん、俺が喜ぶものをよく知っているよ。



「うわあ、嬉しいです。ありがとうございます。じゃあこれも遠慮なくいただきますね」

 笑顔で受け取ると、クーヘンとネルケさんは安堵したように笑って顔を見合わせた。

「だから言ったでしょう。下手にお金なんかを渡すより、こっちの方が絶対に喜んでくれるって」

「そうだったみたいだねえ。でも本当にこんなのでお礼になるのかい? ソーセージも調味料も、値段にすれば微々たるもんだよ。頂いた肉の一塊にもなりやしないって」

 戸惑うようなネルケさんの呟きに俺は納得して笑っちゃった。そうか、このプレゼントはクーヘンのプロデュースか。

「いやいや、めっちゃ嬉しいですよ。あのポトフも本当に美味しかったですからね。是非作らせていただきます」

 笑顔で断言する俺を見てクーヘンがドヤ顔になり、何故か俺達は揃って拍手をしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] じっくり茹でたそうせいぢに、好みの薬味でばりっとかぶりつき、ぐいーーーーっといっぱい …今夜はソーセージにします。゜(゜´Д`゜)゜。
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