別注品
「そしてやっぱり人が並んでるなあ」
クーヘンの店へ戻ったが、相変わらず人が途切れることなく並んでいる。オープンの時ほどの大行列になるほどではないが、常に十人前後が減る事なく並んでいる感じだ。
とは言え、並んでいる方ももはや慣れたもので、特に混乱も無く、お互いに声をかけあっては順番に並んでいる。
並んでいる最中も前後の人達同士で井戸端会議状態になってるのを見ると、あれもまた楽しいんだろうなと思わせる光景だった。
今回はそのまま店の横へ周り、従魔達を厩舎で待たせておいて、差し入れのお菓子も一旦収納してからスライムだけは鞄に入ってもらった。
そして裏口から店に入ろうとしたら、何と鍵が空いていて驚いたよ。
「おいおい、開けっ放しで大丈夫……みたいだな」
つい習慣でそのまま開けたら、扉が簡単に開いてしまい驚いてそう呟くと、直後に誰かが俺の背中に頭突きをしてきた。
これまた驚いて振り返ると、クーヘンの従魔のレッドクロージャガーのシュタルクが、巨大化して俺に擦り寄ってきたところだった。
首輪はしてあるとは言え、このサイズの猛獣が裏庭に放し飼いになっている家に泥棒に入る猛者はいないだろう。
納得して苦笑いしつつ、甘えてくるシュタルクを撫でてやった。
「おお、シュタルクはフォールよりも全体に毛の量が少ないんだな。撫でた感じがちょっと違うぞ」
フォールの方が、なんと言うかもっさりした感じで撫でた時に短毛のもこもこって感じなのだが、シュタルクはもっと滑らかで、毛が体に張り付いてる感じがする
「へえ、同じレッドクロージャガーでも個体によってこんなに差があるんだな。面白い」
そう言って笑いながら、しばらくの間いつもとは違ったもふもふを楽しみ、満足したシュタルクが裏庭へ戻って行ったのを見送ってから俺も家の中へ入った。
「お邪魔しま〜す」
黙って入るのも心苦しかったので、一応大きめの声でそう言って中に入る。
「ああ、いらっしゃい。すみませんが、あっちの部屋でちょっとだけ待ってていただけますか」
丁度細工物の一時在庫を置いている部屋から、幾つもの細長い小さな箱を抱えたクーヘンとお兄さんのルーカスさんが出てきて、俺に気がつき慌てたようにそう言う。
「運ぶのかい、手伝うよ」
クーヘンの持っている箱をそのまままとめて受け取り、クーヘンがルーカスさんが持っていた箱をいくつか分けて受け取り一緒に運んだ。多分五十個くらいはありそうだ。
「手伝わせてしまって申し訳ありません。まとめて注文が入ってしまいまして、ちょっと予定の時間よりも早く引き取りに来られたので、まだ店に持っていっていなかったんですよ」
申し訳なさそうに謝ってくれるので、俺は笑って首を振った。
「気にするなって、商売繁盛で良いじゃないか」
「本当にそうですね。ありがたい事です」
嬉しそうなクーヘンの言葉に、ルーカスさんも笑顔で頷いていた。
クーヘンの後について店まで行き、そのままレジ横のカウンターに持ってきた箱を並べる。
その中の一つの蓋を開いて、ルーカスさんが待っていたお客さんに説明を始めた。
どうやらシンプルだけどフクロウの形のモチーフペンダントらしく、ここからでも小さなそれが見えて思わず笑顔になる。
小さな物だが、あれだけの数があればかなりの値段になるだろう。
「お届けも出来ますが、このままお渡ししてよろしいんですか?」
ちょっと心配そうなルーカスさんの言葉に、待っていたお客さんは笑顔で首を振る。
「皆早く見たくて教室で待ち構えているんですよ。ありがとうございます。最高の記念品になります」
満面の笑みの男性がそう言い、お金を払って持ってきた木箱の中にペンダントの入った箱を入れていく。
どうやら荷馬車で来ていたらしく、表に小型の荷馬車が止まるのが見えた。
ルーカスさんと手分けして箱を抱えたその男性は、これ以上ない笑顔でもう一度お礼を言って店を出て行った。
「ありがとうございました!」
お客様を見送るクーヘンの声に、条件反射で俺も一緒に挨拶しちゃったよ。店で誰かが挨拶すると、唱和するのが量販店のお約束だったもんなあ……。
「お待たせしました。じゃあ奥へどうぞ」
ちょっと懐かしい記憶に黄昏れていると、笑顔で振り返ったクーヘンがそう言いそのままレジに入ったルーカスさんと手を叩き合って下がった。一礼した俺もクーヘンの後について下がる。
廊下へ出て、そのまま歩くクーヘンの後を歩きながら、もうすっかりこの街に受け入れられているクーヘンとこの店を見て、俺はちょっと密かに感動したりなんかしていた。